
浮き沈みを経験してさらに深みと輝きを増した宝石のような言葉とグルーヴ――待望のセカンド・アルバム『PARADISE GATE』は新しい日の始まりを告げる!
楽しみ続ける方法
念願のアルバム『VILLA』を世に出し、フルバンドでの素晴らしい初ワンマン開催を実現したのが2019年の11月。それから2年を経てHALLCA待望のセカンド・アルバム『PARADISE GATE』が届いた。その間には共作/共演したkiarayuiの“Strawberry Moon”を皮切りに、yucaやwaiaiとのコラボ、Tsudio Studio曲への客演、はるかりまあこ名義のEPに至るまで、多彩なリンクの成果も披露してきたわけだが、本人の中ではコロナ禍において気持ちの揺れも当然あったようだ。

「いまはこのセカンド・アルバムを出せるからルンルンしてるんですけど(笑)、やっぱり沈んでる時もありましたね。欲を言えば年1枚のペースで作りたくて、もともとは2020年に出したいなって思っていました。4月に“Twisted Rainbow”と“Pink Medicine”を出して、また秋頃にアルバムを出そうと計画していたけど、状況が変わりすぎちゃって。ずっと家にいた4月5月にはけっこう気合い満々で“Precious Flight”と“Sweet Pain”を書いて、PellyColoさんにアレンジをお願いもしてたんですけど、〈がんばりたいな〉と〈無理なのかな〉っていうどっちの気持ちもあって、やっぱりその先までは行かなかったですね。もちろん作品を出そうと思ったら出せるし、ライヴもしようと思えばできるじゃないですか? 実際に去年も11月にワンマンはやったんですけど、終わった後に〈あっ、やっぱりコロナ前とは違うんや〉って私がショック受けちゃったんですよ。最初のワンマンが200%ぐらい楽しかったので、自分の中のハードルが上がりすぎちゃってたのもあると思うんですけど」。
それでも気持ちを切り替えられたのは、創作への思いはもちろん、応援してくれるファンやリスナーの存在が大きかった。
「やっぱりいちばん大きいのが毎週やってるYouTube Liveなんですけど、ライヴの本数も減ったなかでファンの方が観てくれて、応援してくれるみんなとコミュニケーションを取れるのがホントに楽しくて。状況が変わっても楽しみ続ける方法を自分で見つけていけるようになった気がするし、そういう場があったから乗り越えられた感じがあります」。
そうした励ましも糧にして制作もマイペースに再開。クラウドファンディングによる初ヴァイナル『Private Paradise』も経て、今回のアルバムに漕ぎ着けたというわけだ。PellyColo、Rillsoul~Blackstone Village、東新レゾナントという鉄壁のアレンジャー陣も、彼女のヴィジョンを具現化すべく、引き続き手腕を発揮している。大まかにいえば、初ワンマンの達成感を受けてコロナ禍の前に書かれた昨年の配信曲、自粛期間に生まれた前述の2曲、それ以降の楽曲といった時系列で区切ることもできるが、結果的に制作が長いスパンに及んだことで、音の風景も描かれる感情も多彩になった。
「前作は配信シングルを集めて、新曲の“Complex City”とリミックスを加えた形だったんですけど、今回はもっとアルバムに向けて曲を作ってきた感じがありますね。アレンジャーはめちゃめちゃ信頼してる皆さんにお願いしてるので、サウンド面は前作よりもお任せした部分が多くて、今回の私はどっちかと言うと、歌詞に魂を込めました。私のファンの方ってサウンドをメインに聴いてくれる方が多い気がするので、注目度的には歌詞がいちばん最後かなと思ったりもするんですけど(笑)」。
いまだからこそ歌える内容
そんな『PARADISE GATE』の扉をフュージョン気分の意匠で鮮やかに開く“Precious Flight”は、PellyColoのクロスオーヴァー全開なアレンジが光る朝焼け系の一曲。プレシャスな空の旅へ誘う雰囲気はジャケともリンクして、アルバムの搭乗口としての役割を果たしている。
「これはリファレンスもなく、歌詞とメロに仮のコードを付けてPellyColoさんに渡して仕上げていただきました。Aメロ~Bメロ~サビみたいな構成じゃない、少し変わった展開になって、たぶん歌としては弱いかもなんですけど(笑)、予想もしてなかったアレンジでカッコ良くしてもらったので、これはホントにPellyColoさんあってこその曲ですね。歌詞では〈追い求める理想とは違っても、君さえいればこの人生はプレシャスなんだよ〉っていう意味を込めています」。
同じくPellyColo編曲の“Sweet Pain”も同時期に生まれた曲で、こちらは伸びやかな歌い回しと大らかなメロディーラインが、自然体のHALLCA節で実に心地良い。
「これはキーボードを弾きながらとかでもなく、普通に寝る前に鼻歌で書いたような曲で、ホントにすぐ出来たんですよ。だから、自分の中のメロディーが素直に出た曲かもしれないです」。
その他の楽曲はアルバムの輪郭を見据えながら仕上げられたもの。「歳を重ねたいまだからこそ歌える内容」という歌詞も印象的なタイトル曲“Paradise Gate”は弾けるビートと小気味良いホーンが牽引するアップで、東新レゾナントの都会派サウンドとHALLCAの相性の良さもオリジネイターとしての余裕を見せつける。
「“Paradise Gate”はいちばん最後ぐらいに貰ったのかな。これは東新レゾナントさんのトラック先行で私がメロと歌詞を付けたんですけど、聴いた瞬間に〈あっ、アルバムの表題になるような曲だな〉って思ったんですよ。それで、この曲名とアルバム・タイトルを一緒に決めました。ノリ的にもこの曲でアルバムがまとまった感じはあって、東新レゾナントさんの曲があるとやっぱりアルバムが締まるというか、全体がヴァラエティー豊かな感じになったかなって思います」。
東新レゾナントによるもう1曲“Spiral”も彼らしいグルーヴィーな仕上がりで、意外にもソロではありそうでなかったバリバリのジャズ・ファンク。これは日常生活における人間関係の難しさやコロナ禍の状況への鬱憤を男女関係に置き換えて描いたものだそう。
「そういう実体験があるわけじゃないです(笑)。ここ数年の苛立ちみたいなものを男女の話に落とし込んでいて、自分では初めて喜怒哀楽の〈怒〉を詰め込んだ曲になりました。ここまでファンクな感じはソロでは初めてだし、めっちゃカッコ良くて貰った瞬間ビックリしましたね。バンドでやっても映えそうだなって」。
新しい日が始まる
一方、MVも撮られたリード曲“Labyrinth”はRillsoulの作曲/編曲。以前“guilty pleasure”でも演奏していた平岡タカノリ(ドラムス)、角谷光敏(ベース)、小林洋介(トランペット:Calmera)に加え、ライヴでバンマスを務めるクマガイユウヤ(ギター)の小気味良いプレイも交えたジャジーなバンド録音が、幻惑的で新しいHALLCA像を妖しく浮かび上がらせている。
「アルバム全体のバランスを見た時にバンド曲が欲しくて、Rillsoulさんに〈バンド〉っていうワードだけ伝えて作っていただいたのが“Labyrinth”で、Rillさんが仮歌で付けてたメロが好きだったのでそのまま活かさせてもらいました。いつもバンマスしてくれてるクマちゃんと音源で初共演できたのも嬉しいし、たくさんの人が関わってくださって、その意味でも濃厚になったと思います。歌詞は〈こういう一面もあるんだよ〉みたいな、大人な感じ(笑)。人間は一人一人がラビリンスみたいに入り組んでるけど、自分から相手に迷い込んでいくことで人生経験が深まっていくというか。出会いと別れ、愛について歌ってる曲ですね」。
Rillsoulはさらにもう1曲、Blackstone Villageとして“Fall Back Asleep”を手掛けており、こちらは幻想的でディープなダンス・トラックになっている。
「現実で会えない人に夢の中で会おうっていう、ちょっと切ない恋愛の曲ですね。曲自体はコードを変えたりしながらこの形に落ち着いて、作るのに凄い苦労したんですけど、今回のアルバムではいちばんドリーミーな感じを表現できたと思います」。
さらに“Strawberry Moon”はシンガー・ソングライターのkiarayuiと共作したコラボ曲のHALLCA版。高校時代からの親友で近年はライヴのコーラスも務める間柄ながら、音源での共演はこれが初。シンセの煌めく繊細な原曲に対し、ここではPellyColoの手腕によってエレガントな意匠に様変わりしている。
「私の参加したkiarayuiちゃんのヴァージョンが去年の4月に出て、その後に私のも出す話だったんですけど、コロナで予定が組めなくて〈入れるならセカンド・アルバムやな〉と思ってました。yuiちゅん主導でまとめてくれて、歌詞とかメロを投げ合いながら一緒に作った曲です。昔からめっちゃ仲良くて、〈うちらって太陽ってよりは月やん〉みたいな話をしてたので、そこから〈月〉とか〈光〉の描写が多い内容になりましたね」。
そして雨上がりのような幸福感でアルバムを締め括るのは、「いちばん歌詞を読んでほしい」という先述の“Twisted Rainbow”。過去を踏まえた現在の目線から未来への希望を描いた歌詞は書かれた当時の素直な心情だとして、いま聴くとまた違った角度から前向きな救いの言葉のように響いてくる。
「上手くいくことだけじゃない人生なのはみんなそうだと思うけど、やっぱり虹で締めたいなと思って最後の曲にしましたね。今回は一曲一曲に凄い気持ちを込められたし、全体にも思い入れが凄く強いアルバムになりました。全然まだ〈完璧!〉っていう感じではもちろんなくて、その気持ちが次を作り続けたいという意欲に繋がると思うんですけど、いまはホントに100点あげたいぐらい(笑)満足度が高いです。自分でアレンジャーさんやデザイナーさんとやりとりして、マスタリングやジャケの入稿まで私が進行したので、そこも前との違いですね。〈もっと良くなるんじゃないか〉みたいな欲が出てきて、どこで終わりにするか自分でジャッジする苦しさもあったけど(笑)、いままで以上に〈作った!〉って思えます」。
先述のヴァイナル『Private Paradise』に続いてcpnnnが手掛けたアートワークも実に鮮やか。海上の空港をモチーフに、ヤシの木やストレリチアが配されているのも印象的だ。
「ジャケの空は色味も凄いこだわっていて、夕方じゃなくて朝の空になるんです。飛行機がちょうど飛ぶ5時半ぐらいっていう設定が自分の中であって。これから新しい日が始まって〈PARADISE GATE〉に向かうよ、みたいなワクワク感を詰め込んだ空の色にしました。私、朝がいちばん好きなんですよ」。
現実から離陸するための特別な招待状。新しい日が始まって、楽園へのゲートはここに開かれている。
HALLCAの作品。
左から、2018年のEP『Aperitif e.p』(WAVERIDGE)、2019年のアルバム『VILLA』(Magellan-Blue)
左から、Tsudio Studioの2020年のシングル“Promise of Summer”(Hiraeth)、kiarayuiの2020年作『MOONLESS』(Words Studio)、はるかりまあこの2021年のEP『TERMINAL』(HKM Project)、Calmeraの2021年作『誰そ彼レゾナンス』(B.T.C.)