聖夜の喜びを伝えてくれる、女子聖歌隊カントゥス初のクリスマス・アルバム

 クリスマスが近づくと、教会では子どもたちが聖誕劇を行い、聖歌を歌う。ベツレヘムの馬小屋で生まれ、飼い葉桶に寝かされたイエス・キリスト。その聖なる夜を再現し、救い主の誕生を祝う教会のクリスマスは、イルミネーションに彩られた現代のクリスマスとは無縁で、素朴なあたたかさの中にピンと厳かな空気を感じさせる。CANTUSによる初のクリスマス・アルバム『NOEL』は、そんな聖夜の喜びを伝えてくれる一枚だ。

 太田美帆をリーダーとするCANTUSは、東京少年少女合唱隊の卒業生からなる女子聖歌隊。これまでに坂本美雨、haruka nakamura、七尾旅人らさまざまなアーティストとの共演を通して〈声〉の可能性を追求する一方で、何百曲にもおよぶ教会音楽のレパートリーを歌い継いできた。『NOEL』には、メンバーたちが子どもの頃から教会で一緒に歌ってきたクリスマスの聖歌やキャロルなどが収録されている。“Les Anges Dans Nos Campagnes(荒野の果てに)”や“O Tannenbaum(もみの木)”といったおなじみのメロディを、それぞれの歌が生まれた国の言葉で歌っているのがひとつのポイントだが、さらにユニークなのは、彼女たちが幼少期に口伝で覚えた外国語の手触りをそのままに歌っているところ。そういえば子どもの頃は〈グローオーーオーリア、イン・エクチェルシス・デーオー〉という歌詞を、意味などまったく分からないまま歌っていたっけ……そんな遠い日のクリスマスの記憶がよみがえってくる。

CANTUS NOEL p*dis(2019)

 当盤には誰もが知る聖歌やキャロルだけでなく、グレゴリオ聖歌をはじめ本格的な教会音楽が収録されているが、決して堅苦しく聞こえないのがCANTUSならでは。男性の修道士たちが低い声で歌う印象があるグレゴリオ聖歌も、女声の清らかで柔らかいハーモニーで聴くとまた違った表情が見えてくる。冒頭の“Veni Creator Spiritus(来たり給え、創造主なる聖霊よ)”では「本来モノフォニーであるグレゴリオ聖歌に、あえてポリフォニックなアレンジを加えることで神秘性を出した」と太田はコメントしている。

 そのほか、ルネサンス音楽を代表する作曲家であるビクトリアやバードの作品、ブリテンによるクリスマス・キャロル、ラモーの“La Nuit(夜)”など、さまざまな時代の作品がセレクトされている。薄衣を重ねたような “Deck The Hall With Boughs Of Holly(ひいらぎかざろう)”の巧みな編曲は、現代の作曲家ジョン・ラターによるものだ。

 太田みずからが編曲を手がける曲では、多重録音を使ったり、ピアノ伴奏のパートを声で録音したりと、創意工夫を凝らして独特の世界を現出させている。一糸乱れぬアンサンブルよりも、ときにはそれぞれの声の持つ個性を生かし、人間らしいぬくもりを感じさせるCANTUSのハーモニーは、聴く者すべてに安らぎを与えてくれることだろう。アルバムの最後は、太田がもっとも思いを込めて編曲したと語る“The First Noel(牧人ひつじを)”で締めくくられる。大切な仲間と小さな灯りのもとに集い、大きな愛に包まれていることを感じながらお聴きいただきたい。

 


LIVE INFORMATION

「光織りて」
○12/24(火)・25(水)17:00~20:30
【会場】大阪・卉奏(キソウ)大阪府池田市大和町4-13
【出演】〈声〉太田美帆 /〈料理〉月の石 /〈空間〉鶴田美香子、篠原智之
https://acru.jp/