東京・渋谷WWWのオープンから15周年を記念した公演〈WWW 15th Anniversary cero live “Obscure Adventures”〉が2025年11月19日に開催された。これまでにない特別なceroライブが話題になっていたが、その模様を音楽ライター松永良平(リズム&ペンシル)が伝える。 *Mikiki編集部


 

過去と現在を重ねてリエディットした特別な姿を見せてくれるのではないか

季節が変わっていく前の おかしな夜だよ

渋谷WWWオープンから15年目のちょうどその日に、ceroのワンマンライブがおこなわれた。ceroにとっては、各メディアで高く評価されたサードアルバム『Obscure Ride』(2015年)リリースから10年を迎えたタイミングでもあり、イベント名は、最新シングルである“健忘者たち(The Forgetful Adventurers)”と掛け合わせて、〈Obscure Adventures〉に決まった。

ある程度のキャリアを重ねてきたバンドが、名盤リリースからのアニバーサリーで、全曲を(再現)演奏する試みは、近年よくおこなわれている。このイベントが発表された時点で、ceroもついに!と思ったファンも少なくなかったはず。

だが、その一方で、渋谷WWWという場所は、ceroにとってカクバリズムでのデビュー間もない時期から、ひとつのステップアップの場であり、トライアルの場でもあったと思い出す。現在の彼らが動員できるキャパシティからすればWWWはすでにずいぶん小さなサイズになっているが(チケットも早々に完売した)、このサイズだからできることは何かを問うのならば、単なるアルバム再現ではなく、むしろ過去と現在を重ね合わせてリエディットしたceroの特別な姿を見せてくれるのではないかと期待した。

 

シンプルな編成と舞台上の椅子

そして当日。彼らが登場する前のステージセットを見た観客は、少なからず驚いたはず。まずは、メンバー5人だけでの演奏であること。髙城晶平(ボーカル/ギター/フルート)、荒内佑(キーボード)、橋本翼(ギター/コーラス)のcero 3人に加えて、長年サポートを務める光永渉(ドラムス)、厚海義朗(ベース)しかいない。これほどのシンプルな編成になるのは、MC.sirafu、あだち麗三郎がサポートを務めていたセカンドアルバム『My Lost City』(2012年)以来だし、そもそもceroの3人とリズムセクションだけというシンプルな構成はおそらく初めてだ。

そして、もうひとつ。植物が配置されたエキゾチックな部屋のようなセットで、ceroの3人のポジションには、椅子が用意されていた。〈座り〉なんだ。もしかして、アコースティック版の、〈大人な〉ceroになるのか? さまざまな思惑が交錯しているのか、開演を待つフロアの空気はいつもより少し緊張気味に思えた。

 

『Obscure Ride』という過去と現在が交錯する時空の迷路

客電が落ちて、5人がステージへ。そういえば、何年か前のライブでは、舞台に現れたメンバーがしばらく定位置につかずにうろうろと回遊する演出を取り入れたことがあった。もちろん今夜はそんな演出はなかったが、舞台に現れた彼らが最初にどんな態度で、どんな音を鳴らすのかは、いつも意外と決まってない気がする。もちろんセットリストはあるわけだし、イントロを誰が弾き始めるのかは演奏の段取りとして決まっているわけだけど、ポイントはそこじゃない。今夜が特別なライブだから、それを余計に強く感じたのだろうか。たとえば、そこに作用するのは季節とか時間とか瞬間みたいなものとの向き合い方、とでもいうのかな。

ライブは『Obscure Ride』のオープニングナンバー“C.E.R.O”から始まった。そこから“Yellow Magus (Obscure)”へ。そのままアルバムの前半を“ticktack”まで曲順通りにMC無しで進む。落ち着いたサウンドになってはいるが、大きくアレンジを変えているわけじゃない。むしろ5人だけの演奏は、それぞれのサウンドへの関与を露わにするもので、聴き慣れた曲がとてもスリリングに感じた。近年のceroはコーラスの繊細さ、厚さが楽曲の要点にあるが、この日は髙城のリードボーカルにハーモニーをつけるのは、橋本のハイトーンのみ。2人の声の重なりは、かつてのceroの記憶に照らし合わせると懐かしいものでもある。だが、アレンジが細かく進化している分だけ、過去と現在が交錯して作り出された時空の迷路を、彼らが自力で抜け出すための機転とエネルギーをもう一度、楽曲に与えているようにも感じた。