昨年、デビュー10周年を迎えた、さかいゆうの新作『Touch The World』。このタイトルが物語るとおり、LA、NY、ロンドン、サンパウロの3か国4都市を訪れ、各地のプロデューサーやミュージシャンたちと共に作り上げた、スケールの大きなアルバムだ。

環境が異なれば人も音楽も、音楽を生み出す環境も異なる。そうした違いと様々な出会いを経験し、楽しみながら制作した『Touch The World』の音楽は、一言で言えばとてもカラフル。しかし、さかいゆうが作る楽曲の魅力と持ち前の美声が太い幹となって全体を貫く、パーソナルでユニバーサルな作品に仕上がっている。

さかいゆうに話を聞き、『Touch The World』の旅路を振り返ってもらった。

さかいゆう 『Touch The World』 ユニバーサル(2020)

 

テラス・マーティンや挾間美帆らが参加したLA/NY録音

――まず、さかいさんにとっては第2、第3のホームと言えるLAから。

「LAではやっぱり、ハンバーガーを食べて(笑)。参加するミュージシャンは半分ぐらい決まってたのかなあ。“21番目のGrace”の録音は、6月にLAで行った〈Playboy Jazz Festival〉でいちばん盛り上げてたシーラ・Eのバンドのリズム隊と一緒にやりたいと思ってオファーして、夏にそのセッションが叶ったんです。つまり最初にこういう人たちとやりたいというのはもちろんあったんですけど、全部決まってたわけじゃなくて、ちょっとずつ旅をしながらミュージシャンも決まっていった感じかもしれないです。

LAのスタジオのピアノは、自分が人生で触ってきた中でいちばん乾いた音でした。味わったことがないぐらいカリッカリな、日照り続きのLAの空みたいな音してて。そういう違いも楽しみにしてました」

――同じアメリカでも、LA録音の曲とNY録音の曲とでは全く空気が違いますね。

「LAとNYは、大阪と東京の違いとも比べ物にならないぐらい違いますね」

――冒頭にマイルス・デイヴィスの“So What”を配した“孤独の天才(So What)feat. Terrace Martin”は、最初からNYで録音すると決めてました?

「そうですね、合うだろうなあと。大好きなルイス・ケトー(ドラムス)、ジェームス・ジーナス(ベース)、テラス・マーティン(サックス)と一緒に出来て良かったです。テラス・マーティンとジェームス・ジーナスは、ハービー・ハンコックのツアーでたまたまNYにステイしてて、テラス・マーティンはNYに住んでるわけじゃないんで。そういう偶然がいいように作用してくれて」

――同じくNY録音の“裸足の妖精”では、挾間美帆さんがアレンジを手がけています。彼女との出会いは?

「東京で誰かのライブを聴きにいったときに美帆ちゃんが〈初めまして、さかいゆうさんですよね。音楽聴いてます、ファンです〉って声をかけてきてくれて。それで彼女のことを調べたら、すごく面白い音楽をやってて。たとえばセロニアス・モンクの曲のアレンジとか、一音違ったらもう全然モンクにならない、どうやってアレンジするんだっていうのを見事にやってたり。彼女の才能はけっこうマニアックな切り口の才能だから、どうやって評価されていくんだろうと思っていたら、(“裸足の妖精”の)録音が終わった後でグラミー賞にノミネートされた(笑)。そういうことがあると彼女の良さがわかりやすく伝わるので、いいですよね」

『Touch The World』とさかいへの挾間美帆からのメッセージ。そのほか本作に関わったアーティストや縁あるアーティストからのメッセージ一覧はこちら

 

ロンドンは自分が持ってるアーバンさみたいなものに近い

――次に、ロンドン。

「ロンドンのエンジニアは陽気って感じじゃなくて、自分の仕事にプライドを持ってて、ちょっと神経質で、それがまたいいように作用するんですよね。ディテールまで諦めずにものすごい根を詰めていって。最後にマスタリングをロンドンでやって、生まれた場所と食べ物と言葉が違うと全然音が違うなあとは思ってたんですけど、その違いはすごく出たなあと思って。LAで録った曲って天井が開けてる気がするんですけど、ロンドンで録った曲たちは、なんかこう、曇りというか。まあイメージですけどね。でも実際、陽気じゃないですよね、なんかもうちょっとアーバンな音がするというか、アーバンな乾きみたいな(笑)」

――ロンドン録音であるインコグニートのブルーイがプロデュースした曲“She’s Gettin’ Married”は、元ジャミロクワイのスチュワート・ゼンダーも入っていて、曲を聴いたときには陽のイメージを受けたんですが、今の話をうかがって、さかいさんが体験された環境との違い、ギャップが逆に面白いと思いました。

「確かにジャミロクワイもインコグニートも会場のテンションを上げてくれるバンドなんだけど、アメリカの、なんかこう、ハンバーガー感がないというか(笑)、ルーズさがないというか。キッチリしてるじゃないですか、ハットにしろスネアにしろキックにしろ。ブルーイが意外といちばん厳しかったですね、音程とかリズムとか。僕もそっち寄りで細かいほうなんで、〈今の違うね、Again、Again〉というやりとりはありましたね。同じテンションで〈Again〉って言ってた。だからなんか、東京とロンドンは似てると思うんですよね。大陸と接してない島国の隔離されたアーバン感というか。なんかこう、ブルーイもスチュワートも、内に秘めた陽気さなんですよね。

たとえば、ちょっと泣きそうになったときに涙を隠したくなるっていう発想は、ブラジル人にはないんで。今回、サンパウロでルイスっていうエンジニアにずっとお世話になったんですけど、彼は泣くと〈俺は泣いてるぞ〉とアピールするんですよ(笑)。感動を隠さないというか。日本人とイギリス人は、感動をパッと隠しちゃう。そこがちょっと分かち合えるところなのかなあと思ったりしますね。

だからロンドンは自分が持ってるアーバンさみたいなものに近くて、NYやLAに行くほうが、むしろちょっと戦いに行ってる感じになりましたね。ロンドンのほうが楽っていうか、似てるのかなあって思ったりしましたね。僕もアメリカにいるときは神経質じゃないふりを、英語を喋りながらしてるんですよ。じゃないとスッと打ち解けられないから。でもロンドンにいるときは、このテイクが気に入ってないわけじゃないんだけど、もう1テイク録りたいっていう僕と、エンジニアが一緒の顔をしていたり。ロンドンとサンパウロがいちばん真逆だというぐらい違うし、要素が全くかぶってないというか。まあ、サンパウロがいちばん違うなあと思いましたけど、それはそれで感動しましたね。なんか自分にない感動ってものを出せるというか」

 

カイピリーニャを飲み、サントスのビーチに行って……サンパウロ録音

――というところで4都市目、サンパウロ録音の2曲。プリンスのキーボード奏者だったブラジル人のヘナート・ネトがプロデュースしていて、バンドとのセッション・スタイルの録音ですね。

「そう、まさに同時に一発録りしました。ヘナート・ネトとは一緒に録りたかったんですよね。トゥーマッチなプロデュース・ワークとかじゃなくて、せーので、昔ながらのスタイルで録りたくて。ホントに楽しくて、何テイクも録りました。面白かったなあ」

――サンパウロ録音の“想い出オブリガード”の歌詞にはカイピリーニャ(ブラジルのスピリッツ、カシャーサのカクテル)をはじめポルトガル語の言葉が出てきます。滞在中に作詞したのですか?

「そうです。向こうでカイピリーニャを飲んで、サントスのビーチに行ったりして、楽しかったですね。楽しさで言うとブラジルがいちばんでした」

――サンパウロの日系人街がタイトルになっている“リベルダーデのかたすみで”は、作詞が西寺郷太さん。この歌詞もあらかじめ作られていたものではないですね?

「もともと大枠はあったんですけど、僕がリベルダーデにいるときにメールで連絡をとりあって、レコーディングのちょっと前に歌詞が届きました。もともと“愛は急がず -Oh Girl-”という僕の曲があって(2016年作『4YU』収録)、これも作詞が西寺郷太さんなんですけど、その曲の主人公がリベルダーデで彼女を想うっていうストーリーの繋がりもあって」

――“愛は急がず -Oh Girl-”の第2章ですね。

「そうです。地球の裏側であなたを想う、みたいな(笑)」

――ブラジルの音楽は以前から聴いてました?

「ジョアン・ジルベルト、アントニオ・カルロス・ジョビンはもちろん知ってますけど、正直、ブラジル音楽をめちゃめちゃ聴いてたわけじゃないんで。でもブラジルのファンク・バンドは好きでしたね。ブラジル人のファンクとかブラック・ミュージックは面白くて、絶対にレイドバックしないでみんなが常に前に前に疾走感で行くから、それがエネルギーを生むのが爽快で。同時の音圧力みたいな(笑)。あれはすごいですよねえ。ボサノヴァとジャズの相性もすごくいいし、面白いなあって思いますね。自分があまり通ってこなかったところなんで。

で、インゴクニートのブルーイがブラジル・ミュージックをすごく好きで、ブラジルの音楽の話をメチャメチャしてくれて、〈エヂ・モッタは絶対、ゆうとも合うから今度、紹介する〉という話にもなったり。今回は実現しなかったですけど、エヂさんともいつかやりたいですね。あんなファンキーにローズを弾く人って、なかなかいないですからね」

 

中谷美紀&坂本龍一“砂の果実”で出会った作詞家・売野雅勇と考えた〈死〉

――アルバム全体の話に戻って、先ほど話してくださった“21番目のGrace”と“孤独の天才(So What) feat.Terrace Martin”、そして“Soul Rain”、この3曲の作詞は売野雅勇さんによるものです。売野さんは数々の大ヒット曲を手掛けられ、特に80年代は〈言葉の魔術師〉とも呼べるほどの活躍でした。

「僕はそのへんを知らない世代なんですけど、僕が頼んだきっかけになった曲は、中谷美紀さんが教授(坂本龍一)と一緒にやった“砂の果実”で、すごーく暗ーい歌詞を暗ーくシメるところで明るいコードで終わるところでゾクッときたんですよね。言葉とメロディーが喧嘩してて、なんとも言えない奇妙な空気感を放ってて。売野さんを意識して聴いてたわけじゃないけど、売野雅勇さんの名前が出たときに、〈あ、俺この曲すっげえ好きだったんだよ〉と繋がって、(売野に)その話をさせていただいて、前作の『Yu Are Something』で“桜の闇のシナトラ”の歌詞を書いてもらったところから続く流れなんですけどね。

いつも売野さんには〈こんな歌詞を書いてください〉とは言わないんですけど。〈僕は音楽を仕事ではなく人生だと思ってやってるんで、そんな感じで書いてください〉と(笑)、いちばん難しいようなことを言ってますね。で、あとは雑談です、2時間ぐらい(笑)。

僕は死の話をするのが好きなんだけど、みんなに起こることのくせに死についてちゃんと言ってくれる大人って宗教家しかいなくて。でも売野さんとはいつもそういう話になるんです。〈人が死ぬとはどういうことなんでしょうか。それを言葉でどういうふうに表しましょう。僕らは宗教歌を書くわけじゃないから、死の周りのことしか書けないんですよね〉って。

で、死の周りのことを書くときに今回、“Soul Rain”にはもともとRainというテーマがあったんです。シチュエーションとしてのRainじゃなくて、このRainは僕なんですよ。燃やされた後の僕だから、僕が炭素となって僕の肉が燃えていったときに、絶対に戻ってくるからねっていう歌にすることは決めてたんです。死と生々しい火葬場との繋がりがすごいスリリングでロマンッティックだと思って。それが言葉に出来なくて、ずぅっと10年間ぐらい眠っていた曲なんですけど、今回初めて完成させようと思って、売野さんとの波長がすごく合ってるんで託したって感じですね。雨というシチュエーションで」

――そういうコンセプトで売野さんに作詞を依頼した時点で、この曲はアビー・ロード・スタジオでストリングスを録音すると決めていたんですか?

「もともと、この曲はスタジオで録音してほとんど完成してたんですが、それからすごく時間が経っちゃったんで、魂の入れ方というか、人間の体も6年ぐらいで完全に入れ替わるらしいので新録したいと思ってて。そしたらアビー・ロードで録音が出来ることになって、アビー・ロードならストリングスがいい形で録音できるなと思って、やることにしました」

――“Soul Rain”の前の曲“Dreaming of Yu”にはゴスペル・クワイアが参加しています。この曲には最初からゴスペル・クワイアを入れたいと思ってました?

「ゴスペルのコーラスがハマるだろうなと思ってました。20年近く前に、NYのハーレムだったかな、クワイアの一員としてライブに出させてもらったことがあるんです。僕の他には黒人しかいなくて、特殊な経験でしたね。そのままクリスチャンになる人もいるだろうなというぐらい感動しました」

 

『Touch The World』は〈危なっかしい〉ドキュメント

――『Touch The World』は、音楽アルバムという名のロード・ムービー。そんな印象を受けました。

「そう、ドキュメンタリーだと思ってもらっていいですね、このアルバムは。旅をしながら運が運を呼んで奇跡が連鎖反応して出来上がっていった、危なっかしいアルバムなんです。さかいゆうの名前で作品は出ますけど、僕が作ったというよりも記録みたいな(笑)。そんな気がしちゃいますね。LAとNYとロンドンとサンパウロ。実際行って、楽器の鳴りとかエンジニアの耳もそうだし、食べてるもの、喋ってること、言葉のアクセントとか、やっぱり全然違うんですよね。音楽ってことでは通じ合ってるんだけど感情の表現の仕方がみんな違ってて、それが音に表れてたりする。そういうものをいっぱい学びすぎて言葉に出来ずにいて、今もなんか、もやもやしてる感じっすね(笑)。日本の歴史を含めて、もうちょっと勉強したいなって思ってます」

――昨年、40歳とメジャー・デビュー10周年を迎えたさかいさんが、その次のチャプターに入った手応えを感じるアルバムでもありますが、そうした節目を迎えた意識はお持ちですか?

「あまりないですね、たった10年ですからね。まだたくさん、やりたいことがあるので、ゆっくり時間をかけて実現していきたいです。今は『Touch The World』を作った余韻に浸ってますけど、夢が叶うと次の夢が出てくると言うか、やりたいことが増えてきちゃう」

――10年後、また次の『Touch The World』を聴いてみたいと思います。

「自分もそうですね、聴いてみたいですね。自分が年齢を重ねるとどんなになっていくのかっていうのは、楽しみではあります。自分の感覚として、ずうっと15から18歳ぐらいなんですよ。おじさんと言われる年齢になってるんですが、未だに20歳ぐらいの若者を見ても年上だと勘違いしちゃって。自分が50歳になっても16、17歳の感覚で生きてるのかなあとか、そんなことばっかり考えてます」

 


RELEASE INFORMATION
さかいゆう 6th Album『Touch The World』3月4日リリース

さかいゆう Touch The World ユニバーサルミュージック(2020)

 ※初回限定盤・特典DVDには下記を収録
・“SAKAIのJYU”@日比谷野外大音楽堂(2019年10月13日)LIVE映像(約66分)
・海外レコーディング ドキュメント映像(約27分)

 

『Touch The World』アナログ・レコード、4月18日(土)リリース
フォーマット:アナログ12インチLP (33回転)
レーベル:newborder recordings/Office Augusta Co., Ltd.
■SIDE A
A1. Hey Gaia
A2. Getting To Love You
A3. She’s Gettin’ Married
A4. 21番目のGrace
A5. 鬼灯 feat. Nicholas Payton

■SIDE-B
B1. Soul Rain
B2. 孤独の天才 (So What) feat. Terrace Martin
B3. 想い出オブリガード
B4. グッナイ・グッバイ

※こちらの商品は販売店舗が限られております。ご購入可能な対象店舗など詳細は3月上旬頃(予定)にさかいゆうのオフィシャルサイト・SNSでご案内します

 

“Getting To Love You” 2月28日先行デジタル・リリース
★各リンク先 https://caroline.lnk.to/getting

 

“21番目のGrace” 2月5日先行デジタル・リリース
★各リンク先 https://caroline.lnk.to/21Grace

 


LIVE INFORMATION
さかいゆう “Touch The World” Release Party

2020年5月14日(木)大阪・梅田 CLUB QUATTRO
開場/開演:18:00/19:00
スタンディング:5,500円(税込/整理番号付き/ドリンク別)

2020年5月17日(日)東京・日比谷野外大音楽堂
開場/開演:16:00/17:00
全席指定:6,600円(税込)

バンド・メンバー:FUYU(ドラムス)/日野JINO賢二(ベース)/田中義人(ギター)/Pochi(キーボード)
ゲスト:Michael Kaneko(大阪・東京)/Ovall(東京)
チケット予約:e+/チケットぴあ

 

さかいゆう DUO TOUR “Touch The World & More”
2020年6月27日(土)広島・Yise
2020年6月28日(日)岡山・MO:GLA
2020年6月30日(火)京都・磔磔
2020年7月5日(日)福岡・Gate’s
2020年7月10日(金)新潟・ジョイアミーア
2020年2020年7月12日(日)高知・キャラバンサライ
2020年7月16日(木)北海道・Sound Lab mole
2020年7月22日(水)愛知・NAGOYA CLUB QUATTRO
2020年7月25日(土)宮城・誰も知らない劇場
出演:さかいゆう(ヴォーカル/キーボード)/望月敬史(ドラムス)