WONKによる通算4枚目のフル・アルバム『EYES』がリリースされる。
本作は、SF仕立てのコンセプト・アルバム。SNSの普及により様々な価値観が共有されていく一方で、自分に都合の良い情報ばかりを集めてしまう〈フィルター・バブル〉や〈エコー・チェンバー〉といった現象により、あらゆるところで起きている〈分断〉や〈衝突〉に目を向けたメッセージ性の高いテーマを、SFのフォーマットに落とし込んだ意欲作だ。新曲10曲を含む全22曲、1時間にも及ぶその内容をはじめ、曲ごとにCGビジュアルイメージと歌詞/対訳を付けた完全予約限定生産の〈アートブック+CD〉での展開など、ストリーミングが普及し楽曲が単体で聴かれることが主流となりつつある現代において、極めて挑戦的な試みを行っている。
ソウルやジャズ、R&B、ロックなど様々な要素をブレンドしたエクスペリメンタルなアレンジや、〈匂い〉や〈手触り〉といった聴覚以外の感覚をも刺激するサウンド・プロダクションは、前作よりもさらに進化しており、もはやカテゴライズ不能な領域へと到達したWONK。この壮大なアルバム『EYES』は一体どのようにしてつくり上げられたのだろうか。メンバー全員に話を訊いた。
WONK 『EYES』 EPISTROPH/Caroline International(2020)
異質な音楽と出会えなくなった〈レコメンド時代〉
──本作『EYES』は、まるで長編映画を1本観終わった時のような余韻を味わいました。〈フィルター・バブル〉や〈エコー・チェンバー〉など、コロナ禍でより顕在化された現象をテーマとして扱っているのも印象的だったのですが、そもそもこうしたアルバムのテーマやコンセプトは、どのようにして思いついたのでしょうか。
井上幹(ベース)「元々はリーダーの荒田(洸)から〈映画のようなアルバムを作りたい〉という話があり、そこにどういうメッセージを込めていくべきかをメンバー全員で詰めていきました。
僕らはミュージシャンなので、音楽が今どういう状況にあるかについての話題が中心になりましたね。今は〈レコメンド時代〉というか、ストリーミングで音楽を聴くと、AIを搭載した〈レコメンド・エンジン〉機能が僕らの好みに合わせた音楽を勧めてくるわけじゃないですか。それって便利ではあるのですけど、その一方で自分の好みに偏り過ぎるというか。似たような曲ばかりを聴き続けることが、果たして良いことなのかはずっと考えていて。
自分が思いも寄らないような、異質な音楽に出会う確率がどんどん少なくなっていく環境は、あまり面白くないよねという話をみんなでした覚えがありますね」
テクノロジーは輝かしい未来を作る?
──アルバムは、4つのSkit(寸劇)を挟みながら壮大な物語を紡いでいく構成になっています。例えば「ブレードランナー」や「マトリックス」「2001年宇宙の旅」「トゥルーマン・ショー」などのSF作品を思わせながら、非常に現代的なテーマを扱っていると思いました。実際にはどんな作品からインスパイアされたのでしょうか。
井上「最近の作品では、Netflixドラマ『ブラック・ミラー』。メッセージ性の高いテーマをSFのフォーマットで伝えるという点では、かなり影響を受けたかなと思いますね、ちょっと星新一っぽいというか」
江﨑文武(キーボード)「これもNetflixドラマですが、『ラブ、デス&ロボット』にもインスパイアされました。『ブラック・ミラー』と同じように、テクノロジーによりユートピアになるはずだった社会がディストピアになっていく話なのですが、こちらはアニメや3D CGなどを取り入れた実験的なところもあって。映像表現としても刺激を受けましたね。やっぱり、Netflixは僕らの生活の中で大きな割合を占めてきているなと感じます(笑)。
あと、荒田から最初に〈こういう世界観で作りたい〉と話があった時には、頭上にパラレルワールドが広がるヴィジュアル・イメージから、『インセプション』の名前も挙がりました。個人的には最近のSFでは『インターステラー』が面白かったので、それも念頭にありました。おそらくメンバーそれぞれに思い描いている作品はたくさんあると思いますね」
──今挙げてもらった作品の多くはテクノロジーに対する懐疑や、シンギュラリティー以降の世界をモチーフとしていますね。
江﨑「人間の思想において、科学が中心的な役割を果たしてきたのはここ最近のことで、100年単位で振り返ると、その前は宗教だったり、より権威的な存在だったり、あるいは哲学的なものが重要な役割を果たしていたと思うんですけど、近年デジタル化が進むにつれて、特に僕らの世代は〈テクノロジーは信用できるもの〉というか、テクノロジーによって自分たちの未来までをも規定されていく感じがすごくあるんですよね。
何か自分たちの考えを主張するときにテクノロジーを軸にするのは、音楽家であろうと美術家であろうと今や主流であるし、それこそメディア・アートの隆盛もそこと同期しているわけで。ただその一方で、輝かしい未来を作ってくれるものだと信じていたテクノロジーに対して懐疑的にもなりつつあるという」