才能と経験と縁が実を結んだ、唯一無二の豪華なコラボ作が登場! これまでのキャリアを通じて繋がった仲間たちとのクリエイティヴな化学反応が生み出したものとは?

近所のみんなと作った感じ

 湘南生まれ・南カリフォルニア育ちのシンガー・ソングライター、Michael Kanekoがコラボレーション・アルバム『The Neighborhood』を完成させた。これまでプロデューサーとして、シンガーとして、国内外の幅広いアーティストとコラボをしてきたが、本作では彼の敬愛する面々を迎え、一緒に楽曲を作り上げている。

「今回はシンガー・ソングライターである自分の作品でもありつつ、プロデューサーとして、〈普段はやらないだろうけど、こういう曲を歌ってみてほしい〉みたいな曲を一人一人に書いた感じです。あとは、もうちょっと日本語に挑戦したいっていうのもあったんですけど、僕は英語のほうが得意で、日本語で歌詞を書くのは難しかったので、コラボレーションする相手に歌詞を書いてもらいました」。

Michael Kaneko 『The Neighborhood』 origami(2022)

 ハナレグミ、大橋トリオ、さかいゆう、藤原さくらなど、世代はさまざまながら、音楽性に関しては通じるものがあり、プライヴェートでも親交を持っているアーティストが数多く参加した本作は、タイトル通り〈ご近所さん〉と作り上げたような親密なムードがある。

「僕がこれまでソロ・アーティストとしてやってきたのって、一人でやったほうが自分の理想に早く近づけると思うからやってきたわけで、誰かと一緒にやるときにちゃんとオープンな気持ちでできるかはちょっと心配でした。でも実際やってみたら……全然問題ありませんでした(笑)。今回参加してくれた人はみんな一回は飲んだことがあったり、音楽以外の話もするような人たちだから、普通に友達と音楽を作るようなノリというか、ホントに近所のみんなとワイワイしながら作った感じなんですよね」。

 

それぞれのコラボが生んだ反応

 アルバムの一曲目を飾るのは、ハナレグミ(永積 崇)を迎えた軽快なAOR調の“RECIPE”。〈鼻歌交じりで ジョン・メイヤーかけるのさ〉〈白のストラト〉など、マイケルを構成する〈レシピ〉を綴ったような歌詞も非常にユニークだ。

 「2016年の〈TAICOCLUB〉で永積さんの弾き語りのライヴを観て、めちゃめちゃ感動したんです。当時はまだあんまり日本の音楽を知らなかったんですけど、〈こんな素晴らしいシンガー・ソングライターがいるんだ〉と思って、それからずっと好きですね。永積さんは一度家に遊びに来てくれて、僕にインタヴューするみたいな感じになって、それが歌詞になっていて。タイトルは家にあったスヌープ・ドッグのレシピ本から来てると思います(笑)。永積さんとやるならもうちょっとフォーキーな曲も考えたけど、あえて普段やらなそうな、でも絶対に合いそうなコード進行やグルーヴの曲にしてみました」。

 2曲目の“DRIVEAWAY”に参加した藤原さくらもフォーキーなイメージがあるが、この曲では生演奏のヒップホップ・ビートでラップ調のヴォーカルを披露。〈伸びた蕎麦でも食って のんびりいこうぜ〉のような、ややダークな曲調に合わせた攻撃的な歌詞も新鮮だ。

 「彼女の『SUPERMARKET』(2020年)に僕も英詞サポートで参加してるんですけど、そのなかに一曲スポークン・ワードっぽい曲があって。この“DRIVEAWAY”のトラックができたときに、あの感じを2人でやったら意外性があっておもしろいと思ったんです。歌詞に関しても、〈攻めていいよ〉みたいなことを言いました。例えば僕もAmPmとかの曲に参加するときは普段と違う自分を演じるような気分になるんですけど、さくらちゃんもそんな感じで書いてくれたんじゃないかな」。

 バラード・ナンバー“SHIGURE”に参加した23歳のシンガー・ソングライター、さらさは、大橋トリオが参加した“GIRLS”でも作詞を担当し、惚れっぽい男をなだめる友達とのやり取りが楽しい。マイケルは大橋のバンドにギターとコーラスで参加し、〈ミュージシャンとしては、直接会った人のなかでいちばん影響を受けた〉と語る。

 「さらさちゃんは声もいいんですけど、僕が鼻歌で歌った英語っぽいメロディーに日本語をめちゃめちゃ上手く乗せてくれるんです。なので、大橋さんとの曲もさらさちゃんに作詞をお願いして。僕はもともとギター・キッズで、アレンジのことはあんまり考えてこなかったんですけど、大橋さんからはそこをすごく学ばせてもらいました。“GIRLS”は大橋さんが普段やらないであろう4コードのループみたいな感じなんですけど、大橋さんがブリッジを作ってくれて転調させることによって、大サビが一気に開けましたね」。

 Michael自身がナイル・ロジャースばりのカッティングを聴かせるディスコティークな“SANDIE”はさかいゆうとのコラボ。共同プロデュースも担当したさかいは、生楽器のアンサンブルを作り上げ、みずからローズも弾き、さらには〈こんな僕を裁くがいい いっそ君と砂漠がいい〉と言葉遊びを交えた歌詞も手掛けるなど、楽曲への本気度も窺わせる。

 「この曲はゆうさんのスタイルに少し寄せたイメージで、彼がダンス・ミュージックっぽいのが好きなのも知ってたし、生楽器に対するこだわりも知ってたから、そのあたりをディレクションしてほしくて。なので、デモから全部生楽器に差し替えて、一個一個の楽器にこだわって作りました。僕の2歳と5歳の姪っ子がこの曲をめっちゃ歌ってるらしくて、すごいキャッチーなんでしょうね(笑)」。

 

昔の自分を忘れないように

 インタールード的な“NEIGHB ORHOOD”、Shingo Suzukiによる“Breakdown”のリミックスを経て、ラストには正式デビュー前の弾き語り音源集『Sounds From The Den EP』(2015年)にデモが入っていた“Through The Fire”をバンド・アレンジで再収録。創作の苦しみを分かち合うような、感傷的なナンバーだ。

 「この曲は24歳くらいのときに書きました。大学を出て、どうやったら音楽業界に入れるのか全然わからなくて、でも同級生は外資系の一流企業に勤めていたり、すごいギャップを感じて、〈音楽やめようかな〉と思った時期に、素直な気持ちを初めて日本語で書いた曲です。今回は大橋さんや永積さんと一緒に曲を作っていて、当時の僕からしたら考えられないことだと思うんですけど、そこに昔の自分も入れてあげたかったし、そういう時期があったことを忘れないように、この曲を入れることにしたんです」。

 なお、今作の限定盤には『Sounds From The Den EP vol.3: City Pop Covers』が付属。シュガー・ベイブ“DOWN TOWN”から、湘南繋がりのブレッド&バター“SUMMER BLUE”、ウィークエンドがサンプリングしたことでも話題の亜蘭知子“Midnight Pretenders”など、全5曲を弾き語りでカヴァーしている。

 「シティ・ポップのエレクトリックなサウンドをどうやってアコースティック縛りにするかっていうのは、すごく難しくて。できるだけ音数は少なく、でもただ弾き語りだけだと物足りないから、ちょっとベースやパーカッションを足したり、大変だったけど楽しかったです。通常盤に550円プラスするだけで聴けるので、ぜひ手に取ってほしいです(笑)」。

 

『The Neighborhood』に参加したアーティストの作品。
左から、ハナレグミの2021年作『発光帯』、藤原さくらの2020年作『SUPERMARKET』(スピードスター)、さらさの2022年作『ネイルの島』(ASTERI)、大橋トリオの2021年作『NEW WORLD』(A.S.A.B)、さかいゆうの2019年作『Yu Are Something』(ユニバーサル)、Shingo Suzukiが在籍するOvallの2019年作『Ovall』(origami)

 

EPで取り上げた楽曲のオリジナルを収録した作品。
左から、シュガー・ベイブの75年作『SONGS』(ソニー)、はっぴいえんどの71年作『風街ろまん』(ポニーキャニオン)、ブレッド&バターの79年作『Late Late Summer』(ソニー)、荒井由実の73年作『ひこうき雲』(ユニバーサル)、亜蘭知子の83年作『浮遊空間』(ワーナー)

 

Michael Kanekoの作品。
左から、2017年のEP『WESTBOUND EP』、2020年のフル・アルバム『ESTERO』(共にorigami)

 

さらにご近所の輪を広げるMichael Kanekoの多種多様な外部ワークスを紹介!

 新作『The Neighborhood』における〈ご近所さん〉の多くが過去のコラボ相手であることからもわかるように、Michael Kanekoの外部活動はプロデューサー/ソングライター/アレンジャー/演奏家/ヴォーカリストとして多岐に渡る。ここでは2020年作『ESTERO』リリース後に世に出た主なコラボ例をまとめておこう。まず、同年末にはDJ HASEBEのアダルトなリゾート・ポップ“Paradise”にヴォーカルでフィーチャーされ、自作とは異なる魅力を聴かせている。2021年にはハナレグミの“Quiet Light”、大橋トリオの“Paradise”といった『The Neighborhood』参加組との仕事が印象的だが、特に注目はMiyuuのアルバム『LA LA RAINBOW』での全曲プロデュースだろう。ここではナチュラル志向な主役の持ち味に合わせて全編をオーガニックな良品に仕立てている。

 同年には他にもSKY-HIとTHE SUPER FLYERSの“Tomorrow is another day” (Shingo Suzukiがプロデュース)でフックを担当し、足立佳奈“おやすみ” やCHEMISTRYの名曲リメイク“君をさがしてた”、Deep Sea Diving Clubの“Sunset Cheeks”などを立て続けにプロデュース。さらには先述のHASEBE曲でMV共演していた大比良瑞希の“HOLIDAY”も手掛けている。アレンジを担当した森山直太朗の“最悪な春”もアーシーないい感じの出来だった。

 今年に入ってからは鞘師里保の都会的な“Melt”を手掛け、以前もコラボしたKenichiro Nishiharaの『empath』では2曲で歌唱。瑛人の『1 OR 8』ではブラー風味の“HEADS UP!!”など数曲のアレンジやプロデュースで手腕を発揮……と、広がりながら縁を深めていく〈Neighborhood〉との、また新たな成果にも期待したい。 *狛犬

左から、DJ HASEBEの2020年のミックスCD『HONEY meets ISLAND CAFE -NO SURF, NO LIFE-』(Insense Music Works)、Miyuuの2021年作『LA LA RAINBOW』、SKY-HIの2021年作『八面六臂』(共にavex trax)、足立佳奈の2021年作『あなたがいて』、CHEMISTRYのベスト盤『The Best & More 2001~2022』(共にソニー)、大比良瑞希の2022年作『Little Woman』(サンバフリー)、Deep Sea Diving Clubの2022年作『Let's Go! DSDC!』(Beacon Label)、鞘師里保の2022年作『Reflection』(Savo-r)、Kenichiro Nishiharaの2022年作『empath』(Jazcrafts)、瑛人の2022年作『1 OR 8』(A.S.A.B)、森山直太朗の2022年作『素晴らしい世界』(ユニバーサル)