INTERVIEW

冨田恵一 × 岡村詩野、Orangeade改めconteから2010年代邦楽シーンを考える

カギは〈スタジオ派〉と〈ライヴ派〉の音楽家たち

冨田恵一 × 岡村詩野、Orangeade改めconteから2010年代邦楽シーンを考える

黒澤よう(元・ポートレイツ)、大沢建太郎(元・北園みなみ)、佐藤望(カメラ=万年筆/婦人倶楽部)の3人からなるバンド……だったOrangeade。ライヴの機会こそ少ないものの、別のフィールドで活躍してきた3人が集まったという話題性を超え、洗練されたソングライティングと洒脱なポップセンスで彼らは支持を集めてきた。が、しかし。2019年10月1日、大沢が〈著しい素行不良〉により〈解雇〉されるという、前代未聞の展開に。

以前からファンをハラハラとさせてきたOrangeadeが、ここにきてなんと、新メンバーとしてシンリズムを迎えることを発表した。さらに、バンド名を〈conte(コント)〉に改めて再スタートを切る。10代半ばからソロ・アーティストとして活躍してきたシンリズムが加わることで、バンドはどんな変化を見せてくれるのだろう? その答えは、改名の発表と同時に届けられた新曲“季節を狙え”にあるかもしれない。

そんなOrangeade/conteをテーマに、彼らに同じ〈スタジオ派〉としてのシンパシーを感じるという冨田恵一(冨田ラボ)と、音楽評論家の岡村詩野が語り合った。旧知の仲であるという2人の話題は、2010年代の邦楽シーンを俯瞰するような内容にまで及び……。冨田のプライヴェート・スタジオで収録した、ざっくばらんなトークをお届けしよう。

なおOrangeade改めconteは、12月2日(月)にMikikiが主催するTWEEDEESとのツーマン・ライヴに出演する。シンリズムもメンバーとして出演するが、おそらく〈Orangeade〉としてのラスト・ライヴとなるだろう同公演、ぜひお観逃しなく(イヴェントの詳細は記事末尾でチェックを!)。


 

スタジオ派・録音派のミュージシャンたち

冨田恵一「それにしても、〈素行不良〉という表現(笑)。大沢さんの〈えーん〉っていう反応(笑)」

岡村詩野「そして大沢さんが抜け、シンリズムくんが加入するという……」

冨田「それもびっくりですよね」

岡村「一緒にツアーをしたり、近いところにいたりしたから、自然な流れのようです。シンリズムくんは同じ〈宅録派〉〈スタジオ派〉の仲間をみつけることができた感じです。これから再起動するんでしょうね」

シンリズムの2019年のシングル『赤いタワーまで / Moon River Lady』ティーザー

冨田「最近は若くて良いバンドも多いですけど、スタジオ派・録音派みたいなアプローチのバンドは少ないですよね。ライヴ中心の活動だからそうなるんだろうけど。僕は昔からずっと録音物・録音作品優先だから、言ってみれば、スタジオ派じゃないですか?」

岡村「〈派〉どころか、スタジオそのものじゃないですか(笑)」

冨田「(笑)。ただ、最近は作編曲、パフォームする部分までが表現の大部分で、録音はそれを〈記録〉するプロセスと捉えられていることが多いんじゃないかな。まあ、原点回帰と言えるんだけど。でもOrangeadeを聴くと、〈録音が好きでやっているんだな、この感じ久々に聴いたな〉って思ったんです」

 

2000年代以降、スタジオ派の新しい波に先鞭をつけた冨田恵一の存在

岡村「望くんは昭和音楽大学の出身で、彼の世代はスタジオ派の新しい波を支えているんです。望くんとカメラ=万年筆(caméra-stylo)というユニットを一緒にやっている佐藤優介くんやスカートの澤部渡くん、Babiさんといったミュージシャンは同じ昭和音大の仲間で、彼らはスタジオでウェルメイドな音を作ることにものすごく自覚的。澤部くんたちは牧村憲一さんの門下生なんですよ」

※音楽プロデューサー。かぐや姫、シュガー・ベイブ、センチメンタル・シティ・ロマンス、山下達郎、大貫妙子、竹内まりや、PIZZICATO FIVE、フリッパーズ・ギター、L⇔Rといったアーティストたちを手掛けた。2007~2013年に昭和音楽大学で講師を務めた

冨田「マキジイさんですね」

岡村「ええ。牧村さんの授業でどんなことをしていたかというと、プリンスのビデオを観るとか、ブリジット・フォンテーヌの『Comme à la radio(ラジオのように)』(69年)を通して聴くとか……。いい授業ですよね、その作品から自発的にものを考えるって。

多くの学生たちはピンときてなかったみたいだけど、自分は興味深く授業を受けていたと、澤部くんが言っていました。少ないながらもそういう学生が何人かいて……それが澤部くんや望くん、優介くんだった。レコーディング作品のおもしろさを牧村さんが伝えていたら、一部のディープな学生にヒットしたんです。だから、彼らは〈ライヴ派〉でもあるけど、スタジオ派でもある」

冨田「いま、20代中盤ぐらいの人たちにはライヴ派が多いんですよね」

岡村「フェスやイヴェントがこれだけ多いので、そうなってしまうんだと思います」

冨田「なるほどね。僕が録音作品に向かう場合は、演奏するのが初対面のスタジオ・プレイヤー同士だろうが、新曲だろうが、それが息の合ったバンドが長年演奏してきた曲で、しかも奇跡的なパフォーマンスを残した、と聴こえるまで詰めて、そう録れた後にもさまざまなプロセスで作品をブラッシュアップする。伝統的とも言えるそういった価値観で制作しているかどうかは、作品を聴けばすぐわかるんです。もちろん、そういうアプローチじゃなくても良い作品はあるんだけどね。その点Orangeadeは、あきらかに僕と同じ派閥に聴こえました」

岡村「2000年代以降の録音派に先鞭をつけたのは、冨田さんなんですよ」

冨田「俺? あー、でも2000年はもう20年くらい前だから、そう考えればそうなんすかね?」

岡村「そうですよ(笑)! その流れを決定づけたのが冨田さんの著書『ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法』(2014年)。なので、冨田さんの影響はかなり大きいと思います」

冨田「だとしたらあの本を書いておいて良かった。テクノロジーが進化した今でも、伝統的な録音文化には参照すべき点がたくさんあるからね。

ソフトシンセや録音機材の進歩や低価格化があるので、ある程度のクォリティーは得やすくなりましたよね。僕は早々に自分のスタジオを作っちゃったけど、いまなら10分の1とか100分の1の費用で済むものもあると思います。あとは気持ちとやる気さえあれば、いいところまで持っていける。だから、宅録派としては楽しい時代なんだろうな」

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