節目の年に相応しい感謝の念を込めたアルバムが描き出す、喜びも苦しみも分かち合う覚悟と未来への願いとは?

 こんな時代だからこそ、ヤイコの前向きで力強い歌声が聴きたい――デビュー20周年を飾る11作目のオリジナル・アルバム『Sharing』は、そんな願いを形にしたポジティヴなパワー溢れる作品だ。Sharing=分け合う/分担するという意味のもと、エレクトリック&アコースティックなバンド・サウンドを基軸に、等身大のハッピーを届けてくれる8曲(+ボーナストラック1曲)。20年の道のりを逞しく歩み続ける、矢井田瞳の姿はとても眩しい。

矢井田瞳 『Sharing』 青空レコード/Village Again(2020)

 

音楽にしかできないこと

――予想よりも、バンドのグルーヴがしっかり出ているアルバムだな、というのが聴いてみた第一印象でしたね。

「うん、やっぱりバンドが好きなんですよね。〈このメンバーだからこそできる音楽〉を毎回作りたくて、そのメンバーでしか出せないグルーヴが大好きで、今回はバンド・サウンドにもこだわって作っていますね」

――鶴谷崇(キーボード)さんがアレンジして、西川進(ギター)さん、FIRE(ベース)さん、水野雅昭(ドラムス)さんという、お馴染みのメンツを集めたバンド・サイドと、最近活動を共にしている高高-takataka-のアレンジャー・GAKUさんと一緒に作ったアコースティック・サイドと。大きく分けると、二つのグルーヴがあるのかな?と。

「これからバンドでのライヴも増えそうなので、“いつまでも続くブルー”や“あなたのSTORY”は、鶴谷さんにリアレンジしてもらいました。特に“いつまでも続くブルー”は、歌詞やメロディーの持っていた解放感が別のベクトルで表現されたかなと思います」

――片や、GAKUさんのアレンジは、アコギをメインにしつつピアノ、打楽器やウクレレとか、楽器の配合がすごくカラフル。

「“かまってちゃん。”のウクレレ、いいですよね。GAKUさんのコーラスワークも凄くて、自分で曲を書いて歌う人には思いつかないような、あえてメインのメロディーにぶつけて、それでもめっちゃかっこいいコーラスとか、アイデアをたくさん出してくれるんです」

――曲は最近書いたものが多いですか。

「いつ書いたんやっけ?と思うと、ちょうどコロナ前に3曲、自粛中に2~3曲、自粛明け3曲みたいな感じになってましたね。ステイホーム期間が始まった頃はやっぱり落ち込んで、やる気が出ない時期もありましたけど、SNSで〈#うたつなぎ〉がいくつか回ってきた時に、気持ちを切り替えてギターを持って歌ってみたら、やっぱり楽しくて。音楽にしかできないこともあるなあと思って、そこからはずっと止まっていないです」

――結果、ここ数か月のドキュメンタリーみたいな作品になった。

「本当にそうです。歌詞も、リアルタイムで思っていることが出やすいタイプなので、今年の2月から9月までの出来事を反映した、ドキュメンタリーっぽい感じのアルバムになっていますね」

――“あなたのSTORY” は特にそうですよね。まさにコロナ禍の真っ最中に書かれた曲。

「自粛期間中に、この世の中に音楽の一雨を降らせるなら、〈とびきり明るい前向きなやつを書きたい!〉ってTwitterでつぶやいたら、産経新聞社の方が見てくださっていて、〈#コロナの先で〉というプロジェクトに誘っていただいたんです。10代から90代まで、いろんな世代の方の希望のメッセージを募って、それをもとに歌詞を書きました。皆さんのメッセージがあったからこそ書けた、包容力のある曲だなと思います」