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エルヴィス・プレスリーの息子

このように鈴木雅之はシャネルズとラッツ&スターの活動段階で、ドゥーワップ、ロックンロール、ソウル、R&B、ポップス、歌謡曲などを含有した楽しさとノリのよさを持つ音楽を生き生きとやっていたわけで、それを広義に〈鈴木雅之が定義するロックンロール〉として括っているのだ。そしてそうした基礎成分は、ソロになって都会の夜に合うソウル・ミュージック成分濃いめの曲を歌うようになり、〈ラヴソングの王様〉と言われるようになっても失くしたわけではなかった。むしろ強く持ち続けた。『ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』という作品タイトル、あるいはコンセプトに付けたその名称は、つまりそのことの自己確認であり主張であり自負であるわけだ。

ここまで書けば、鈴木雅之がなぜデビュー40周年の今『ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』と題した作品をリリースしたかわかっていただけると思うが、もう少しだけ付け加えておこう。例えばこの作品のディスク1の2曲目“Crazy Little Thing Called Love”はクイーンのヒット曲で、フレディ・マーキュリーがエルヴィス・プレスリーのオマージュとして歌った曲である。

『ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』収録曲“Crazy Little Thing Called Love”
 

またディスク3の3曲目“DADDY ! DADDY ! DO ! feat. 鈴木愛理”はアニメのテーマ曲ということもあって既にYouTubeの再生回数が1300万回以上を記録しているのだが、鈴木雅之を知らない海外の人が歌声を聴き、コメント欄に〈エルヴィス・プレスリーの息子か?〉という言葉を残したと聞く。こういったところからも〈鈴木雅之の定義するロックンロール〉を彼がどのように進化させ、彼を敬愛するミュージシャンたちと今に伝えてようとしているのかがわかるし、鈴木が持ち続けるロックンロール・ミュージックに対してのラヴとリスペクトもそこからハッキリ見えてくるわけだ。

『ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』収録曲“DADDY ! DADDY ! DO ! feat. 鈴木愛理”

 

小西康陽とのコラボで生まれた最高のパーティー・チューン

さて、そのデビュー40周年記念アルバム『ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』のなかから、7月15日にシングルがリリースされた。“Ultra Chu Chu Medley”がそれだ。形はCDではなく、7インチのアナログ盤(=ドーナツ盤)。鈴木が7インチをリリースするのはソロでの4枚目のシングル“Dry・Dry”(88年)以来、実に32年ぶりとなるそうだ。そのカッティングをしているのはLAの巨匠エンジニアであるバーニー・グランドマンで、音質面も申し分ないものになっている。

A面の“Ultra Chu Chu Medley”は『ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』のディスク1のオープニングを飾ったナンバーで、シャネルズのシングル曲“ハリケーン”“街角トワイライト”“憧れのスレンダー・ガール”“週末ダイナマイト”を用いて再構築したメドレー。B面は『ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』ディスク1の7曲目に収められていたバラッドの“Tears On My Pillow”で、リトル・アンソニー&ジ・インペリアルズが1958年にリリースした楽曲のカヴァー。シャネルズがアマチュア時代からレパートリーとしていた曲だ。

これは太字にしたい事項だが、2曲とも小西康陽とのコラボレーションによって出来たもの。ふたりのコラボは鈴木の前のアルバム『Funky Flag』(2019年)が始まりで、〈7インチを作りたいね〉と話が合って今回実現したとのことだ。“Ultra Chu Chu Medley”はシャネルズの4曲の繋ぎ方にDJとしての小西の抜群のセンスが反映されているし、“Tears On My Pillow”は小西が推すロックンロール・バンドの少林兄弟が演奏をしている。また、渡辺祐氏のライナーノーツによれば、“Ultra Chu Chu Medley”で鈴木はあえてシャネルズ時代の歌い方によせながら新たにヴォーカルをレコーディングしたとのこと。

『ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』収録曲“Ultra Chu Chu Medley”
 

そして“Tears On My Pillow”はオリジナルに沿ったものではなく、鈴木も小西もシャ・ナ・ナのファンであることから、シャ・ナ・ナのヴァージョンを意識したものになったということだ。先にも書いた通り、シャネルズの〈シャ〉はシャ・ナ・ナの〈シャ〉であるわけで、つまりこの2曲を収めたシングル盤はズバリ鈴木にとっての原点確認、あるいは原点への思い。言うまでもなくシャネルズのデビュー曲“ランナウェイ”もドーナツ盤でリリースされたわけだし、“Ultra Chu Chu Medley”の〈Chu Chu〉にしても本来はチュー・チュー・トレイン(機関車がシュッシュッと音を立てて走る意味)からきているわけだが、ラッツ=ネズミの鳴き声のチュー・チューにもきっとかかっているのだろう。

『ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』収録曲“Tears On My Pillow”
 

デビュー40周年。そのタイミングで、40年前と同じように7インチの形でパーティー・チューンを出すということの意味。それは時代が一周し、しかしここからまたこの先へと歩いていこうとする鈴木の今の思いであり、所信表明でもあるに違いない。

 

コロナの時代に届いた、カラダとココロを躍らせるロックンロール

そしてもうひとつ。コロナのこの時代にこんなに楽しいポップ~ダンス~ロックンロール・ミュージックを届けてくれたことにも鈴木の強い意志を感じないではいられない。筆者は鈴木がソロでの9作目『Tokyo Junction』と初のカヴァー・アルバム『Soul Legend』を同時リリースした2001年にインタビューしたが、ジョージ・W・ブッシュがアメリカの大統領に就任し、死者2万人を出したインド西部地震が起き、米国同時多発テロが起きたその年を鑑みながら、そのときこんなふうに話していたのが印象的だった。

「テレビをつければ悲惨な事件、重いニュースばかりが飛び込んでくる。人間として生きるうえでのルールやモラルがこんなに希薄になるって、なんて寂しくて悲しいことなんだって思うよね。やっぱりもう一度、人としての優しさや思いやりを再確認してみる必要が今あるんだなと思うし。だから僕はずっと、〈ラヴソングを聴くことで、自分自身に優しくなってほしい〉ってことを言っていて。

自分自身に優しくなれれば、人にも優しくなれるわけだからね。今の世の中はそういうところが明らかに欠落している。それを埋めるために僕は〈音で楽しむ〉と書く音楽をやってきているし、優しくなれるラヴソングを歌い続けているわけだから……」

新型コロナウイルスの感染拡大によって人と人とが分断され、パーティーでダンスすることもままならない今だからこそ、彼はカラダとココロを躍らせ、欠落感を優しさで埋めてくれるパーティー・ミュージック、即ち〈鈴木雅之の定義するロックンロール〉〈鈴木雅之が愛と敬意を抱き続けるロックンロール〉を届けてくれたのだと、そうも思う。