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外山雄三、日本最長老マエストロがニュー・イヤー・コンサートで奏でる狂詩曲

外山雄三、日本最長老マエストロがニュー・イヤー・コンサートで奏でる狂詩曲

日本最長老マエストロが〈狂詩曲〉で開く〈オリパラ〉2020の《響の森》

 日本を代表する指揮者で作曲家の外山雄三は1931年(昭和6年)5月10日、東京市牛込区(現在の東京都新宿区)の生まれ。2019年に米寿(88歳)を祝った。大町陽一郎、モーシェ・アツモン、ラドミル・エリシュカら日本のオーケストラと深い結びつきを持った指揮者たちと全く同年齢だが、現役は外山だけ。いつの間にか日本最長老のマエストロ(巨匠)となった。現在も大阪交響楽団(大響)にミュージック・アドバイザーのポストを持ち、若い楽員たちを束ねている。東京でも新年(2020年)1月3日、東京文化会館主催《響の森》シリーズのニューイヤーコンサートで東京都交響楽団(都響)と、ラプソディー(狂詩曲)を軸にしたプログラムを演奏する。

 2019年11月21日、大阪市のザ・シンフォニーホールの大阪交響楽団第234回定期演奏会で外山の指揮と作品――バレエ音楽「お夏、清十郎」からの《パ・ド・ドゥ》と《ヴァイオリン協奏曲第2番》(独奏は首席ソロコンサートマスターの森下幸路)を聴いた。外山の作曲は1960年のNHK交響楽団(N響)初の世界一周ツアーのアンコール曲に書き下ろした《管弦楽のためのラプソディー》を聴けばわかる通り、書法は“現代音楽”でありながら民謡など親しみやすい素材を巧みに取り入れ、聴き手を〈置いてきぼり〉にしない。たまたま同じ日の朝、アメリカ滞在中のフィンランド人指揮者で作曲家エサ=ペッカ・サロネンと電話インタヴューをしていて、サロネン自作の〈分かりやすさ〉について質問すると「どんな作品でも、全くゼロからの創造はあり得ない。必ず何かレファレンス(参照文献)があって、皆その延長線上に作曲する。自分も過去のレファレンスを生かしつつ、次の時代のレファレンスとなれるような楽曲を聴衆に提示しているつもりだ」と答えた。外山もサロネンも指揮の腕は確かだから、オーケストラが〈良く鳴る〉曲を書く。

 大響定期の後半はショスタコーヴィチ最後の交響曲、第15番(1971)だった。外山は第二次大戦終結直後がハイティーン時代に当たり、平和への希求が強い〈進歩的(左翼)文化人〉の1人として頭角を現した。旧ソ連のオーケストラにも何度か客演、1967年にはチェロの巨匠ムスティスラフ・ロストロポーヴィチの委嘱で《チェロ協奏曲第1番》を作曲、自身の指揮によりモスクワで世界初演した実績を誇る。ショスタコーヴィチやプロコフィエフが格闘した社会主義リアリズムの時代のソヴィエトを肌で知る、数少ない日本人音楽家という点では歴史の証言者の名に値する。大阪での《第15番》の解釈も表向きの諧謔味の背後に潜む恐怖の響きを白日の下にさらけ出す凄絶な演奏だった。

 お正月の東京では恐怖から一転、ラプソディーの華やかな世界を満喫する。最後に置かれた外山の《ラプソディー》と並ぶ日本のオーケストラの定番アンコール、近衛秀麿編曲の《越天楽》で始め、バルトークの《ルーマニア民俗舞曲》、リストの《ハンガリー狂詩曲第2番》、横山幸雄を独奏に迎えるリストの《ピアノ協奏曲第1番》、ガーシュウィンの《ラプソディ・イン・ブルー》と華やかな作品で固めた。新年定番のウィンナ・ワルツなどドイツ=オーストリアには目もくれず、日本、ハンガリー、アメリカと西洋音楽史の〈ドーナツ圏に位置する作曲家〉(伊福部昭による指摘)に集中する潔さも、外山らしい。東京文化会館の情報季刊誌「音脈」2019年秋号で外山は、音楽ジャーナリストの平末広氏に対し、選曲の意図を次のように語っている。

 「ラプソディーでキャラクターが非常にはっきりした作品を選びました。定期演奏会などで演奏されるだけの内容を持っているにもかかわらず、時間が短いことであまりプログラムに入らないという感じで、よく知られているけれど最近オーケストラが、これらの作品に向き合って演奏することが少ないと思うので、この曲目を組みました」

 1958~1960年にウィーンへ留学した時代の恩師、エーリヒ・ラインスドルフは外山を高く評価し、ヨーロッパにとどまるよう強く勧めたという。N響の要請などもあって帰国したが、当時の日本では数少なかった第二世代の西洋音楽の担い手(父は作曲家の外山國彦)として、外山は最初からグローバルスタンダードに到達していた。ウィーン生まれのユダヤ人で米国へ亡命したラインスドルフは驚異的な聴覚と厳格な指示で欧米のオーケストラ楽員を震え上がらせつつも、絶えず尊敬の眼差しで語られた。外山にもそんなところがあり、興味深い師弟関係である。

 


外山 雄三 (Yuzo Toyama)
指揮、作曲。1931年東京生まれ。東京音楽学校(現在の東京藝術大学)で作曲を学ぶ。1956年9月にNHK交響楽団を指揮してデビュー、1960年NHK交響楽団の世界一周演奏旅行に同行し、ヨーロッパ各地12ヶ国で演奏。指揮者としてばかりでなく自作の 「管弦楽のためのラプソディー」によって作曲家としてもその名を広めた。現在、NHK交響楽団正指揮者、大阪交響楽団のミュージック・アドバイザー。

 


LIVE INFORMATION

《響の森》Vol.45「ニューイヤーコンサート2020」
○2020/1/3(金)14:20開場/15:00開演
【会場】東京文化会館 大ホール
【出演】外山雄三(指揮)横山幸雄*(p)東京都交響楽団
【曲目】
近衛秀麿(編曲):越天楽
バルトーク:ルーマニア民俗舞曲 Sz.68
リスト:ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調 S.124*
ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー*
リスト:ハンガリー狂詩曲第2番
外山雄三:管弦楽のためのラプソディー
www.t-bunka.jp/stage/3211/

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