孤独から得た幸福は感傷の先へと踏み出す感情豊かな歌——さらに開かれた外の世界に目を向けた新作は、ありとあらゆるあなたを見守り、肯定する

これ以上ないタイトル

 昨年のアルバム『寂しい人が一番偉いんだ』で自分自身を含む〈寂しさ〉を抱えたすべての人に向けて、優しくも力強い肯定のメッセージを提示したmajiko。自信のなさや疎外感といったネガティヴな感情を原動力にしてきた彼女にとって、それは大きな前進の一歩だったに違いない。そこから今年3月リリースのEP『MAJIGEN』を挿み、このたび完成したニュー・アルバム『世界一幸せなひとりぼっち』は、初めてmajiko本人がすべての作詞/作曲を担当したアルバム。彼女の近作には欠かせない存在である木下哲と共同でほぼ全曲の編曲も手掛け、自身のクリエイティヴィティーをさらに開花させた作品になった。

majiko 『世界一幸せなひとりぼっち』 ユニバーサル(2020)

 「曲を作るコツはまだ掴めていないんですけど、PCで曲を作るなかで自己流のやり方を覚えたり、自分のできることが増えたことで、曲を書いたりアレンジするのがどんどん楽しくなって。コロナでずっと家にいざるを得ないから、一時期は筋トレをするか、曲を作るかみたいな生活を送ってました(笑)」。

 タイトルからも伝わる通り、今作もまた〈孤独〉な人たちの背中を後押しするような楽曲が中心となっている。「曲を書くときは、自分の実体験とか、大事な人を失くした経験を核に作ったりする」という彼女が、「このアルバムの曲たちを一つにまとめるタイトルはこれしかないと思ったし、これ以上のインパクトがあるタイトルは思い浮かばない」と、アルバムの表題にも採用したのが、透明感とエモーショナルさを併せ持ったリード曲“世界一幸せなひとりぼっち”。〈今、君はもういない〉との歌い出しから描かれるのは、唯一の理解者との別れを経験した〈僕〉の心境。だが、そこにあるのは単純な悲しみや喪失感ではなく、〈泣いたりもするけど 寂しくはないんだよ〉という、感傷の先へと踏み出して〈世界一幸せ〉と言い切る振り切った気持ちだ。

 「この曲で大事な人と一緒にいる〈僕〉というのは、自分の部屋から出ない人間のことで、その小さな世界でお互いに傷を舐め合っている印象があって。でも、大事な人がいなくなったことで、初めて外に出ることができたっていうのが、自分の中でのこの曲のテーマなんです。自分もそういう経験が何回かあるし、消えてしまった大事な人に向けてのメッセージだったり、自分に言い聞かせてるようなところもあって……。やっぱり大事な誰かを失くすというのは、いつまでたっても癒えないものだと思うんですよね。でも、その人からもらった思い出はずっと消えないと思うので、それを秘めて歌っている曲というか」。

 この楽曲でプロデューサー/アレンジャーに起用されたのは亀田誠治。歌手だったmajikoの母親とも面識があったそうで、制作はフランクに進んだという。さらに同曲のレコーディングに参加した玉田豊夢(ドラムス)も、majikoが過去に母親と角松敏生のライヴでコーラスを担当したときのバンド・メンバーであり、不思議な縁に恵まれた現場だったようだ。

 「私はデモをけっこうバチバチに作るんですけど、亀田さんはそこからガラッと世界観を変えるのではなく、私の意向を汲み取ってブラッシュアップしてくれて。サビの広がりとかをデモより数倍も良くしてくださって、歌ったときに〈すごく感動する! すげー!〉ってなりました(笑)」。