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コラム

パフューム・ジーニアス(Perfume Genius)、苦しみ続けたゲイの青年はいかにして〈解放〉の歌い手になったか

新作『Set My Heart On Fire Immediately』からその歩みを辿る

Photo by Camille Vivier

米アイオワ州デモイン生まれ、シアトル育ちのマイク・ハドレアス(Mike Hadreas)。〈パフューム・ジーニアス〉の名で知られ、2010年のデビューから10年を数えるこの音楽家の表現は、欧米で一貫して高い評価を得ている。

初期のローファイなサウンドから、次第に華麗さと輝きを増していった彼の音楽は、インディー・ポップという枠組みを拡張していると言えよう。しかしパフューム・ジーニアスが優れた表現者である理由は、それだけに留まらない。新作『Set My Heart On Fire Immediately』において彼は、ゲイである自分自身の〈解放〉を歌っているのだ、とライターの木津毅は言う。

パフューム・ジーニアスの唯一無二の歩みと、その真に迫る表現を紐解いた。 *Mikiki編集部

PERFUME GENIUS Set My Heart On Fire Immediately Matador/Beat(2020)

 

クィアな欲望が、これまで許されなかった場所でいま花開く

自分を解き放ちたい――パフューム・ジーニアスの音楽から聴こえてくるのは、いつだってそんなものだ。それはときに願いであり、ときに祈りであり、そして、いつだって〈欲望〉だった。

デビュー作から10年、5作目となる『Set My Heart On Fire Immediately』は、パフューム・ジーニアス史上もっとも高らかに〈欲望〉が解き放たれたアルバムである。何しろ、〈わたしの心に火をつけて、いますぐに〉というタイトルだ。ひとが何かを〈欲望〉すること、それ自体を肯定する力に満ちている。そしてそのために、これまでのパフューム・ジーニアスにはなかった新しいサウンドが鳴らされている。

あなたがそのことを感じたいならば、先行シングル“Describe”を聴いてみてほしい……いますぐに。パフューム・ジーニアスらしい感傷的なメロディーに甘美なコーラスが反響するなか、シューゲイズを思わせるノイジーなギターが覆いかぶさる。そのざらついたロック・サウンドは、やがて後半のアンビエントへと溶けていく。その大胆な構成や立体的なプロダクションに舌を巻くが、それ以上に、優雅さと生々しさがせめぎ合うような複雑な感情表現のあり様に引きこまれずにはいられない。

『Set My Heart On Fire Immediately』収録曲“Describe”

マイク・ハドレアス、すなわちパフューム・ジーニアス自身が監督したミュージック・ビデオでは、アメリカ西部を思わせる埃っぽい土地を舞台にして、そこで暮らす人びとと(ジェンダーやセクシュアリティーを限定せずに)ハドレアスが踊り、重なり合う。そこではクィアなエロスがアメリカの伝統的な風景と交錯している。これは、『Set My Heart On Fire Immediately』を貫く主題である。これまで開け放たれることが許されなかった場所でこそ、ハドレアス自身の官能――クィアな〈欲望〉が花開くのだ。

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