(C)Nippon Columbia

 

歌劇『フィガロの結婚』~庭師は見た!~新演出版
スザンナが「スザ女」? 野田版演出で歌う小林沙羅に聞く

 井上道義野田秀樹がタッグを組んだことで話題となっているモーツァルトのオペラ『フィガロの結婚~庭師は見た!~新演出版』は公演形態もユニークで、今年の5月~6月にかけて、金沢歌劇座を皮切りに春期の公演を、まず7公演行なった。そしてこの10月からは、東京芸術劇場から再スタートする秋期の公演が始まる。その秋期の公演を前に、スザ女(スザンナ)役を演じ歌っているソプラノの小林沙羅に、これまでの『フィガロ』とはまったく違う新しい『フィガロ』の面白さについて聞いた。

 「実際の立ち稽古が始まる前に、野田さんと一緒にかなりの回数のワークショップを行ないました。その中で、演技の方向性だけでなく、台詞などのいろいろな可能性を探っていきました。それがとても充実した時間で、これまでのオペラの稽古にはない体験でした」

 と小林。彼女の演じるのはスザンナなのだが、今回は役名が〈スザ女〉となっている。ちなみにフィガロは〈フィガ郎〉、マルチェリーナは〈マルチェ里奈〉と、ちょっとひねった役名なのだ。

 「ちょっとネタばれになるかもしれないのですが、今回の『フィガロ』は黒船が日本に来航する時代が背景となっていて、その時代の日本に外国人である伯爵と伯爵夫人、そしてケルビーノがやって来るという設定になっています。なので、実際に伯爵、伯爵夫人、ケルビーノは外国人の歌手の方が歌い、それ以外の役は日本人が歌うというキャスティングになっています。また言葉もイタリア語と日本語が両方出て来て、イタリア語の部分には字幕も付きますが、その字幕なども野田さんが手がけられているので、いろいろなアイディアが盛り込まれています」

2015.5.26 春期初演@金沢歌劇座

 

 ご存知のように、モーツァルトの「フィガロの結婚」は、フランスの劇作家ボーマルシェが書いた戯曲をもとにしている。フランス革命直前の時代を背景に、貴族と庶民階級の対立を描いている。ダ・ポンテ台本によるモーツァルトのオペラもその対立構造を引き継いではいるが、モーツァルトが生きていた時代のウィーンは、その貴族社会の総本山みたいな街であり、ダ・ポンテの台本はきわどい貴族批判をかろうじてかわせるような形にまとめられた。

 「今回の野田さんの演出では、その貴族と庶民の対立という構図に、さらに異国から来た人たちと日本人という民族的な違いも重ねてあります。それによって『フィガロ』の世界がより立体的に見えるような気がしました。それ以外の部分でも、細かな人間関係の描き方、そしてサブ・タイトルにもある庭師の存在など、これまでの『フィガロ』を知っている方には、なるほど、と思って頂ける部分も多いと思います。また初めて『フィガロ』をご覧になる方には、人物関係がより分かりやすい形で理解して頂けるのではないかな、と思っています。春期の公演を終えた後では、これまでで一番分かりやすい『フィガロ』だったという感想もありました」

 秋期の公演は東京芸術劇場からスタートするが、その後、山形、宮城、宮崎、熊本と巡演する。

 「春期の公演では、各地で反応の違いがあって、それが興味深かったです。秋期は、東京では読売日本交響楽団、山形と宮城では山形交響楽団、宮崎と熊本では九州交響楽団、と演奏するオーケストラも違うので、歌手としてはなかなか大変なのですが、でも、違うオーケストラで同じオペラを次々公演するという経験は出来ないので、とても楽しみです」

 野田演出といえば、立体的な舞台を役者が縦横無尽に走り回るという印象があるが。

 「普通のオペラよりも、かなり動いていると思います。装置の下に入って、そこから出るというようなところもありますし。はっきり言って体力勝負です(笑)。でも、公演中はとにかくたくさん食べるようにして、頑張っています」

 井上の指揮、野田の演出、多彩な歌手陣と、今年一番の話題作であることは間違いない。そして「庭師は何を見たのか?」 それはご自分の目で確かめて頂きたい。

 

LIVE INFORMATION

全国共同制作プロジェクト秋期公演日程(9/1現在)
モーツァルト
歌劇『フィガロの結婚』~庭師は見た!~新演出
(全4幕・字幕付 原語&一部日本語上演)

指揮・総監督:井上道義 演出:野田秀樹
○10/22(木)18:30開演 ★追加公演 8/25(火)より好評発売中
会場:東京・東京芸術劇場 コンサートホール
○10/24(土)14:00開演 【完売】
会場:東京・東京芸術劇場 コンサートホール
○10/25(日)14:00開演 【完売】
会場:東京・東京芸術劇場 コンサートホール
*東京芸術劇場コンサートホール(10/24、25)追加分は、8/25(火)より若干発売中。[東京芸術劇場ボックスオフィスのみ]
○10/29(木)18:30開演 【完売】 
会場:山形テルサ テルサホール
○11/1(日)14:00開演 ★好評発売中 
会場:名取市文化会館 大ホール(宮城)
○11/8(日)14:00開演 ★B席のみ僅少
会場:メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場) 演劇ホール
○11/14(土)15:00開演 ★好評発売中
会場:熊本県立劇場 演劇ホール

出演:アルマヴィーヴァ伯爵:ナターレ・デ・カロリス
伯爵夫人:テオドラ・ゲオルギュー
スザ女(スザンナ):小林沙羅
フィガ郎(フィガロ):大山大輔
ケルビーノ:マルテン・エンゲルチェズ
マルチェ里奈(マルチェリーナ):森山京子
バルト郎(ドン・バルトロ):妻屋秀和
走り男(バジリオ):牧川修一
狂っちゃ男(クルツィオ):三浦大喜
バルバ里奈(バルバリーナ):コロン・えりか
庭師アントニ男(アントニオ):廣川三憲
声楽アンサンブル:佐藤泰子宮田早苗西本会里増田 弓
新後閑 大介平本英一千葉裕一東 玄彦
演劇アンサンブル:川原田樹菊沢将憲近藤彩香佐々木富貴子
佐藤悠玄長尾純子永田恵実野口卓磨
合唱:新国立劇場合唱団(東京)、 山形オペラ協会合唱団(山形・名取)、 宮崎県立芸術劇場コーラスアンサンブル(宮崎)、 熊本フィガロ・クワイヤー(熊本) 管弦楽:読売日本交響楽団(東京) 、山形交響楽団(山形、名取) 、九州交響楽団(宮崎、熊本)
チェンバロ・コレペティトア:服部容子