ブルーに想いを捧げてリスタートを飾る初のフル・アルバム

曲作りがモチヴェーション

 「タイトルの『VILLA』は〈別荘〉っていう意味で、現実からちょっと離れた場所で、私の曲をリラックスしながら楽しんでほしいなっていう思いを込めて付けたし、私にとっても自分の音楽って別荘みたいな感じなんです。現実と重ねて、例えば悲しい時に聴くみたいなのも全然いいんですけど、それよりは、ちょっと異次元に連れていく要素のある音楽をやってるっていう部分も自分の中にあるので、そのイメージを詰め込んだ感じですね」。

HALLCA VILLA Magellan-Blue(2019)

 2017年3月のEspecia解散からおよそ1年半、HALLCAがついにフル・アルバム『VILLA』の完成へと漕ぎ着けた。昨年のソロ・デビューEP『Aperitif e.p』でリスタートした直後、諸事情から急ブレーキがかかる事態に見舞われて「絶望を味わった」という彼女だが、その背を押してきたのは自身の表現そのものだったという。

 「去年の9月にいろいろあって落ち込んでたんですけど、11月にはライヴも決まってきてたので、そこで〈あ、新曲を作らなきゃ〉っていう気持ちになって。その頃は持ち曲が4つしかなかったから、いつも同じ曲をやらなければいけないのでライヴがけっこう恐怖だったんですよ(笑)。本気で〈もうやめよう〉って考えたことはないけど、いま思うと、そういうお話や反応もゼロとかやったら、それこそ続けられへんかったなって思います」。

 ある種の必要に迫られて曲作りを進め、そこで最初に生まれたのが〈昨日からのエスケープ〉を謳歌する煌びやかなディスコ・チューン“WANNA DANCE!”だった。

 「“WANNA DANCE!”はもう題名に表れてる通りですね。EPの4曲が、踊らせるよりかは周りを包み込むアンビエント・サウンドみたいな感じやったんで、ライヴでアクセントになる曲が欲しいなって思って、PellyColoさんに〈めちゃめちゃ踊れる曲にしてください〉って依頼してトラックを作ってもらいました。曲が増えていくと私自身もやっぱ楽しいし、観てくれてるお客さんからも良い反応を貰って。そこもモチヴェーションになりましたね。〈また作ろう〉みたいな」。

 

自然に自分から出てきた表現

 結果的に再生のプロセスにもなった楽曲制作は、今年2月から5か月連続でのデジタル・リリースへ繋がっていく。そして、それらの配信曲にEP収録曲や新曲、リミックスも加えてまとめたのが今回のフル・アルバム『VILLA』というわけだ。Especia時代から旧知のPellyColoとRillsoulがそれぞれアレンジャーとして援護する体制はデビューEPと同じだが、楽曲はすべてHALLCA自身が作曲にも携わるようになったため、必然的に創作の行程は以前と大きく異なっている。

 「曲の作り方は変わりましたね。私がメロディーと歌詞を先行して作って、それを後からアレンジしてもらうっていうのがPellyColoさんとの作り方で、逆にRillsoulさんの曲はトラックを先に貰って、そこに私がメロと歌詞を付けるっていう流れです。いまは作曲のほうが楽しいんですよ、作詞より。何でだろう? 自分が歌っていて昂る感じとかをメロディーに詰め込めた時が凄い嬉しいっていうか、作ってる時も楽しいし、ライヴで歌うのも楽しい。やっぱり自分の中から出てきたメロディーやと歌いやすいし。だから、今後は逆に作詞を誰かに依頼したいって感じです(笑)」。

 アルバム収録曲のうちPellyColoがアレンジしたのは先述の“WANNA DANCE!”に加え、スムースな“Show the Night”と親密な雰囲気のミディアム“モイスチャーミルク”。いずれも伸びやかな旋律が印象に残る好曲だ。

 「メロを先に作る場合、だいたい最初は鼻歌からですね。ホントに半身浴しながらとか(笑)、自然に自分から出たものをボイスメモに〈あっ、こんな感じいいかも〉って録っていって。けっこう誰かのライヴ観た後とかに意欲が高まって、帰ってお風呂に入りながら録音しちゃうとか。“WANNA DANCE!”はそうやって作りました。“モイスチャーミルク”の場合は歌詞が先行で、冬に作ったんですけど、CMとか観ながら〈モイスチャーミルク〉って響きが凄い可愛いなと思って、その言葉のイメージが最初にあって、そこから〈生活に潤いを〉みたいに膨らませていった歌詞にメロを付けた感じですね。いろんな順番で作ってるから、〈どの方法がいちばん良い曲作れるんやろ?〉とか、だんだん自分のなかでもわかってきました」。

 一方、トラック/アレンジ先行で仕上げられたのが、Rillsoulの手掛けた“burning in blue”と“Utopia”。メロウで内省的なアコースティック調の前者に対し、Blackstone village(Rillsoulが所属する大阪のクルー)によるシャープなビートが駆けるハウシーな後者はクールな仕上がり。いずれも音数の少ないアレンジが抑制の効いた歌唱の魅力を際立たせている。

 「Rillさんに関しては、あんまり〈こういう曲調にしたい〉っていうのを伝えなくて、けっこうお任せでしたね。逆に〈こういう感じとHALLCAの世界観を融合させたいんだ〉って提案してもらって、〈めっちゃ良いですね〉ってなって、話が進むって感じでした。“burning in blue”はRillさんの曲がもうあったところに、Cメロの感情の先を歌いたくてDメロを足したりして出来ましたね。トラックが先にある場合はコードも決まってくるので、私から湧き出たものというよりはトラックに誘導されてメロが出てくる感じで、自分では思い付かないようなメロが出来てきたりするし、いろいろ発見がありました」。

 

歌いたいなら歌えばいい

 そのように行程はさまざまながら、通して聴けば各曲が一貫した調度品のように感じられるのは、やはり主役の持ち味を熟知したクリエイター陣が音のデザインを手掛けているからかもしれない。で、その並びにある種の懐かしさとさらなる新鮮さを注ぎ込むのが初出の“コンプレックス・シティー”だ。ブラスの意匠も眩しいハイファイな都市型ファンクを手掛けたのは、昨年手掛けた上坂すみれ“ノーフューチャーバカンス”で話題を呼んだ東新レゾナントだ(もう衆知の事実ながら……野暮は申しません)。

 「まあ、曲を聴けばもうわかる人はわかると思うんですけど(笑)。東新レゾナントさんは、もともとEspeciaでお世話になったLUVRAW(鶴岡龍)さんが私の企画ライヴに出てくれることになった時に観に来てくれたんです。かなり久しぶりの再会だったんですけど、その日は普通に楽屋で喋ってて(笑)。〈普通に喋ってくれるんや〉と思ってたら話の流れで曲を貰えることになって、アレンジ済みの楽曲に私がメロディーを付ける形で完成したのが“コンプレックス・シティー”です。ヴォーカル・ディレクションもしっかりしてくれて、久しぶりに一緒に作ったなって感じがしました」。

 自身のキャリアに対する誇りと愛はEP初出の“Milky Way”などに綴られている通りだし、自身のレーベル名をMagellan-Blueとした意図からも明白なだけに、この采配にはちょっとグッとくるものがある。と同時に、そうした曲を現在の彼女が歌うことで、この期間に培われた確かな成長を感じることもできるのではないだろうか。

 「そうだったら嬉しいですね。何だろう、いままでは〈Especiaみたいな音はいけない〉みたいなこだわりが自分の中にあったんですけど、東新レゾナントさんにトラックを貰った時に、良い意味で変わらない〈らしさ〉が溢れてるのを感じて、〈あ、めっちゃEspeciaやん!〉って。そのことで私も解き放たれたっていうか、だから歌いたいっていう気持ちになったんですよ。変に考え過ぎなくても、やっぱ良いものはずっと良いし、歌いたいなら歌えばいいやって凄い思えたんですよね」。

 さらには2曲のリミックスも収録。Rillsoul作のEP収録曲“guilty pleasure”がBlackstone village(Rillsoulが所属する大阪のクルー)によって大きく印象を変えているほか、mel houseとしてEspecia曲のリミックス経験もあるYohji Igarashiが“Diamond”をヒップホップ味も濃い攻めのダンス・トラックに改編している。

 「“guilty pleasure”はRillさん的にもオリジナルでちょっとやり残したことがある感じだったらしくて、思いっきりイメージを変えたかったみたいで、クラブっぽい感じになりました。Yohjiさんはいまイケてる感じのDJのイヴェントに出たりとかしてて、私が隔月で主催してる〈TIPSY BAR〉っていうイヴェントに出ていただく時のために作ってもらいました」。

 

ずっと続けていきたい

 リミックスも含めた全編を通じて伝わるのは、クラブ的でもありベッドルーム的でもある、HALLCAならではのスムースで心地良いフィーリング。冒頭の発言にもあるように浮世から離れた地平で広がるサウンドは、まさしく『VILLA』という名前に相応しいものだとも言える。ただ、その音世界には彼女らしい視点が潜んでもいる。

 「やっぱり私の書く歌詞って全部が能天気とか幸せとかいう感じではなくて、自分の経験からくる苦しみとかも落とし込んだりしてるので、そこを良いバランスにしたいなって感じですね。だからこの『VILLA』のアートワークももっと明るいシティー・ポップみたいなジャケとかにできたんですけど、ちょっとフラミンゴを影にしたり、夕方なのか昼なのかわからない空の色だったり、ちょっと不思議な世界観を表現したくて、現実ではない感じにしました」。

 そのように、自身のアクションが起点となって、楽曲のテイストからヴィジュアル、隅々に至るまで彼女自身のセンスとアイデアで組み立てられた『VILLA』。サウンド的にもソロ・デビュー以前からの連続性が感じられる仕上がりは、ここまで7年活動してきたHALLCAにとっての現時点での集大成と言っていいのかもしれない。

 「そうですね、いまの私だからこそ出来た作品だと思うし、いままでの私のすべてを詰め込んだみたいなアルバムになりました。いまは自分から動かなければ何も進まないし、こうやって一曲一曲、ホントに重い一歩を踏んできてアルバムが完成するという経験も初めてだったので、昔もそりゃ本気でやってましたけど、ホントに重みとか思いも違うし、作ることに対しての本気度が違うというか、責任感も増した感じがしますね」。

 リリース後の11月2日には待望のワンマン・ライヴ〈Aperitif at my VILLA〉も開催。企画イヴェントという形でのライヴは継続的に開催してきたが、純粋なワンマンは初めてで、しかも初のバンド・セットでのパフォーマンスとなる。並行して楽曲制作もコンスタントに行っている様子なので、ここから続いていくであろう動きにも期待したいものだ。

 「ずっと〈がんばるぞ!〉〈売れるぞ!〉って思ってやってきて、自分も何かと比べては常に〈勝ちたい〉みたいに考えてしまうところはあったんですけど、活動のスタンスも変わって、何が〈勝ち〉かっていうのも人それぞれやし、最近はオンリーワンのほうにいけるように気持ちをシフトチェンジしてます。演者としてだけじゃなく制作することが楽しい自分もあるので、いい感じに中和されてきたというか。なので、漠然としてるけど、やっぱり長く続けていくっていうのが目標かもしれないです、これから先。そのなかで小さくてもいいからひとつひとつ目標を見つけていって、ちょっとずつ成長して、ずっと続けていけたらなって思います。ただ、ソロ・デビューして1年経って、どんな状況でも止まらずにちゃんと続けられたことが自分の中では凄く大きいから、〈たぶんこの先もやっていけるな〉っていう確信は、ちょっとずつ強くなってますね(笑)」。

HALLCAの2018年のEP『Aperitif e.p』(WAVERIDGE)

 

左から、Especiaの2017年作『WIZARD』(Bermuda)、東新レゾナントが参加した上坂すみれの2018年作『ノーフューチャーバカンス』(キング)、Yohji Igarashiが参加した原田知世の2019年のシングル“コトバドリ”(つばさレコーズ)