〈今は個の時代だ〉なんて社会の中では叫ばれているけれど、どうしたって、力のある個が集まったチームこそが最強だ。CRCK/LCKSの昨今のメタモルフォーゼを見ていると、心の底からそう思わせられる。
2015年、菊地成孔主催イベントで演奏するために突発的に集められてスタートした、CRCK/LCKS。これまでは〈演奏力がズバ抜けている5人の個〉というイメージがあったが、昨年はそれぞれがバンド外で多忙を極める中にもかかわらずフル・アルバム『Temporary』とEP『Temporary vol.2』を完成させるほど濃密な時間を共にし、高次元での〈チーム力〉と〈バンドの熱量〉をも手にしていった。圧倒的な音楽的知識とテクニックを基盤にしながら、5人の人間的魅力も溢れ出る歌やライブには、もう、お手上げ状態になるくらい心と身体を揺さぶられる。
今回のインタビューでは、『Temporary』『Temporary vol.2』の話に加えて、メンバーそれぞれがそれぞれに寄せる心の内をたっぷり聞かせてもらった。豊かな感性を持つ5人には音楽家として感動させられるだけでなく、人との向き合い方や行動原理から、同じ人間として学び考えさせてもらうことも非常に多い。
アルバム『Temporary』から2か月で届けられた新作『Temporary vol.2』
――2019年は、メンバーそれぞれが様々なフィールドにて活躍する一方で、CRCK/LCKS(以下、クラクラ)にとっても激動の1年だったのではないかと思います。
小田朋美(ヴォーカル/キーボード)「(結成)5年目の今、今回のアルバムでひとつの節目だという感じはすごくします。ひとつの方向に向かってやってきて、〈Temporary〉シリーズが終着というか」
小西遼(サックス/キーボード/ヴォコーダーなど)「集大成ではあるよね」
小田「うん。だから、もう次のフェイズに進んでいきたいという気持ちになっているんです。こんなふうに形になったから、次は全然違うことをやってもいいんじゃないかな、という気持ちがあって」
小西「突発的に始まったバンドをなんとか動かしてきたところから、もっとちゃんとバンドっぽくなったよね。〈集まれるときに集まって、ライブに向けてやろう〉みたいな感じだったのが、今は、このクソ忙しい5人のスケジュールをなんとか合わせて、ライブがなくても集まろう、というふうになってる。
もちろんみんなリスペクトがあるんだけど、ちょっとわがままになったり、言いたいことを言うようになったりもして、それもいいなって思うし。そのための4年だった感じもするんですよね」
井上銘(ギター)「みんなで少しずつ階段を昇り続けてる感じがするし、それがすごく楽しい。それが作品として残ってるから、思い出すたびに胸が熱くなるんだよね」
――2019年のクラクラは、10月に『Temporary』を、そして2か月後の12月に『Temporary vol.2』をリリースしました。この2枚の位置付けは、どう捉えていますか?
小西「表と裏、なのかな。対になってるのは間違いなくて。1枚目は、〈励まそう〉というか、〈明るくあろう〉というか……」
――安易に言っちゃうと、ポジティヴ、というか。
小西「そう、ざっくり言っちゃうとね。『vol.2』が別にネガティヴだというわけではないんだけど。『vol.2』は力が入ってて、汗臭いというか、パワフルだよね。『Temporary』はもっと柔らかくて綺麗」
――それらを1枚の作品に全部入れる、という選択肢もあるわけじゃないですか。分けた理由はなんだったんですか?
小西「シンプルに、こっちの並びのほうがいいと思ったんですよね。分けたほうが、曲たちのいい部分がちゃんとパッケージできるなって。対として存在してるものを、ちゃんと独立した個性を持って伝えられるなと思った。
でも、もともと混ぜる予定ではあったし、2つでひとつの流れにはなっているから、続けて聴いてもらっても大丈夫なように作ってはある」
――2枚を同じ日にリリースする、という選択肢もあったと思うんです。
小西「それはね、多分、間に合わなかった(笑)。15曲を一度に仕上げていくのは」
石若駿(ドラムス)「分けたことで、すげえじっくりやれたもんね」
小西「本当にそう、それぞれに集中してやっていけたね。2枚は、まったくもって印象が違うものになってると思うから、この形を見つけたときに〈あ、これが正解だったんですね〉みたいな感覚がすごくありました」
――〈2か月〉というのは絶妙な間の開け方だし、〈クラクラ、いい発表の仕方を見つけたな〉と私も思いました。1枚目をじっくり時間をかけて聴けて、まだその余韻が残ってるときに2枚目が聴ける、というのはすごくいいなって。音楽が素早く聴き流されてしまうこの時代において、作品を長く味わってもらうためのいい手法であり新たな提案だなと思いました。
小西「逆に、大丈夫かな?みたいな気持ちはあったんですけどね。普通のやり方としては、半年くらい開けて、その間にシングルを出して、みたいな感じだと思うんですけど、〈いや、絶対年内にしよう〉って言って」
越智俊介(ベース)「なんでそこ甘えなかったんだろうね? 『vol.2』を2020年リリースにするとか、あり得たわけでしょ。〈年内に〉ということに対して一丸だったよね」
石若「勢いあったからね」
小西「やりきっちゃわないと、ってね。(ワンマン・ライブを開催する2019年)12月18日のTSUTAYA O-EASTはおさえてたから、そのときには出したいっていう見通しでずっとやってたのもあったしね」