いよいよデビュー20周年のアニヴァーサリー・イヤーに突入! 歳月を経てなお響く揺るぎない歌の数々は、マイペースに進み続けてきた彼女の新しい始まりを告げる!

 デビュー20周年を迎えて、いまがいちばん自然体でいられるなんて、なんて素敵なことだろう。ヤイコこと矢井田瞳の、20周年プロジェクト第1弾ミニ・アルバム『Keep Going』は、近年ライヴを共にしているアコースティック・ギター・ヴォーカル・デュオ、高高-takataka-の全面バック・アップを受け、デビュー曲“B'coz I love you”をはじめ、“I'm Here Saying Nothing”“Ring My Bell”など往年のヒット・チューンをリアレンジ。瑞々しい歌声はそのままに、アコースティック・サウンドという新たな衣装を身に纏い、華やかなアニヴァーサリー・イヤーがここから始まる。

矢井田瞳 Keep Going 青空レコード/Village Again(2020)

 

そういう時代があっての現在

――yaiko名義で昨年リリースしたEPの『Beginning』と、合わせて一枚みたいな感じがしますね。リアレンジ+新曲という構成も同じですし。

「〈20周年に向けて走り出すぞ!〉という思いが詰まった『Beginning』の続き、みたいな感じはありますね。アコギ3本のライヴをやっていくなかで、これまでリリースした曲が違う輝き方をする瞬間があって、〈もう新曲になったな〉と感じることが楽しくて。これは引き続きやりたいなというのが、今回の作品にも色濃く出てますね。この半年間ライヴをいっぱいしてなかったら、この形にはならなかったかもしれない」

――高高-takataka-とのコラボも、どんどん進化してます。

「バンド感が出てきましたね。最初の頃は、練習したことをライヴで披露する感じだったんですけど、最近は、誰かがトラブったら瞬時に誰かがカヴァーしたり、そういうことができるようになってきました。ふとしたコード進行とか、自分の中にないものを持っていたりするから、2人から教わることは多いです。アコギのボディー・ヒットでリズムを出すのも2人に勧められて、最初はアザができましたけど(笑)。でもこの年になって新しいアザができるのか~と思うと、楽しかったりもして」

――選曲はどのように?

「『Beginning』には入らなかったけど、ライヴですごく映えた曲とか、アコースティックにハマりそうな曲とか、そういう感じです。基本はアコギのアレンジですけど、ピアノでやってみたり、ベースを足したり、より自由度の高いアレンジになってます。“Over The Distance”ではピアノ弾き語りに初トライしてすごいドキドキしました(笑)。クリックもないし、揺れてはいるんだけど、それはそれで、このときにしかできなかったものという感じです」

――リアレンジによる新発見もあったり?

「例えば“Look Back Again”とか、すごい暗い歌詞のイメージがあったんですよ。確かに文字だけ読むと暗いし、リスナーのほうもそういうイメージなのかな?と思っていたら、ライヴでみんなとびきりの笑顔になってくれたりして。自分の印象と、ライヴで育っていった曲の印象は、もう変わってるんだなというのが新発見でしたね」

――アコースティックは歌詞がよく聴こえるので。確かに暗い歌詞が多いなと(笑)。“I'm Here Saying Nothing”とかも。

「“Look Back Again”を書いた頃はすごく忙しくて、丁寧に生きれてなかったんです。忘れたい過去ばかりなんだけど、それを忘れるんじゃなく、ちゃんと振り返りながらやっていかないと将来が見えないだろうと思いながら書いた曲です。“I'm Here Saying Nothing”も〈何も言わずにここにいる〉ですもんね。暗いです(笑)。でもそういう時代があったからこそいまがあると思ったら、愛おしいです」

 

〈たい〉がいっぱいある

――デビュー曲“B'coz I love you”についてはどうですか。

「“B'coz I love you”に関して言うと、いまの私にはまったく書けない歌詞だし、曲だなと思うので、いい意味で客観的にリアレンジできました。この曲を知らない人の気持ちで取り組めたので、守りに入らずに行ききれた感じがあります」

――いまの私には書けないというのは?

「だって、この歌詞、怖くないですか? 怨念系で(笑)。たぶん実生活ではこういうふうに行けないから、それが曲のほうに行っていたんだと思います。昔は、〈音楽は音楽〉〈学業は学業〉〈友達は友達〉みたいにバラバラだったので、一つ一つ無意識に顔が変わっていた気がします。そこで少しずつ溜まっていた鬱憤みたいなものが、怨念系の曲に入っていたのかもしれない(笑)。それはそれで、その時しか出せないものなんですけどね」

――一方、新曲の“Cheers foy you”は、東京都のパラスポーツ普及に関わるタイアップ曲です。

「先に映像を見せてもらって、エッジの効いたかっこよさが集約された映像だったので、サウンドもそういうものにしたいなと思ったのと。何かに向けてがんばってる人が、これを聴いてさらにがんばれるものにしようとか、応援する人がもっと応援したくなるようにとか、そういうものを探していたら自然とこういう形になりました。高高-takataka-とサウンド・プロデューサーのGAKUさんの4人でスタジオに入って作ったので、バンドっぽくて、作曲的にはすごく楽しかった。歌詞は苦労しましたけどね。選手側と、応援する側と、どっちの目線でも捉えられるものを書くのが難しくて。それでも2週間かからずに出来上がった、わりとミラクル曲です」

――並べてみると、この曲だけ〈I〉よりも〈You〉が主役なのかなって思うんですよね。

「それはここ20年の変化かもしれない。〈私が〉というものがどんどんなくなってきて、〈私にできること〉とか、そっちの方向になってきてる。20年といえば、成人式じゃないですか。気持ちは十代のときと変わってない部分も多いけど、〈大人って何だろうな?〉と思うと、〈私がこうしたい〉という時期を経て、〈誰かのために〉とか、自分が持ってるものと誰かが持ってるものを合わせて何ができるか?とか、そういうことになっていくのかなと思います」

――ここから始まる20周年。精力的に活動してくれますか。

「はい。いろんなことに挑戦してみたいし、〈たい〉がいっぱいあります。出たことのないフェスにも出たい、山口洋さんとやってるプロジェクト〈MY LIFE IS MY MESSAGE〉もまたやりたい、久々にバンドでやりたい、エレキで曲を書きたい、いままで行けていなかったところも回ってみたい、音楽好きな人が平日でも飲みに来るような場所でやりたい――それだけで、2021年になっちゃいますね(笑)」

――楽しみです。あと、そうそう、限定盤のDVDに入ってるライヴ・ヒストリー映像もすごく楽しかったです。

「映像作品に関しては、私は自分が歌っている姿をチェックするのが本当に苦痛で、指の隙間から見るみたいな感じだったので。ここで初めて見るような映像もたくさんあって、すごく新鮮でした。副音声を入れたんですけど、それも楽しかった。ドームでのライヴのとき、上から雨を降らせる演出があったんですけど、〈実はあのとき感電していたんです〉とか言って(笑)。当時のライヴを観てくれていた人も、また違う見方ができると思うし、観たことのない人も、これを観てライヴに来てくれると嬉しいですね」