コラム

ブルックリン・ヒップホップの歴史とレゲエの深い関係

ブルックリン・ドリルのルーツ、UKとの共通点を探る

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ノトーリアス・B.I.G.らメインストリームがレゲエを取り入れた90年代

バスタ・ライムズのパワフルなラップは、ATCQのようなナードなラッパーだけではなく、ストリート派のラッパーにも大きなインパクトを与えた。ブルックリン出身のラップ・グループ、ブラック・ムーンが93年にリリースしたアルバム『Enta Da Stage』の冒頭を飾る“Powaful Impak!”でも、“Scenario”でのバスタ・ライムズの声ネタがスクラッチで差し込まれている。そして、このブラック・ムーンと周辺アーティストによるブルックリンのコレクティヴのブート・キャンプ・クリックもまた、レゲエを取り入れた音楽性の持ち主だった。

ブラック・ムーンの93年作『Enta Da Stage』収録曲“Powaful Impak!”

ブート・キャンプ・クリックは、3人組グループのブラック・ムーンとO.G.C.、デュオのスミフン・ウェッスンとヘルター・スケルター(Heltah Skeltah)で構成されるコレクティヴだ。ブラック・ムーンのメンバーでもあるDJイーヴィル・ディーが在籍するプロダクション・チーム、ダ・ビートマイナーズ(Da Beatminerz)がメインになって手掛けた、ATCQをハードにしたようなビートの質の高さにも支えられて、高い人気を博した。ブラック・ムーンのメインMCであるバックショットをはじめ、アクセントなどにレゲエからの影響を強く感じさせるラップ・スタイルの持ち主が多かったブート・キャンプ・クリックは、バスタ・ライムズとはまた違った形でのレゲエ要素の導入を提示した。

他にもフー・シュニッケンズ(Fu-Schnickens)やダ・バッシュ・ベイビーズ(Da Bush Babees)など、レゲエからの影響を感じさせるブルックリンのヒップホップ・アーティストが次々と生まれていった。94年には当時14歳だったジャマイカ系ラッパー、ヴィシャス(Vicious)がアルバム『Destination Brooklyn』で登場。レゲエ色の強いラップを聴かせる同作には、ハウィー・ティーもプロデュースで参加したほか、ジャマイカのレゲエ・ディージェイのビーニ・マンも参加。

ヴィシャスの94年作『Destination Brooklyn』収録曲“The Lesson (Feat. Beenie Man)”

メインストリームでも、ヒップホップを代表する人気ラッパーのノトーリアス・B.I.G.が94年のファースト・アルバム『Ready To Die』収録の“Respect”で、ジャマイカのシンガーのダイアナ・キングによるレゲエ・マナーの歌をフィーチャーした。以降もブート・キャンプ・クリック勢の作品をはじめ、モス・デフとタリブ・クウェリのデュオ、ブラック・スターの98年の名曲“Definition”などがリリース。ブルックリンのヒップホップはジェイ・Zやノトーリアス・B.I.G.らのメインストリームでの成功の陰で、レゲエの要素を巧みに取り入れながら90年代を歩んで行った。

ノトーリアス・B.I.G.の94年作『Ready To Die』収録曲“Respect”

ブラック・スターの98年作『Mos Def & Talib Kweli Are Black Star』収録曲“Definition”

 

ショーン・ポール × ブルックリン勢、ダンスホールがヒップホップと交わった2000年代

2000年代に入ると、メインストリームでもレゲエ要素を導入したブルックリン産ヒップホップが多く登場した。LL・クール・Jなどのプロデュースで名を上げたトラックマスターズ(The Trackmasters)の周辺から登場したフォクシー・ブラウンは、2001年にリリースしたアルバム『Broken Silence』で、これまで多かったルーツ・レゲエ風のビートだけではなくダンスホール・レゲエ系のビートも取り入れた。同作はジャマイカのレゲエ・ディージェイの客演も多く、レゲエとの融合を進めてきたブルックリンのヒップホップ文化が生んだ重要作だ。

フォクシー・ブラウンの2001年作『Broken Silence』収録曲“Oh Yeah (Feat. Spragga Benz)”。ボブ・マーリー“Punky Reggae Party”(77年)のフレーズを引用し、トゥーツ&ザ・メイタルズ“54-46 That’s My Number”(68年)をサンプリングしている

ダンスホール方面では、ジャマイカのレゲエ・ディージェイのショーン・ポールもブルックリンのヒップホップと交流を深めていったアーティストとして挙げられる。2002年に放ったヒット曲“Gimme The Light”のリミックスにバスタ・ライムズを客演に迎えていたショーン・ポールは、バスタ・ライムズの2002年のシングル“Make It Clap”のリミックスや、ジェイ・Zの2002年のアルバム『The Blueprint 2: The Gift & The Curse』収録曲“What They Gonna Do”などブルックリンのヒップホップ勢の作品にたびたび参加。こういった交流の成果か、ショーン・ポールはクロスオーヴァー・ヒットしアメリカでも大きな人気を獲得した。

ショーン・ポールの2002年作『Dutty Rock』収録曲“Gimme The Light (Pass The Dro-Voisier Remix) (Feat. Busta Rhymes)”

バスタ・ライムズの2002年作『It Ain’t Safe No More...』収録曲“Make It Clap (Remix) (Feat. Sean Paul and Spliff Star)”

その他にも、リル・キムやファボラスらがレゲエの要素を取り入れた曲をアルバムに収録。2000年代のメインストリームは南部勢が主導して主流のサウンドが大きく変化していったが、ショーン・ポールのブレイクに伴うレゲエの流行もありブルックリンに根付いたレゲエ要素は失われずにそのまま残っていった。

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