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コラム

Eve『Smile』ネット発アーティストがシーンを活性化させ続けている現在において、間違いなく20年代を担う才能の一人

Eve『Smile』ネット発アーティストがシーンを活性化させ続けている現在において、間違いなく20年代を担う才能の一人

シンガー・ソングライターのEveからニュー・アルバム『Smile』が届けられた。インターネット・カルチャー出身のアーティストが日本の音楽シーンを活性化させ続けている現在において、彼はまちがいなく、20年代を担う才能の一人。本作『Smile』は、その事実をさらに強く示すことになるだろう。

Eve Smile Toy's Factory(2020)

投稿動画サイトの〈歌い手〉としてキャリアをスタートさせ、ボカロ曲やBUMP OF CHICKEN、RADWIMPSなどのカヴァーで注目されたEveは、2017年に自作曲のみで構成されたアルバム『文化』を発表。人間の深層に存在している不安や葛藤、孤独を描き出す歌詞、独創的なサウンドメイク、中毒性のあるメロディ、豊かな表現力をたたえたヴォーカルなど、シンガー・ソングライターとしてのポテンシャルの高さを示した。このアルバムはネットシーンのみならず、幅広く音楽ファンに浸透。収録曲“ドラマツルギー”MVはYouTubeで5,000万再生を越えるなど、Eveの代表曲として認知されている。

2019年2月にリリースしたアルバム『おとぎ』は前作を上回るヒットを記録。アルバム全体を通して、ファンタジックな世界観と現実を投影したリアリティを共存させた本作は、Eveのクリエイティビティの高さを改めて証明した。その後も“闇夜”(TVアニメ「どろろ」第2期エンディング・テーマ)、“レーゾンデートル”(専門学校HAL[東京・大阪・名古屋]CMタイアップソング)といった話題曲を次々と発表し、昨年末から2020年初めにかけて行われたツアー「Eve winter tour 2019-2020 [胡乱な食卓]」は、東京国際フォーラム ホールAを含めた全公演が即日ソールド・アウト。本格的ブレイクが秒読み段階に入ったタイミングで発表されるのが、ニューアルバム『Smile』というわけだ。

繊細にして鋭利なギターのフレーズを中心としたインスト曲“doublet”で幕を開ける『Smile』。まず注目すべきは、独創的にして上質なハイブリッド・サウンドだ。現在進行形のオルタナR&Bの流れを感じさせるトラック、クラシカルなストリングスサウンド、ディレイを効かせた美しいギターが溶け合う“LEO”。アコースティック・ギターのストローク、浮遊感のあるサウンド・メイク、どこか懐かしい風景を呼び起こすメロディが一つになった“虚の記憶”。シャープなギターリフ、バウンシーなベースライン、4つ打ちのビートが融合し、快楽的なグルーヴに結びつける“いのちの食べ方”。軽やかでカラフルなメロディをしなやかなファンクネスを含んだサウンドが支える“心予報”。ロック、EDM、ヒップホップ、R&B、エレクトロといった多彩なファクターを独自のセンスで織り交ぜたサウンド・メイクは、〈キメラ〉(同一の個体内に異なる遺伝情報を持つ細胞が混じっている状態や、そのような状態の個体)と呼びたくなるほどの多様性に満ちている。楽曲に込められた要素はかなり多いが、決して情報過多ではなく、誰もが自然に楽しめるポップスとして成り立っているのも本作の魅力だろう。

また、『文化』、『おとぎ』と同様、アルバム全体を通し、壮大なストーリー性が感じられることにも注目してほしい。ここで具体的な歌詞に言及するのは避けるが――ぜひ、CDのブックレットを手に取って、自分自身で確かめてほしい――本作の背景にあるのはおそらく、様々な問題が同時多発的に起こっている現代の社会だ。政治、経済、教育、そしてエンターテインメントの世界においても、既存のシステムが立ち行かなくなり、人々は確かな将来像を掴めないでいる。ともすればディストピアな世界観に取り込まれそうにもなるが、Eveはこのアルバムによって、どこかにあるはずの希望の光を描こうとしていたのだと思う。そう、映画「モダン・タイムス」で機械に支配された人間を描いたチャップリンが、テーマ曲に〈スマイル〉というタイトルを与えたように。

もう一つ、Eve自身のヴォーカルについて記しておきたい。前述したように、幅広い要素を取り入れた楽曲を歌うことで、そのヴォーカルの表現は格段に向上している。特筆すべきは、ひとつひとつの言葉を明確に伝えながら、大きな物語に結びつけるセンスと技術。本作によって彼は、ストーリーテラーとしての資質をさらに開花させたと言っていい。それは間違いなく、寓話と現実が混ざり合うような本作『Smile』の中心を担っていると思う。

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