時代を作ったアンセム、新時代の規模感を見せたヒット、いまも心に残る名曲――初のベスト盤が届いたアヴィーチー、その唯一無二の魅力と存在感は永遠だ!

時代を作ったアーティスト

 世界的なDJ/プロデューサーとして時代を席巻し、2018年にこの世を去ってから7年。アヴィーチーの軌跡を辿るベスト・アルバム『Avicii Forever』が登場した。“Levels”(2011年)や“Wake Me Up”(2013年)を筆頭にキャリアを象徴するヒット・チューンがアルバム未収録曲も含めて満載され、エクスクルーシヴな新曲としてエル・キングをフィーチャーした“Let’s Ride Away”も収録。改めてそのキャリアを振り返ってみると、彼が残したアンセムや人気曲の多さに無条件に興奮させられるのはもちろん、そうしたヒット規模じゃない部分でも彼が2010年代を代表するアーティストの一人だったことを改めて認識させられるのではないだろうか。

AVICII 『Avicii Forever』 Universal/ユニバーサル(2025)

 アヴィーチーことティム・バークリングはスウェーデンのストックホルム出身で89年生まれ。女優のアンキ・リデンを母に持ち、幼い頃からさまざまな音楽に親しんでピアノやギターを習っていた彼は、DJだった兄の影響で音楽制作ソフトを知り、16歳の頃から独学で自身の音楽を作りはじめる。レイドバック・ルークやエリック・プライズ、スウェディッシュ・ハウス・マフィアの面々、ティエストら先人の影響を受けながらベッドルームでダンス・ミュージックを生み出し、ブログやMySpace上に楽曲を発表していくようになった。

 もともとアヴィーチーを名乗ったのは、MySpaceページを作成する際にすでに本名でアカウントを作っていたためだそうで、由来はサンスクリット語で〈地獄〉を意味する〈avīci〉の綴りを変えたもの。当初の作風はプログレッシヴ〜ディープ系のハウス・トラックで、2007年から2010年にかけて彼はオリジナル/リミックス問わず多作ぶりを見せ、さまざまな名義も用いながら地元のジョイアや豪州のヴィシャス・グルーヴなどから楽曲を量産していく。2010年にはティム・バーグ名義での“Seek Bromance”が欧州各国でTOP20ヒットを記録。それに続くヒットが自国でチャート4位を獲得した“Fade Into Darkness”(2011年)だったが、同曲を無断借用(コラボ扱いにすることで和解)したレオナ・ルイスの“Collide”が全英4位ヒットを記録したことも以降の飛躍を後押しした。その半年後にアヴィーチーはエタ・ジェイムス“Something’s Got A Hold On Me”をサンプリングした“Levels”を発表。こちらは自国のチャート首位を獲得するだけでなく全英4位まで上昇し、EDMがメインストリーム化していく時代に相応しい新星として彼を世界に紹介することとなった。