新レーベル第1弾! 音楽監督ウェルザー=メストが自ら選んだ最新ライブ録音3枚組
1970年5月、音楽監督ジョージ・セルと客演指揮者ピエール・ブーレーズに率いられて初来日したクリーヴランド管弦楽団の精緻なアンサンブルと解像度の高い響きは日本の聴衆に衝撃を与えた。とりわけセルが指揮した公演は吉田秀和をはじめ多くの玄人筋の絶賛を浴び、しかも来日からわずか2か月後にセルが逝去したので〈伝説の名演〉として語り継がれている。
セルの辣腕により世界の主要オーケストラとなったクリーヴランド管弦楽団は以降もロリン・マゼール、クリストフ・フォン・ドホナーニ、現在の音楽監督ウェルザー=メストのもとで演奏水準を維持し続け、2018年に創立100周年を迎えた。そしてこのたび新たな自主レーベル(過去セルやドホナーニのライブ録音ボックスなどを制作したことはある)を発足させ、第1弾としてウェルザー=メスト指揮によるライブ録音3枚組が登場した。2017年から2019年の収録で全て指揮者自身が選んだ音源とのこと。
FRANZ WELSER-MOST,THE CLEVELAND ORCHESTRA 『新たなる世紀』 Cleveland Orchestra(2020)
最も目を引くのはベートーヴェンの弦楽四重奏曲第15番の弦楽合奏版。編曲はウェルザー=メスト自身が手がけ、60名編成で演奏している。拡大型編曲にありがちな肥大感がなく、潤いのある瑞々しい音楽。アンサンブルの敏捷性、透明なきめ細かい響きには脱帽でこの楽団の性能を前提にした編曲だと感じる。実はセルも自らの編曲による管弦楽版のスメタナの“わが生涯より”や弦楽器編成を拡大したシューベルトの八重奏曲を取り上げており、時を越えた繋がりが浮かぶ。
続いての聴きものは第4楽章に“フニクリフニクラ”が引用されているリヒャルト・シュトラウスの “イタリアから”。キラキラ波立つ弦とシャープな管打のブレンドがピタッとはまり、織り成しの美に惚れ惚れする。ウェルザー=メストのメリハリのつけ方も見事。
クリーヴランド管弦楽団のいまを伝える上々の内容でスタートした新しいレーベル。次はやはりセルの発掘音源のリリースを期待したい。