業火に覆われた時代、13年もの長い沈黙を破ってふたたび彼らが動きはじめた。壮大なスケールで広がる『Inferno』が描くのは地獄絵図なのか、あるいは……?
マイペースに推移してきたキャリア
スコットランド出身のボーズ・オブ・カナダは、マイケル・サンディソンとマーカス・オーウィンによるエレクトロニック・ミュージック・デュオだ。86年に結成された当初は2人以外のメンバーも在籍するバンド形態で活動していたが、96年から現在の編成となった。
彼らの名が広まりはじめたきっかけは、同年にマンチェスターのレーベルであるスカムからEP『Hi Scores』を発表したことだ。物憂げな雰囲気やデチューンされたシンセの響きといった、彼らのトレードマークとなっているサウンドを楽しめるこのEPはUKダンス・アルバム・チャートで34位にランクインするなど、一定の成功を収めた。
それから2年後、彼らはエレクトロニック・ミュージック史に残るファースト・アルバムを世に放った。『Music Has The Right To Children』(98年)である。スカムとエレクトロニック・ミュージックの名門ワープの共同リリースとなったこのアルバムによって、彼らは名声を確固たるものとした。ヴィンテージ機材を用いたサウンドはメランコリーが漂うサイケデリアを創出し、ヒップホップからの影響が窺えるビートは柔和さと不気味な雰囲気を醸している。そこに交わる中毒性が高いメロディーも耳から離れない。ビート以上にメロディーを重要視する彼らの姿勢は、この時からすでに確立されていた。
2002年には、2枚目のフル・アルバム『Geogaddi』をリリース。前作以上にサイケデリックな側面が増大し、加工されたアコースティック楽器の音色を強調した内容は、それまでの作品と比べてダークな雰囲気が目立つ。同作の発表に伴うインタヴューで、サンディソンは2001年に起きたアメリカ同時多発テロ事件が作品の色合いに強く影響を与えたと述べているが、それがダークさという形で表れたのかもしれない。
2005年のサード・アルバム『The Campfire Headphase』では、2作目で見られたアコースティック楽器の要素が増した。曲構成はシンプルになり、フォークの香りを随所で楽しめる。いわばフォークトロニカとも言える内容だ。そうしたプロダクションのおかげで、彼らの良質なメロディーがより前面に出ているのも見逃せない。
4作目『Tomorrow’s Harvest』(2013年)は、前作から約8年という長いインターバルを経て発表された。ドラムマシーンとサンプラーの使用を抑え、生のドラムとパーカッションの割合を増やすなど、2〜3作目のアコースティック志向が受け継がれている。ウェンディ・カルロスやマーク・アイシャムといった映画音楽から強い影響を受けたサウンドは、不穏な空気を隠さない。“Cold Earth”“Come To Dust”といった曲名も、この世の終わりをさすような言葉が並ぶ。同作は全英アルバム・チャート7位を記録するなど、ボーズ・オブ・カナダ史上最高の商業的成功を得ている。