Why Do This?
音の鳴る果てで超然とした存在感を発揮し続けている坂本慎太郎が完成した待望なるニュー・アルバム……『ヤッホー』。唯一無二の音と歌と言葉をソフトに紡ぐこの眼差しはいま何を見つめているのだろう?

坂本慎太郎 『ヤッホー』 zelone(2026)

 毎度ながらこの快い聴き心地の正体は何なのだろうか。先日3度目のUSツアーとメキシコ公演を終えたばかりだという坂本慎太郎が、およそ3年半ぶりのニュー・アルバム『ヤッホー』を完成した。思えば前作『物語のように』(2022年)はパンデミックで周辺の環境や気分が大きく変化するなかで日常を綴るかのように書き下ろされたポップ・アルバムだったわけだが、その間にエル・マイケルズ・アフェアとのコラボ“Indifference”(2025年)も経験した彼はここ数年の海外でのライヴ体験を反映させたのだそうで、今回のサウンド面ではブルースやムード歌謡、60年代ソウル、サーフ・インスト、ファンクなどを取り入れた多彩なアレンジが展開されている。レコーディングは前作同様に坂本慎太郎バンドのメンバーを中心に行われており、菅沼雄太(ドラムス)、AYA(ベース/コーラス)、西内徹(サックス/フルート)が名を連ねたほか、ゲストとして2曲にマリンバで角銅真実が参加。レコーディング・エンジニア/マスタリングを中村宗一郎が担当しているのもレギュラーな座組で、期待通りの心地良いサウンドが広がっている。

 そして、いつも以上に耳を惹きつけるのは坂本独自の視線で綴られる歌詞の世界だ。牧歌的なようで終末的でもあり、ふわっとしているかのようで、はっきり何かを伝えているかのようでもある言葉の世界が、ソフトな歌い回しと品のある演奏に乗ってゆっくり入ってくる。先行配信されていた“おじいさんへ”も、いつも以上に風刺のニュアンスが前に出ている“あなたの場所はありますか?”も、もちろん直截的な何かが言われているわけではないものの、昨今の奇妙に思える社会や身の回りのあれこれ、画面越しに飛び込んでくるあれこれなどが、文字面を超えた意味を備えて何かをドキッと感じさせるのは、受け手の現実がそうなっているということだろうか、とふと考えさせられてしまった。それを口にする時の、諦念や脱力と芯の強さと抑制が混じったような絶妙な温度感の、情けないようで逞しくもある歌声もやはりいつもながらに魅力的だ。エレガントな靄がかかったような“正義”、ウェットなムード歌謡テイストの“脳をまもろう”、ほのぼのした彼岸ソウル“時の向こうで”、小気味良くファンキーな“麻痺”、切々とした“なぜわざわざ”、ひなびた“ゴーストタウン”、そしてこの曲名でこの音なのも何か凄い“ヤッホー”でまろやかに幕を下ろす。

 なお、CDはアルバム全収録曲のインスト・ヴァージョン集が付いた2枚組。とりあえず、聴き終わったそばからリピートして聴き返したくなるし、それでも聴き終わったらふと口ずさんでしまうようなフレーズに耳を侵食される最高の一枚なのは間違いない。誰が何をしたか覚えていよう〜♪