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 そしてB面ならぬDISC 2は“夕暮れ-instrumental-”から。美しいツインギターの調べの背後で〈V〉の白文字を抜いた碧い五旗が風になびく。やはり〈V〉を象ったステージ中央の舞台装置にも灯がともされ、甲子園の針は凡そ1時間が経過した事実を映し出す。〈V〉は当然、デビュー以来37年を不変不動の布陣で疾走してきた5人衆を象徴しているが、じつは本公演を前にドラムスの田中裕二が脳内出血のトラブルに見舞われて入院/リハビリの為に無念の不参戦(文字通りの〈代打〉はホセ・コロン)となった。だが変わらない〈田中の存在/意義〉は、終盤のメンバー紹介時に2本のスティックを用いて玉置キャプテンが感動的に伝える(必見シーン)。そして後半2曲目“夢のつづき”で、松井五郎の筆によるこんな描写と再会する。〈♪あの日そろいの帽子は/どんな街角にいても/ひとつに広がる空を知っていた♪〉。コロナ禍の今でも(むしろ今こそ?)、滲んで沁みる一節だ。何故じぶんは長年に渡り、このロックバンドに惹かれ続けてきたのか。コトバでの理解を敢えて避けてきたが、ここでの彼らのパフォーマンスに触れることでその問いが解けた気がした。バブル景気/崩壊、9.11、阪神淡路大震災、東日本大震災、そして今般の禍……彼らのデビュー後に起きた数多の出来事を指で数え直し、折々のレパートリーをトレースしてみると、常に激動する時代相や移り気な大衆心理の変化を縫って一向に朽ちない/飽きない/滅びない稀有な結晶揃いのバンドだと今さらながら思うのだ。

 終盤、“悲しみにさよなら”のイントロが流れ、“ひとりぼっちのエール”で閉じて、アンコールが“I Love Youからはじめよう”。本公演を〈蜃気楼のような独自大会〉に譬えるならば、軽快なブラスの前奏が〈幻の行進曲〉のようにも響いてきて感動的だ。そして、満場のスマホ蛍が夜空を揺らす“あの頃へ”。17時24分、甲子園球場の電光掲示板が〈さよならゲーム〉の、秘められた祈願を映し出す。それは彼らが一貫して奏で続けてきた甘美で強靭なオリジナル・ロックの、底流にいつも流れていた〈寡黙な思想〉の表明だろう。どうか本作を自室で開封し、心のアルプススタンドから安全地帯の珠玉ソングスとメッセージに酔いしれてほしい。新しい日常/特別な夏に放たれた本塁打的快心作だ。