昨年、デビュー10周年を迎えた、さかいゆうの新作『Touch The World』。このタイトルが物語るとおり、LA、NY、ロンドン、サンパウロの3か国4都市を訪れ、各地のプロデューサーやミュージシャンたちと共に作り上げた、スケールの大きなアルバムだ。
環境が異なれば人も音楽も、音楽を生み出す環境も異なる。そうした違いと様々な出会いを経験し、楽しみながら制作した『Touch The World』の音楽は、一言で言えばとてもカラフル。しかし、さかいゆうが作る楽曲の魅力と持ち前の美声が太い幹となって全体を貫く、パーソナルでユニバーサルな作品に仕上がっている。
さかいゆうに話を聞き、『Touch The World』の旅路を振り返ってもらった。
テラス・マーティンや挾間美帆らが参加したLA/NY録音
――まず、さかいさんにとっては第2、第3のホームと言えるLAから。
「LAではやっぱり、ハンバーガーを食べて(笑)。参加するミュージシャンは半分ぐらい決まってたのかなあ。“21番目のGrace”の録音は、6月にLAで行った〈Playboy Jazz Festival〉でいちばん盛り上げてたシーラ・Eのバンドのリズム隊と一緒にやりたいと思ってオファーして、夏にそのセッションが叶ったんです。つまり最初にこういう人たちとやりたいというのはもちろんあったんですけど、全部決まってたわけじゃなくて、ちょっとずつ旅をしながらミュージシャンも決まっていった感じかもしれないです。
LAのスタジオのピアノは、自分が人生で触ってきた中でいちばん乾いた音でした。味わったことがないぐらいカリッカリな、日照り続きのLAの空みたいな音してて。そういう違いも楽しみにしてました」
――同じアメリカでも、LA録音の曲とNY録音の曲とでは全く空気が違いますね。
「LAとNYは、大阪と東京の違いとも比べ物にならないぐらい違いますね」
――冒頭にマイルス・デイヴィスの“So What”を配した“孤独の天才(So What)feat. Terrace Martin”は、最初からNYで録音すると決めてました?
「そうですね、合うだろうなあと。大好きなルイス・ケトー(ドラムス)、ジェームス・ジーナス(ベース)、テラス・マーティン(サックス)と一緒に出来て良かったです。テラス・マーティンとジェームス・ジーナスは、ハービー・ハンコックのツアーでたまたまNYにステイしてて、テラス・マーティンはNYに住んでるわけじゃないんで。そういう偶然がいいように作用してくれて」
――同じくNY録音の“裸足の妖精”では、挾間美帆さんがアレンジを手がけています。彼女との出会いは?
「東京で誰かのライブを聴きにいったときに美帆ちゃんが〈初めまして、さかいゆうさんですよね。音楽聴いてます、ファンです〉って声をかけてきてくれて。それで彼女のことを調べたら、すごく面白い音楽をやってて。たとえばセロニアス・モンクの曲のアレンジとか、一音違ったらもう全然モンクにならない、どうやってアレンジするんだっていうのを見事にやってたり。彼女の才能はけっこうマニアックな切り口の才能だから、どうやって評価されていくんだろうと思っていたら、(“裸足の妖精”の)録音が終わった後でグラミー賞にノミネートされた(笑)。そういうことがあると彼女の良さがわかりやすく伝わるので、いいですよね」