楽壇の重鎮が聴き手を震撼させるロシア音楽の粋

 NHK交響楽団が敗戦から15年後の1960年8月~11月に行った世界一周演奏旅行でほとんどの公演を指揮したのはともに当時20代の岩城宏之(1932-2006)と本稿の主役、外山雄三(1931-)。そして外山がツアーのために書き上げた民謡を織り込んだリズムと色彩が響き合う“管弦楽のためのラプソディ”は各国で喝采を浴びた。

 30歳を前に作曲家・指揮者の両面で基盤を固めた外山は、以降今日まで指揮者として要職を歴任しつつ、作曲も活発に続けてバレエ組曲“幽玄”(ここからの2曲がマリス・ヤンソンス:オスロ・フィルの音楽世界巡り風アルバム『ワールド・アンコール』で〈日本代表〉に選ばれた)や交響詩“まつら”など質の高い楽曲を生んできた。一方録音面では意外と不遇。自作を含む邦人作品ばかりでいわゆる〈名曲〉の音源はごくわずかだった。

外山雄三,大阪交響楽団 『チャイコフスキー: 交響曲第4番、幻想序曲「ロメオとジュリエット」』 King International(2020)

外山雄三,大阪交響楽団 『チャイコフスキー: 交響曲第5番、ボロディン: 歌劇「イーゴリ公」~だったん人の踊り』 King International(2020)

外山雄三,大阪交響楽団 『チャイコフスキー: 交響曲第6番「悲愴」、ムソルグスキー: 交響詩「はげ山の一夜」』 King International(2020)

 しかしこの度2016年4月から2020年3月までミュージック・アドヴァイザーを務めた大阪交響楽団とのチャイコフスキーの交響曲第4番~第6番とロシア音楽の名作を組合せた2017年~2019年収録のライブ録音が3点登場、長年の渇きが一気に癒された。3曲の交響曲のいずれも外山は遅めのテンポで重心の低い音楽を紡ぐ。そして時折ササっと歩みを速める、あるいはちょっとした音形の抉りを入れることで緊張感を保ち、纏綿と歌うわけではないのにじわじわとパッションが聴き手に迫るのだ。リズムをきちんと立てたうえで滔々と展開する第5番、ハードボイルドな質感から滲み出る血に心震える第6番はとりわけ充実。大阪交響楽団のたっぷりした量感と透明度を両立した弦が演奏全体の質を高めている。併録の管弦楽曲では起承転結をきちんと追いながら、自在な緩急によりスケールの大きいドラマを繰り広げるチャイコフスキー“ロメオとジュリエット”が素晴らしく交響曲を含めた白眉。戦後日本楽壇の中枢を担ってきた大音楽家からの渾身の名演奏、どうかじっくり味わってほしい。