天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。先日、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を受けて、東京オリンピック/パラリンピックの延期が発表されました。オリンピックは2021年7月23日(金)、パラリンピックは8月24日(水)に開幕します」
田中亮太「延期されていたJリーグやプロ野球の公式戦開幕は、さらなる延期が発表されたばかり。音楽にせよ、スポーツにせよ、当たり前のものとして生活のなかにあった日常の営みやイベントが、一刻も早く戻ってくることを願うばかりです」
天野「新型コロナウイルス感染症によるミュージシャンの訃報もありました。ここ日本では志村けんさんが亡くなったことで、多くの人々が悲しんでいます。海外ではトランペッターのウォレス・ルーニー、ファンテンズ・オブ・ウェインのソングライターでありベーシスト、アダム・シュレシンジャーが亡くなりました。亮太さんはアダムについての追悼原稿を執筆中だとか」
田中「ええ。とても思い入れのあったミュージシャンなので。週明けには掲載したいと思ってます……。さて、気を取り直して今週の5曲を発表しましょう。〈Song Of The Week〉は、そんな現在の状況を映したロック・ソングです!」
1. Iceage “Lockdown Blues”
Song Of The Week
天野「〈SOTW〉は、デンマークのコペンハーゲン・シーンを代表するロックンロール・バンド、アイスエイジの新曲“Lockdown Blues”! 曲名のとおり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を防ぐべく、世界各国で行われている〈ロックダウン=都市封鎖〉を受けて作られたものです」
田中「この1、2週間くらい、日本でもロックダウンが実施されるんじゃないかと、たびたび噂されるようになりましたよね。つい先日は米メディアのFADERが、アーティストの自宅パフォーマンスを集めたオンライン・フェスティヴァル〈Digital FORT〉を開催していましたけど、日本国内アーティストのこういった動きも増えてきそうです。と、話が少し逸れましたが、アイスエイジは“Lockdown Blues”でロックダウンをどんなふうに歌っているんですか?」
天野「ロックダウンの状況下で暮らす人々が抱える閉塞感やフラストレーションを表現している、と感じました。〈自宅に閉じ込められて隔離(confined domestic quarantine)〉という、最近英語圏のニュースでよく見る3ワーズが出てきますね。バンドはこの曲についてのステイトメントで〈身体的な接触ができず、苦境に直面しながらも精神を高めていかなければいけない現状で、他者との繋がりへの強い衝動を感じた〉と言っています。サウンドはアイスエイジらしい、不穏でヒリヒリとしたロックンロール、ガレージ・ロックですよね」
田中「〈Covid-19 Lockdown Blues〉と繰り返すコーラスが、めちゃくちゃ耳に残りますよ。終盤、急にBPMを速めて、荒々しいロックンロール・ジャムを繰り広げるところも痺れました。なお、この曲のBandcampでの販売による収益はすべて〈国境なき医師団〉に寄付されるそう。かっこいい……。ロック・バンドとして、いち早くポリティカルでアクチュアルな事象を歌ったスピード感も素晴らしいですし、文句なしの〈今週の一曲〉だと思います!」
2. The 1975 “Jesus Christ 2005 God Bless America”
天野「2位は1975の新曲“Jesus Christ 2005 God Bless America”。彼らについては説明不要でしょうね。〈SUPERSONIC 2020〉にヘッドライナーとして出演することも本日、発表されました! この曲は、何度目かの延期を経て、現在は5月22日(金)にリリースが予定されている新作『Notes On A Conditional Form』から、6曲目となるリード・シングルです」
田中「〈PSN〉で『Notes On A Conditional Form』からの楽曲を取り上げるたびに言っていますが、これまでのシングルは、UKガラージ~ダブステップに接近したものや、90年代ギター・ポップ調の曲など、すべてバラバラと言ってもいいほどの多彩な曲調。今回の“Jesus Christ 2005 God Bless America”は、フォーキーなサウンドで新鮮ですね」
天野「素朴なアコースティック・ギターと、郷愁を誘う切ない管楽器の響きが印象的です。後半でソロ・パートも歌う女声ヴォーカルは、なんとフィービー・ブリジャーズ(Phoebe Bridgers)! 彼女の美しい歌声が厳かなムードにマッチしている……というか、フィービーの曲みたい(笑)。それにしても、意味深な曲名だなあ……」
田中「〈私はジーザス・クライストに恋をした 彼はとても素敵なんだ〉から始まるリリックで、フロントマンのマット・ヒーリーが持つキリストへの愛を示していますが、それ以降のラインでは〈男の子に恋をしている〉と続きます。さらに、ブリジャーズのパートでも隣人の少女への恋心が歌われていることをふまえると、同性愛を〈罪〉としてきた宗教へのアンビヴァレントな気持ちを映したものなのかもしれませんね」
3. DaBaby “Find My Way”
天野「3位はダベイビーのニュー・シングル“Find My Way”!」
田中「〈2019年の顔〉と言っていいほどの活躍を見せた米オハイオ州クリーヴランド出身のラッパー、ダベイビー。シングル“Suge”とデビュー・アルバム『Baby On Baby』、セカンド・アルバム『KIRK』は大ヒットを記録しましたね。2月の“Shut Up”、先日ご紹介したリル・ヨッティ、ドレイクとの“Oprah’s Bank Account”を経て、ソロ・シングルが届けられました」
天野「サウダージなギターのフレーズのループが切ない曲ですよね。90年代後半から2000年代初頭のR&Bを思い出させるような……。宇多田ヒカルの“Addicted To You”(99年)のハープ・リフみたいな。例えが古くてすみません。僕としては、どっちかというとおもしろキャラで売っていたダベイビーが真面目にラップしているなって感想を持ったんです。サビで歌っているのも珍しいですし。ちなみに、サビの歌詞はこうです。〈俺は自分の気持ちをなだめるためにあの子とファックする/出会う人間は、みんな俺のことをヒーローだと言う/浮き沈みを経て あいつらは俺をヴィランとして扱う/忘れられて、言及されなくなったら?/俺はただの壊れたハートを持ったニガー 家に帰るための道を探している〉。刹那的な成功を経た葛藤とその辛さをラップしていて、シリアスに響く曲なのが新しいなと思いました。ラッパーとしての変化と成長を印象づける、興味深い曲ですね」
4. Frank Ocean “Dear April”
天野「4位は、僕らのフランキーことフランク・オーシャンの新曲“Dear April”!」
田中「〈僕らのフランキー〉なんて呼んでいるのは天野くんくらいなんじゃないですか……?」
天野「(無視して)本日4月3日、各ストリーミング・サーヴィスでこの“Dear April”と“Cayendo”という2曲のアコースティック・ヴァージョンが突然発表されて、僕も含めたファンたちは驚いています」
田中「新曲としては、2019年11月にリリースされた“In My Room”以来5か月ぶり。とはいえ、2曲とも彼が主催したクラブ・イベント〈PrEP+〉でちらっとかけられた曲なんですよね。〈PrEP+〉については、去年の〈PSN〉をご参照ください」
天野「そうなんですよ。“Dear April”はジャスティスの、“Cayendo”はサンゴー(Sango)のリミックスが披露されました。2曲ともフランク・オーシャンのサイト〈Blonded〉で7インチ・シングルが販売されて。僕も当然、買いましたよ!! ようやく発送が始まったようですが、僕の元にはまだ届いていません……。早く届いて(泣)」
田中「(無視して)このアコースティック・ヴァージョンは、フランクの〈歌力〉みたいなものを感じられる、繊細で優しいバラードですよね。メロディーがめちゃくちゃ切ないですし、途中で挟まる変声も彼らしいなと」
天野「いや~。マジでフランクは〈シンガー〉だなって思いましたよ(泣)。稀有な歌手です。〈エイプリルへ 人込みのなかで ただ一人僕が知っている顔/エイプリルへ 君は彼がダンスするのを見ているの?〉という歌い出しから、片思いのままならない恋を感じさせて泣けるじゃないですか。しかも、いまは〈エイプリル=4月〉ですし。それに続く〈僕らは少しの間だけ安全だった〉というラインも、このコロナ禍の状況で聴くと本当に意味深で……(嗚咽)」
田中「え~っと……。フランク・オーシャンは10月に延期になった〈コーチェラ・フェスティヴァル〉のヘッドライナーを務めます。2020年の動向も気になりますね」
5. NAV & Gunna feat. Travis Scott “Turks”
天野「今週最後の一曲は、ナヴとガンナ、トラヴィス・スコットというラップ・シーンのトップ・ランナー3人による“Turks”です」
田中「ナヴはウィークエンドのレーベルであるXOに所属するラッパーですね。ウィークエンドと同じカナダのオンタリオ州トロント出身で、インドのパンジャブ系というルーツを持っているんですよね」
天野「そうなんですよ。彼はインド系だからという理由で、Nワードを使って批判を受けたこともありました。一方で、セカンド・アルバム『Bad Habits』(2019年)やメトロ・ブーミン(Metro Boomin)とのコラボレーション・アルバム『Perfect Timing』(2017年)をヒットさせているラップ界のスター。で、この連載に登場済みのガンナとスーパースターのトラヴィス・スコットについては、説明を省きます! この曲は、アトランタの超売れっ子、ウィージー(Wheezy)がプロデュースした一曲。ガンナのニュー・アルバム『WUNNA』かナヴの新作からのシングルだと言われています。トラヴィスの“YOSEMITE”(2018年)で顔を合わせた3人が再結集したということで、ラップ・ファンは大興奮。3人のヴァイヴスがパッキングされたかっこいい曲ですね。最後のヴァースでラップしているトラヴィスは、〈やっぱり別格な存在感があるな……!〉と思いました。今週はドレイクの“Toosie Slide”、フューチャーの“Tycoon”など、話題曲が多かったですね。それはさておき、読者のみなさまにおかれましては、新型コロナウイルス感染対策をしっかりとしていただければと思います。もはや生命にかかわる状況ですので、本当に、くれぐれもお気をつけください。この状況を生き延びて、音楽を楽しみましょう」