ASKAがこれまで積み上げてきた作曲キャリアを存分に発揮し、聴き手にインパクトを残すべく緻密に計算されたシングル『歌になりたい/Breath of Bless~ すべてのアスリートたちへ』をリリースした。シングルとしては2009年以来、約10年ぶりとなることからもこの楽曲への〈自信〉を覗かせている。

2017年2月にアルバム『Too many people』、同年10月にアルバム『Black&White』を発表。昨年10月にはファン投票による『We are the Fellows』、自身がセレクトした『Made in ASKA』という2作のベスト・アルバムを同時にリリースし、2019年2月から5年11ヶ月ぶりの全国ツアー「ASKA CONCERT TOUR 2019 Made in ASKA-40年のありったけ-」を開催するなど精力的な活動を継続しているASKA。

シングルCDとしては『あなたが泣くことはない』(2009年2月)以来、約10年ぶりとなる『歌になりたい/Breath of Bless~すべてのアスリートたちへ』は、現在のASKAの音楽性——さらにスケール感を増したメロディ、クラシカルな手触りのサウンド、普遍的な愛を描いた歌詞——が色濃く反映された作品となった。

ASKA 歌になりたい DADA label(2019)

全国ツアー「Made in ASKA」でも披露され、〈本編のラストの曲〉という重要な役割を果たした“歌になりたい”は、神聖なイメージを放つ女性コーラス、ASKAのエモーショナルな歌声を軸にしたバラード・ナンバー。壮大なサウンド・メイク、深遠なメロディ・ラインなど、ASKAの音楽世界がさらに深みを増していることが伝わってくる名曲である。

「まずコード進行を決めて、歌詞の文字数を気にせず、フリーに歌ってみたんです。ヒップホップと同じように、リズムよく韻を踏みながら、サビではしっかりとしたメロディを乗せるスタイルですよね。さらに聖歌のような響きの女性コーラスを加えて、自分はフェイクしていて。“no no darlin’”(CHAGE and ASKA)の手法を久々にやった感覚もありました」

〈時を超えても 命の中にいる〉に象徴される、生命の本質を照らすような歌詞は、ASKA自身がフェイバリットに挙げている楳図かずおの名作「漂流教室」にインスパイアされている。さらに〈歌になりたい〉という言葉に込めた思いを聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「地球の言語は約7,000あると言われてますよね。もともとは1つの言葉だったはずなのに、解明できない理由で膨大な数になってしまった。でも、共通しているものもあるんです。笑顔、感謝、悲しみ、怒り、さみしさ、それから〈音楽〉ですよ。もう1つは、『UNI-VERSE』(2008年リリースのシングル)とのつながり。〈UNI〉はラテン語で〈1〉、〈VERSE〉の語源は〈歌〉。つまり〈歌でひとつになれる〉という意味を込めたのですが、その流れもありつつ、すべての人を包めるものとして〈歌になりたい〉という言葉にたどり着きました」

“Breath of Bless~すべてのアスリートたちへ”は、東京オリンピックのテーマ・ソングを想定して制作されたインスト曲。西洋と東洋が融合したドラマティックな旋律、壮大なオーケストレーションを含め、コンポーザーとしてのASKAの豊かな才能が明確に示された楽曲だ。

「1964年の東京オリンピックのときは小学1年生で、周囲の熱量は感じていたのものの、何が行われているかわかっていなかったんです。なので〈生きている間にもう1度、日本で開催されるオリンピックを経験してみたい〉とずっと思っていて。それが本当に実現したので、自分も音楽で参加したいなと。自分のための2020年の東京オリンピックのテーマ曲を作ってみたのです。今回、シングルのカップリングにしましたが、シングルって、言葉は適切ではありませんが〈季節物〉ですよね。ヒットしない限りその時代に置いてけぼりされてしまう。しかし、今回の“Breath of Bless~すべてのアスリートたちへ”は、アスリートとともに生き続けることができると思ったんですよね。言葉がないぶん、海外の方にも伝わりやすいだろうし、自分がいなくなった後もいろんな人が伝えてくれるんじゃないかなと。自信作です」

12月からはバンドとオーケストラの共演による全国ツアー「billboard classics ASKA premium ensemble concert -higher ground-」を開催。このツアーではソロ、CHAGE and ASKAの楽曲から、来春リリース予定のニューアルバムに収録される新曲も披露されるという。そう、ASKAは既に次のフェーズに向かって進み始めているのだ。

「次のアルバムはほぼ出来上がっているんです。じつは。これまでの制作は締め切りギリギリ、〈今日終わらないと、リリースできない〉というところまでやっていたので、これまでとはぜんぜん違いますね。1日でも早く、リスナーに届けたい。こんな日が来るなんて想像もしてなかったです」

現在のASKAの精神的、身体的な充実ぶりは、このインタビューのコメントからもはっきりと感じ取ってもらえるはず。『歌になりたい/Breath of Bless~すべてのアスリートたちへ』から始まるASKAの新たな音楽世界をたっぷりと味わってほしいと思う。