日本語の詩の魅力を改めて実感させてくれる小林沙羅の新作
ソプラノ歌手として常に時代の先頭を駆けている小林沙羅。ソロとしては3枚目のアルバムをリリースする。題して『日本の歌』。これまでの2枚のアルバムにも日本の歌は収録されていて、それぞれのアルバムのテーマによって選曲されて来たが、今回は全部が日本語の作品である。それも懐かしい歌から、意外な発見のある作品まで多彩だ。
「海外で過ごす時間も多いのですが、そういう時に日本の歌を思い出して歌うことがありました。そうするととても落ち着いたり、心が震えたりするという経験もしました。やはり自分にとって日本の歌は外せないものだという気持が高まり、日本語の歌に改めて取り組んでみようと思いました」
と、このアルバムへの思いを語る。子供の頃から歌が大好きで、自分で歌うだけではなく家族と一緒に歌った思い出もたくさんあると言う。そんな素朴な気持は海外の公演でも伝わるようで、2019年2月にロンドンのウィグモアホールで行ったリサイタルでも、後半は日本の歌曲を中心に歌い、大好評だった。
「今回のアルバムは、昔からみんなが歌っていた歌に加えて、ほとんど知られていない歌、そして次の世代に残したい歌というテーマを考えて選曲しました」
詩・林柳波(実は小林の曽祖父である)、曲・井上武士の“うみ”をはじめ、北原白秋と山田耕筰による“この道”など、誰でも一度は歌ったことのある歌に加えて、映画音楽の作曲家として名高い早坂文雄が書いた無伴奏の歌曲である“うぐいす”、そして箏曲家として有名な宮城道雄が作詞、作曲した“浜木綿”など、日本歌曲の中でもあまり知られていない作品もある。
「目の見えない宮城さんが書いた詩の世界が、とても感覚的に鋭くて素晴らしいと思いました。最初の1行からそこに世界が広がって行く感覚です」
この歌は尺八と箏の伴奏による。そしてこれまでのアルバムでも試みて来た小林自身の作曲による歌曲もある。これは谷川俊太郎に詩を委嘱したものだ。
「谷川さんとは学生時代からお付き合いがあり、最近でもよく一緒にコンサートで共演させて頂いています。このアルバムを作るにあたり、FAXでご連絡を差し上げたら、FAXで新しい詩が送られて来たのです」
それが新曲“ひとりから”。人と人とのつながり、そこから〈和〉が生まれ、それが世界全体に伝わってゆくようなイメージを伝えたところ、谷川がこの詩を書いてくれた。様々な日本語の詩を丁寧に歌ったこのアルバム。「ひとつひとつの言葉を大切に歌った」と小林が語るように、日本語の詩の世界が目の前に広がるようなアルバムとなった。
LIVE INFORMATION
アルバムリリース記念 小林沙羅ソプラノ・リサイタル
○2020/3/12(木)18:30開場/19:00開演
【会場】浜離宮朝日ホール
【出演】小林沙羅(S)河野紘子(p)澤村祐司(箏)見澤太基(尺八)
【曲目】武満徹:小さな空 (詩:武満徹)、死んだ男の残したものは (詩:谷川俊太郎)/山田耕筰:この道 (詩:北原白秋)、赤とんぼ (詩:三木露風)、ペチカ (詩:北原白秋)/中田章:早春賦 (詩:吉丸一昌)/越谷達之助:初恋 (詩:石川啄木)/中村裕美:「智恵子抄」より (詩:高村光太郎)或る夜のこころ/あなたはだんだんきれいになる/亡き人に 他
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