©Ed Cooke

パーティー・ガールのスピリットはそのままに、また一歩キャリアを前進させたリタ・オラ。待望すぎるニュー・アルバム『You & I』が纏った新たな喜びとは?

 以前から多数のダンス系DJ/プロデューサーとコラボを重ねてきたリタ・オラ。カルヴィン・ハリスからディプロ、アヴィーチー、アレッソなどなど、大物ズラリ。2018年の前作『Phoenix』以降だけでもカイゴ、ティエスト、ジョナス・ブルー、シガーラ、サム・フェルド、デヴィッド・ゲッタ他、数えきれないほど多くの時のプロデューサーたちと共演を果たしてシングル・ヒットを放ってきた。とはいえ、クラブ・ミュージック界の重鎮ファットボーイ・スリムの“Praise You”(98年)をリメイクした“Praising You”には誰もが驚かされた。刷新/再構築されたその鮮やかなサウンド。90年代ダンス・ヒットの大ネタ使いが人気を呼ぶ昨今、この名曲を絶妙なタイミングで引っ張り出すセンスにも脱帽させられる。しかもご本家ファットボーイ・スリムことノーマン・クックまで参加。〈feat. Fatboy Slim〉とクレジットされ、MVにもチラ出演。グラミーを受賞したパーティー・アンセムが見事に蘇った。そのMVでは、スパイク・ジョーンズ監督のオリジナル版にオマージュが捧げられ、ダンス集団を率いた彼女が華麗なステップを披露。リタ自身はこのように語っている。

 「ノーマンは楽曲の使用を許可してくれたのみならず、制作にも参加してくれました。幼い頃から耳にしていた素晴らしい名曲を、こうした形で再構築できて、敬意を示せて光栄です。すでにこの曲には、リスナーひとりひとりのさまざまな解釈があり、思い出があると思うのですが、私にとっては愛する人を讃えて、一緒にいる喜びを噛み締める曲だと思っています。今回、新たな生命を吹き込み、次世代へと橋渡しできる素晴らしい仕上がりになったと自負しています」。

 一方のファットボーイ・スリムはと言えば「深夜のグラストンベリー・フェスティヴァルで彼女と出会って意気投合、素晴らしいコラボレーションが実現したよ。とても素晴らしい楽曲が完成した。新たな生命がここに誕生した」とコメントしている。

 そんなパーティー感満載のリード・シングルを収録した新作『You & I』は、冒頭でも触れた通り前作から約5年ぶり、通算3作目のアルバムだ。ファンが首を長くして待っていたのみならず、結婚後初のアルバムという点でも広く注目を浴びている。恋多き女性として知られ、ブルーノ・マーズからカルヴィン・ハリス、エイサップ・ロッキー、ドレイク、俳優のアンドリュー・ガーフィールド、前作をプロデューサーしたアンドリュー・ワットまで数々の浮名を流してきた彼女だが、ニュージーランド人映画監督/俳優のタイカ・ワイティティ(『ソー:ラブ&サンダー』『ネクスト・ゴール・ウィンズ』)と昨年ついにゴールイン。新作にはそんな現在の幸せ溢れる新婚ムードや心境も投影されている。ゆったりしたポップソングが増えて、優しさや柔らかさを感じさせる瞬間にハッとさせられる。

RITA ORA 『You & I』 BMG(2023)

 総合プロデュースを担ったのは、ポップ&オークで知られたオーク・フェルダー。アリアナ・グランデやニッキー・ミナージュ、アリシア・キーズらを手掛けてきた彼が、スマートで機知に富んだサウンドを展開する。歌詞のテーマも、より内省的なものに変化。過去を振り返って若き頃の自身に捧げた“Girl In The Mirror”、ロンドンの街角で友人たちと気ままに過ごした10代を回想する“Notting Hill”、母親に対するほろ苦い思いをしたためた“Shape Of Me”など、じっくり受け留めたい、味わい深いナンバーが揃っている。そして、もちろんパーティー・ガールだった20代の頃のスピリットも健在だ。それは決して失われることはないと彼女は宣言する。

 〈あの娘はパーティーが大好き、パーティーをやっていつも騒ぎたがっている〉と歌われるその“That Girl”では、リック・ジェイムズが手掛けたエディ・マーフィーのヒット曲“Party All The Time”(85年)を引用。思わず一緒に口ずさみたくなるファンキーなパーティー・チューンに仕上がっている。あの娘とは、もちろんリタ自身のことで、「That Girlを葬るわけにはいかないの。〈結婚したのだから、もう子どもみたいに振る舞えない〉なんて心にもないことは言えない。私はこれからもずっと外に出掛けて、みんなと一緒に楽しみたいから。子どものまま、女の子のままでいたい」と説明する。一方、アルバムのタイトル曲“You & I”は、言わば彼女なりのウェディング・ソングだという。

 「この曲を聴くたびに、ふたたびあの場にいるような気持ちになって涙ぐんでしまいます。夫婦で初めてダンスを踊ったあの場所に戻してくれる曲なんです」。

 ラヴ&ピースを愛して自由を謳歌し、奔放に生きてきた彼女が、ついに手に入れた安らぎと信頼がアルバム『You & I』には漲っている。先述したリード・シングル“Praising You”と“Don't Think Twice”のMVを監督したのは、夫のタイカ・ワイティティ。公私共に一緒に歩みを進める2人は、エンタメ界の新たなパワー・カップル誕生と言えそうだ。 *村上ひさし

左から、リタ・オラの2012年作『Ora』(Roc Nation/Columbia)、2018年作『Phoenix』(Atlantic)、ファットボーイ・スリムの98年作『You’ve Come A Long Way, Baby』(Skint)

リタ・オラが参加した近作。
左から、ジョナス・ブルーの2020年作『EST.1989』(Positiva/EMI)、ダイアン・ウォーレンの2021年作『The Cave Sessions Vol. 1』(BMG)、ソフィア・レイエスの2022年作『Mal De Amores』(Warner Latina)