研ぎ澄まされた音色と秀でた集中力で奏でた愛と死の物語。レヴィットの深い思索による〈トリスタン〉をテーマにしたアルバムは、ヘンツェ、ワーグナー、マーラーの大曲をリストの“愛の夢第3番”と“夕べの調べ”で優しく包む構成。音楽評論家の吉田秀和氏がいう〈幅の広い音程の飛躍〉で共通性のあるワーグナーの“トリスタンとイゾルデ 前奏曲”とマーラーの“交響曲第10番 アダージョ”は、一つ一つの音が底光りし、前者の冒頭に響くトリスタン和音、後者の19分過ぎに炸裂する和音の爆発の迫力と緊迫感が心を揺さぶる。ヘンツェの“トリスタン”は野趣溢れる音楽が洗練されたサウンドで描かれている。