混迷の現代に音楽の存在意義を伝える貴重な昭和日本ジャズ名演集
なんて喜びに満ち溢れた音楽だろう。昭和4年(1929年)~昭和32年(1957年)のヒット曲19曲を収録した『ベスト・オブ・昭和 日本のジャズ・ソング ~薔薇色の人生 ボタンとリボン~』と、昭和34年(1959年)~昭和49年(1974年)のジャズの名演を収めた『ベスト・オブ・昭和 日本のジャズ黄金時代 ~スウィング ビッグ・バンド モダン・ジャズ~』からは歓喜の調べが聴こえてくる。この両アルバムは、1926年~89年の63年間に亘る昭和という時代を彩った大衆音楽の数々を、ジャズやポップス、ラテンなどのヴォーカル作品とジャズ・インストゥルメンタルの視点からそれぞれまとめあげたものだ。
昭和史を語る際によく用いられる〈激動の昭和〉という言葉が示すように、この時代には、昭和16年~20年(1941年~1945年)に日本が参戦した第二次世界大戦がある。19世紀後半にアメリカで生まれ、大正時代末に日本にやって来たジャズというニュー・ウェイヴは、淡谷のり子や笠置シズ子ら人気シンガーの活躍によって新たな大衆音楽として大きな支持を得るに至ったが、戦争によって事態は急変。ジャズやクラシックなどの西洋音楽は敵性音楽としてその演奏と鑑賞のすべてが禁止され、人々に音楽の自由が戻ったのは、敗戦という形で戦争を終えた昭和20年(1945年)のことだった。
この両アルバムには、貧しくとも音楽を奏でる喜びに溢れた復興初期の演奏から、安定から繁栄へと向かう華やかな時代の楽曲まで多彩な音楽が満載。細かく見ていけば、若き日の越路吹雪の熱唱や秋吉敏子の清新な演奏、ジョージ川口とビッグ・フォーの名演など本当に盛り沢山なのだが、それらすべてのトラックに共通しているのが、エネルギーに溢れ、聴く者の心を高揚感で満たしてくれるという点だ。COVID-19の感染拡大が戦争に例えられ、音楽の存在意義や心の豊かさとは何かということが頻繁に議論されている現代。この2作品を聴いていると、その答えが聴こえてくるような気がする。