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蓄積された印象が、曲となって出てくる

――このアルバムに関しては、リリースを考えずにただただ作っていたんですか?

「前作を出したあとに作りはじめて、レコーディング・メンバーを集めて何回かその編成でライブもしたんですが、だんだんどうでもよくなってきた(笑)。終わらない作業を続けていくのもいいかなって。とはいえ、その間ずっと音楽を作り続けていたかっていうとそうでもなくて、自分のなかにまったく音楽が流れないときもありました。音楽を聴くよりもラジオ英会話の方が心地いい、みたいな。

でも、歌から離れたという感じではなくて。京都を離れるときに、バンヒロシさんが『ゆーきゃんな、歌ってないときこそいちばん歌ってんねんで』と言ってくださったんですけど、ちょっとその意味がわかった気もします。音楽を聴くのも、ラジオ英会話を聴くのも、子供たちの会話が聞こえてくるのも、すべて繋がっていると思う」

※京都で40年以上にわたって活動を続けるロックンローラー。小西康陽や横山剣らミュージシャンにもファンが多い
 

――そのなかで、ゆーきゃんが〈音楽を作ろう〉となるタイミングはどういうとき?

「僕が住んでいるのは川のそばで、家の前から山が見えて、車を飛ばせば10分で海へ出ることもできて、とにかく風景がとても鮮やかなんですよね。だから日々生きているだけで、いろんな印象が積もっていく。そういう自分のなかに蓄えられた感覚が、どこかのタイミングですっと流れ出すときがあるんです。そのとき、〈今日は何もせずにギターを持って待ってみよう〉という気持ちになる。それが曲に繋がっていくような感じなのかな」

――たとえば今作に収録した曲だと、どういう印象を映したものがあります?

「どういう気持ちでこの曲を書いたとかは、もう自分でもわからなくなっていますね。ほとんどがいろいろな感情の交差したものだと思う。ただ、その曲の原風景がどういうものなのかはよく覚えていて、たとえば”烏“は、国道沿いに広がる田んぼ、送電線がずっと続いていく向こうに夕陽が沈んでいく景色。”ノアの蛙”は、前夜の豪雨から明けたばかりの天然芝のグラウンド。“サイダー”なんかは書いてから十数年になるけど、曲の始まりとなった景色をいまでもはっきり思い出せる」

――“サイダー”の原風景を教えてください。

「えーっと、京都・出町柳の橋です(笑)。あの出雲路の。当時僕は元田中に住んでいて、モグラくん(現Live House nanoの店長)の当時の彼女にお古のバイクをもらって乗ってたんですけど、バイトに行くときそれがエンストを起こして止まってしまった。途方に暮れていたけど、橋から見た夕暮けはすごく綺麗で。(バイトに行けないけど)まぁいいかなーって思ったときに生まれた曲」

2011年作『ロータリー・ソングス』収録曲“サイダー”

 

京都のあいつらと飲みたいから

――“サイダー”は2011年の『ロータリー・ソングス』に収録された楽曲ですが、それ以前から歌われてきたゆーきゃんの代表曲とも言えるものだと思います。今回は“サイダー(Revised)”という再録ヴァージョンでの収録。あらためてこの曲を録音した理由が知りたいです。

「あの曲をコミュニケーション・ツールとして使ったんです。今回のバンド・メンバーは昔からよく知っている面々でしたが、バンドとして集まるのは初めてだった。スタジオに入れる機会も限られているので、集まって音を出すときに、みんながパッとできるものがいいなと思って、最初に演奏する曲にしたんですよ」

『うたの死なない日』収録曲“サイダー(Revised)”
 

――今回のレコーディングに参加した主要メンバーはsenoo rickyさん、岩橋真平さん、おざわさよこさん、吉岡哲志さん。彼らとは〈ゆーきゃんカラス・クインテット〉という名前で何度かライブを行っていますね。近年のゆーきゃんの基本編成なんだと思いますが、こうした面々を揃えた理由は?

「まず、ここ数年のゆーきゃんのドラムを任せられる人はrickyしかいないと思っていて。たぶんお互いめちゃくちゃ楽なんだと思います。いつだったかrickyが『山本精一さんとゆーきゃんはときどき無茶ぶりをしてくるけど、やってみるとなるほどと思う』と言ってましたね。僕とrickyのやりたいことの指針として、常に山本精一さんの羅針盤があることも大きいのかも。〈ゆーきゃん〉という音楽について、抱いている理想像が近いんじゃないかな」

――rickyさんはこれまでもゆーきゃんのアルバムで叩かれていますが、今回のプレイはこれまでになくパワフルで、ロック感のあるドラミングという印象でした。

「ベーシストの存在が大きいんだと思います。岩橋くんはロック・バンドの人だし、ブラック・ミュージックにも影響を受けている。ベースとドラムが対になって、動的に土台を築いていくみたいなスタイルが得意な人。だからrickyも今回はリズム隊であるという意識を持って叩いてくれたんじゃないかな」

『うたの死なない日』収録曲“風”
 

――今回は、録音も京都でされたそうですね。

「うん、京都で作りたいと思ったんです。前の2作は山梨で録ったから、違った色味のものを作りたいと思ったのと、あとレコーディングに行ったついでにあいつらと飲みたいな、というのと(笑)」