コラム

ティエスト(Tiësto)『The London Sessions』ダンス・ミュージック界の皇帝が時代に寄り添ったポップな新作

ティエスト(Tiësto)『The London Sessions』ダンス・ミュージック界の皇帝が時代に寄り添ったポップな新作

プライヴェートでも幸せいっぱいの皇帝が届けた久々のオリジナル作は、ロンドンで作り上げた英国メイドの賑やかな一枚! 期せずして時代性にも寄り添ったポップソングで踊ろう!

 昨年は5月に〈EDC JAPAN 2019〉で来日を果たし、9月には婚約者とグランドキャニオンの豪華ホテルで結婚式を行って、その後は新妻と日本観光を楽しんでもいたティエスト。もはや蛇足すぎる紹介ではあるものの……今年1月で51歳になり、公私に渡って絶好調な彼は35年のDJキャリアを誇る大ヴェテランだ。ダンス・ミュージック大国であるオランダはブレダの出身……というか、彼の活躍があったからこそ後進のハードウェル、マーティン・ギャリックスに至るまでのスターたちが登場してきたと言っても過言ではない。EDMブームなど想像もつかない時代からハウス/トランスDJとして活動を続けてシーンを創り上げ、やがてはDJとして初の五輪セレモニー出演まで果たし、オランダ王室からナイトの称号を授かりもした、それほどの存在なのである(マーティン・ギャリックスがアテネ五輪のティエストを観てDJを志した話は有名だろう)。

TIËSTO 『The London Sessions』 Musical Freedom/PM:AM/Universal/ユニバーサル(2020)

 そんな〈世界最高のDJ〉として帝王・皇帝と称される彼が、6年ぶりのニュー・アルバム『The London Sessions』をリリースした。キャリアの長さに反比例してオリジナル・アルバムの多くない彼らしく、今作は『A Town Called Paradise』(2014年)以来となる通算6作目。もともとプリーム&ポスト・マローンのラップ曲をティエスト&ジェコがリミックスする形で生まれた大ヒット“Jackie Chan”(2018年)が例外的に収録されてはいるものの、基本的にはタイトルそのままに、昨年から今年にかけてのロンドン滞在中に制作した楽曲で構成されている。

 そんな大筋のテーマ通り、ジョナス・ブルーと組んでリタ・オラが歌った“Ritual”(フレイザーT・スミスもコライトに参加)をはじめ、“God Is A Dancer”には昨年ブレイクしたメイベルをフィーチャー、さらにゴーゴン・シティと共同プロデュースしたベースライン・トラックの“Nothing Really Matters”ではベッキー・ヒル(オリヴァー・ヘルデンスからカイゴまで硬軟EDM作品でお馴染み)を迎えるなど、先行ヒットの多くは英国のヴォーカリストやクリエイターたちとコラボしたもの。懐かしい名前としてはアーシーなトロピカル・ハウス“Blue”でスティーヴ・アップルトンが苦み走った歌唱を披露しているのも注目で、10年ほど前に日本でブレイクしていた姿を知らない人も惹きつけられるに違いないパフォーマンスだ。

 ただ一方では、気さくな大物スヌープ・ドッグが空気を読まずノビノビとカリフォルニア讃歌“On My California”を披露していたり、続く“Round & Round”では個性的な歌い口で注目されるマイアミのギャルクサラ、“Lose You”ではスイスのイリラをフックアップしたりもするので、演者の国籍にそこまでこだわったわけではない様子。とはいえ、いつも以上に欧米メインストリーム寄りの雰囲気に仕上がっているのはこうしたプロセスと無縁ではないだろう。ベッキー・ヒルはアルバム用にもう1曲“Over You”を披露し、ゴーゴン・シティやジャックス・ジョーンズらとコラボしてきたカミルは2曲で登場、そして本編ラストの“Insomnia”をパワフルに歌うヴァイオレット・スカイズ(冒頭の“God Is A Dancer”も共作)も英国のヴォーカリストだ。

 そのように屈託のない歌モノとしての側面を重視した、ストイックにダンスフロアやスタジアムを意識しないポップ志向の楽曲集、とは言っても、そこはティエスト。彼の名前で世に出る意味のあるダンス・ミュージックとしての機能性は当然キープされているし、そもそも現行のマーケットにおけるポップソングの多くが広義のEDM影響下にあるわけで、そこに大きな隔たりがあるはずもない。

 そうでなくても、フェスやDJプレイなどの楽しまれ方が変質せざるを得ない現況において、ちょうどいい塩梅のダンス・ポップが多様な状況下にある受け手を浮き立つような気持ちにしてくれるのは確かだろう。世界各地の人々が自宅で踊る様子をまとめた“Nothing Really Matters”のMVも印象的だったが、やはりさまざまな現場を相手にしてきた世界最高のDJは、どんなシチュエーションであっても最高のサウンドでオーディエンスを楽しませてくれるのだ。

 

『The London Sessions』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

 

関連盤を紹介。

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