90歳と結婚50周年を記念した新譜と再発リリース
日本が誇る作編曲家・ピアニストの秋吉敏子は、1929年12月12日生まれ。今年の12月に満90歳の誕生日を迎える秋吉にとって、2019年は公私にわたるパートナー、ルー・タバキンとの結婚50周年の年でもある。
10月30日に発売される『The Eternal Duo!』は、2018年9月15日に東京文化会館小ホールで行われた、秋吉とタバキンのデュオ・コンサートの模様を、CD1枚、ブルーレイ・ディスク1枚に収録した2枚組だ。このコンサートは、秋吉の米寿、そして、タバキンとの活動50年を記念して開催されたものだが、リリースは卆寿と金婚式を同時に祝うタイミング、というわけだ。CDには昼の部、ブルーレイには夜の部の演奏が収録されていて、さらに映像特典として、ニューヨークの二人の自宅で行われたインタヴューの模様が収められている。僕としては、演奏がよりこなれていて、二人のコミュニケーションが視覚的にもよく分かるブルーレイに強く惹かれた。秋吉敏子の曲には非常に複雑なリズムがよく登場するのだが、アイコンタクトを交えつつ、ぴったりと息の合ったプレイを聴かせる二人の姿は実にかっこいい!
そして、インタヴューで二人が話す内容は、一人の日本人女性が、いかにしてアメリカのジャズ界で確固たる地位を占めるに至ったか、ということについての貴重な証言だ。日本人がジャズの中でどういう貢献ができるのか、無意識的な〈差別〉にどう向かい合うのか、日本的な要素を取り込みつつ〈ジャズの伝統〉に連なることの重要性など、現在にストレートに通じる問題を率直に語る二人の話は、今こそ広く聴かれるべきだと思う。
そして今回、秋吉敏子=ルー・タバキン・ビッグバンド(『テンガロン・シャッフル』は〈秋吉敏子ジャズ・オーケストラ~フューチュアリング・ルー・タバキン〉名義)が70~80年代に発表した8作品が、最新リマスターを施されて再発される。74年のデビュー作『孤軍』に始まり、『ロング・イエロー・ロード』『花魁譚』『インサイツ』『マーチ・オブ・ザ・タッドポールズ』『ニューポート’77』『トシコから愛を込めて』『テンガロン・シャッフル』と続く作品群を聴いてみると、その圧倒的な作編曲のクオリティと、バンドの見事な演奏ぶりに改めて驚く。“孤軍”“ミナマタ”などの日本的な要素を取り入れた曲も素晴らしいし、“ロードタイム・シャッフル”“ストライヴ・フォー・ジャイヴ”“マーチ・オブ・タッドポールズ”など、これぞビッグバンド・ジャズだ!と快哉を叫びたくなるナンバーも最高だ。