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3. ヴィジュアル:
常識を覆すグロテスクで美しい視覚表現とパフォーマンス

その独特のヴィジュアルは、アルカを語る上で外せない。特に過去3作において、友人のジェシー・カンダとともに作り上げた不気味なアートワークは、アルカの象徴の1つとなっていた。中でも『Xen』『Mutant』は特異で、臓器のような化け物が描かれていたわけだが、これは「肉体の欲求こそ世界を五感で理解するためのテクノロジーだ」というアルカの考えを反映したものだろう。

同時に思い出されるのが、〈FUJI ROCK FESTIVAL ’17〉でのパフォーマンスにおけるVJだ。グロテスクな映像のオンパレードだったということだが、今振り返ると、そのパフォーマンスは我々の価値観への挑戦だったのだと思える。

アルカ&ジェシー・カンダの2018年のライブ映像

アルカ&ジェシーが一般的には悪趣味だと感じるヴィジュアル・パフォーマンスをするのは、美的価値観の恣意性をオーディエンスに気づかせるためだと考えられるからだ。実際、アルカ本人は「何を美しいとするかは、社会によって教えられたものに過ぎない」と、過去に語っている

またそれと同様に、特定の人種や同性愛、トランスジェンダーに対する嫌悪や差別というのは、それらが逸脱したものであると思い込まされてきた社会的な通念から生まれるものに他ならない。そして、それはラテン系のLGBTQ+であるアルカ自身を苦しめてきたことだろう。

だからこそ、アルカはあえて〈常識的〉とされる美的価値観を覆すパフォーマンスをやってのけるのだ。ヴィジュアルでそうしたダイナミズムを大胆に表現できることも、アルカの才能の1つなのである。

 

4. 人脈:
カニエ・ウエストやフランク・オーシャンとの交流、そしてビョークとの蜜月

FKAツイッグス『EP2』(2013年)のプロデュースや、カニエ・ウエストの『Yeezus』(2013年)への参加、フランク・オーシャンとの交流など、客演/プロデュースも引っ張りだこのアルカ。とりわけ興味深いのは、ビョークとの蜜月関係だ。

ビョークは『Biophilia』(2011年)のあたりから、天文を学ぶこともできるインタラクティヴなアプリをリリースするなど、自然や人間の生態をテクノロジーとして捉える表現に傾倒してきた。そんな彼女のフィーリングは、前段で述べたような、肉体を世界を理解するためのテクノロジーとみなすアルカの思想と共鳴しているように思える。

事実、アルカは、ビョークの近作『Vulnicura』(2015年)と『Utopia』(2017年)に参加しており、ライブ・メンバーでもあった。互いの創作において欠かせない存在となっていることは確かだ。また今作『KiCK i』には逆に、そのビョークが参加している。

ビョークの2017年作『Utopia』収録曲“Arisen My Senses”。アルカは作曲などで参加しており、ジェシー・カンダが監督したミュージック・ビデオにも出演している

『KiCK i』収録曲“Afterwards”。ビョークがフィーチャーされている

サウンドにおいても、アルカとビョークの相性はいい。アルカはインダストリアルな音作りを得意としながら、同時に肉体的で生々しい音も織り込むサウンドメイカーである。そんなアルカだからこそ、ビョークのような、肉体とテクノロジーの融合を通じて人間のあり方を問い直す、という命題を持ったアーティストと通じ合うのだろう。