映画「AKIRA」の音楽に新たな視点を与えるリミックス集

大友克洋のSFコミックを原作に、大友自身が監督を務めたアニメ映画「AKIRA」(1988年)。公開から36年が経った2024年現在、同作から影響を受けた、または受けたであろう映像作品を探すのはとても容易だ。例え映画自体を観たことがないという人でも、知らず知らずのうちに「AKIRA」の一部を目にしているはずで、その衝撃と興奮は36年間、一切途絶えることなく人々を刺激し続けている。

そんな映画「AKIRA」の劇中で使用された音楽を、久保田麻琴、小西康陽、蓜島邦明がリミックスしたアルバム『AKIRA REMIX』がついにリリースされた。このリミックスは、2023年に大友が自ら企画・構成を手がけた〈大友克洋全集 AKIRAセル画展〉の会場音楽として制作されたもので、単なるイベント用のBGMなどではなく、「AKIRA」の音楽そのものに新たな視点を与える音源となっている。

本稿では『AKIRA REMIX』を深く聴き込むと同時に、オリジナルの映画「AKIRA」の音楽の唯一無二な魅力にも迫っていく。

芸能山城組 『AKIRA REMIX』 ビクター(2024)

 

久保田麻琴、蓜島邦明が思い描く〈新たな「AKIRA」のテーマ曲〉

まず、映画「AKIRA」の音楽は一般的な劇伴と大きく異なる点が2つある。1つは、音楽を手がけた芸能山城組による〈独創的なアプローチ〉だ。山城祥二を主宰とする芸能山城組は、非西欧圏の民族音楽をメインに様々な表現と文化を用いて創作活動を行う実験集団だ。ケチャやガムランといった東南アジアの音楽様式/楽器を取り入れることで、人が持つ根源的なリズム感を刺激していく――言葉で説明するのは野暮かもしれないが、そのトライバルなサウンドデザインに触れれば、誰もが原始的な情景を思い浮かべるはずだ。

大友自身が山城へ直談判したことで実現した「AKIRA」× 芸能山城組のタッグだが、双方の共鳴は作品冒頭から早くも具現化されている。本作を象徴するメインテーマ“Kaneda”をバックに、作品内の世界線=2019年のネオ東京のカオスな状況が次々に目に飛び込んでくる。

複数のジェゴグ(ガムランの一種)に加え、足踏みや男声合唱が徐々に重なっていく同曲は、近未来の世界で奮闘する人間たちの血生臭い姿と不思議とマッチし、「AKIRA」が他とは一線を画すアニメーション作品であることを象徴している。

『AKIRA REMIX』では、久保田麻琴と蓜島邦明がリミックスした“Kaneda”をそれぞれ聴くことができる。久保田による“KANEDA [金田]”は、まるで戦闘機が目の前を横切っていくような音が随所に差し込まれてはいるが、あくまで原曲を生かした処理がなされている。ジェゴグの音の輪郭も強調され、合唱部分もよりシリアスさが増しているようだ。

後者の蓜島によるリミックスは、深い奥行きの男声合唱に比重が置かれ、原曲の民族的な質感が倍増して鼓膜を刺激してくる。どこかドラマチックにも聴こえる両者のリミックスは、それぞれが〈新たな「AKIRA」のテーマ曲〉を思い描きながら制作したのかもしれない。