3年半ぶりとなった待望のフル・アルバム——ドラマティックかつエモーショナルに進化した狂おしくも美しい歌世界へ、寂しい人も傷ついた化け物もみんな集え!

そうあってほしいという願望

 レーベル移籍第1弾作品のミニ・アルバム『AUBE』(2018年)でみずからの音楽に希望の光を見い出し、Michael KanekoやGAGLEら新たな顔ぶれも交えた今年1月のEP『COLOR』でさらに色彩豊かな世界を見せたmajikoが、実に3年半ぶりのフル・アルバム『寂しい人が一番偉いんだ』を完成させた。その強い主張を感じさせる表題のフレーズは、彼女が「寂しい人に向けて作ることがテーマ」と語るアルバムの内容を象徴すると同時に、自分自身を含むすべての〈寂しい人〉に向けて放ったメッセージでもある。

majiko 寂しい人が一番偉いんだ ユニバーサル(2019)

 「この言葉は自分がすごく病んでいたときに思いついたもので、自分を肯定するためというか、この世で一番偉いのは金持ちでも賢い人でも美男美女でもなく〈寂しい人〉であってほしいという願望として出てきたんです。私は自分をメンヘラだと思ってるし、現にすごく寂しいんですけど、類友というか、私の周りには似た気持ちの人たちがいると思うので、そういう人に寄り添える曲、あるいは一緒にちょっとした光を見れるような曲を作っていければと思うんです」。

 〈寂しい人〉同士だからこそ共感を抱くことができる音楽——それがmajikoの表現したいことの本質だとしたら、そのための取り組みは今作で見事に成就している。例えばリード曲でもある冒頭の“エミリーと15の約束”は、これから遠くへ旅立つ母が娘に向けて約束という形で人生の大切なことを伝える、厳しくも愛ある言葉に溢れた物語仕立てのナンバー。majikoもライヴや〈歌ってみた〉動画でカヴァーしているボカロ曲“命に嫌われている。”の作者、カンザキイオリが詞曲を提供し、どこか〈生と死〉を意識させる詞世界、「母性を出そうと思って、歌っているのは私だけど私が言われているような、いつもと違う感覚で歌いました」という聴き手を教え導くような歌声が、言いようのない寂しさと美しさを伴って心に迫る。

 「自分は母を亡くしているからこそ、この歌詞にはすごく共感できたんです。母が亡くなってもう4年が経ちますけど、いまだにその傷は癒えてないので、カンザキさんがこういう曲を書いてくれたことで、自分が母に抱いていた感情に改めて気付くことができて、すごく良いタイミングでした。たぶん母が私に言いたかっただろうことをこの詞に当てはめて納得したり、懐かしい気持ちになったり。母のことはすごく尊敬していたので、この曲に限らず、歌い方やメソッド的なものは全部の曲に入ってると思いますし、どこかしらで意識してますね」。

 

歌詞に込められたもの

 また、自身の好きなエレクトロ・スウィングをアレンジに採り入れた“ワンダーランド”では、「遠くも近くもない未来、原色のネオンがギラギラしている場所がある一方で、下には貧民街が広がるカオスな世界観」を舞台に愛への飢餓感を描写。ライヴを意識して珍しくコール・パートを盛り込んだアッパーな“MONSTER PARTY”も、この一瞬だけはみんなで騒いで何もかも忘れてしまおうとする、ある種の刹那的な寂しさを感じさせる。

 一方、中盤ではラヴソングが続くのも印象的。“アマデウス”(2015年)の編曲などでmajikoとは接点の多いみきとPが(意外にも)初めて彼女に書き下ろした“レイトショー”は、二胡の音色が切なさを増幅する大人の叶わぬ恋の歌。「とみき(みきとP)はものすごく魂を込めて作ってくれたみたいで、レコーディングで私がサビを歌っているときに泣いてたんです。私はそれを見て笑ってたんですけど(笑)」と冗談めかすが、「この曲は大人っぽく歌おうと思って、心の中に飼っている〈30代のスレた女〉を出してみました」と語る通り、いつも以上に哀愁味のある歌が危うい慕情を表現する。

 さらに、みずから詞曲(とMVのイラスト)を手掛けた“春、恋桜。”は、可愛らしくも狂おしい片思いを描いた、雅やかで少しエロティックな和装ポップ。

 「初めて自分で恋愛の曲を書いたんですけど、〈私、こんな曲書けるんだ!〉と思うほど甘酸っぱくなって。でも恋の歌にするからには、そこらへんにあるような歌詞にはしたくなくて、いかに直截的な言葉を使わずに書くかを考えました。やっぱり恋愛してると、どこかで変態になってしまうと思うんです。だって好きというのはそういうことですものね」。

 スタッフのリクエストでバラードを書いてみたという“マッシュルーム”も、別れた恋人への未練で押し潰されそうな気持ちを切々と歌い上げる、〈マッシュ=すり潰す〉〈ルーム=部屋〉とかけた悲恋の歌。歌詞は蝶々Pが手掛けている。

 「私は男性の書く歌詞の女々しさに魅力を感じるんですけど、ちょぴ(蝶々P)にはそれがあるのでお任せしました。この気持ち悪さがいいというか……キモさと言うとすごく失礼だけど(笑)、男らしさを捨ててまでへにゃっとなっちゃう感じがエロいなあと思うんです」。

 

光の先にある希望

 そのように多様な〈寂しい人〉の歌が並ぶなか、アルバムのラスト2曲ではある種の希望が提示される。『AUBE』収録の“声”に続いてharuka nakamuraが提供した激情的なピアノ・エモ“グラマー”は、もともとnakamuraが祖父に先立たれた祖母(グランマ)のために作っていた曲を、majikoのために改変したものだという。焦燥と喪失感、どれだけ言葉を重ねても拭えない無力さを感じながらも、それに抗うように歌う姿が感動的だ。

 「harukaさん的には“声”を超えたい思いがあったみたいで、“声”とは全然違うエモさとか、ちょっと暗い感じ、躍動感が新鮮でした。最後の部分は私の中では教会とかノートルダム大聖堂みたいなイメージが浮かんで……暗い歌詞なんだけど抽象的な光の要素が見えて、すごく好きな曲です」。

 その光の先にあるのが、すべての寂しさを包み込むような歌声で〈きみと二人で歩こう〉と強く願うバラード“WISH”。人類が絶滅して変わり果てた地球でのサヴァイヴァルを描くSFアニメ「7SEEDS」のエンディング・テーマとして書かれた楽曲だが、それがアルバムの最後に置かれることで、まるでこの曲自体が〈寂しい人〉の願い事の結末のようにも映る。

 「原作は自分の人生で3本の指に入るぐらいおもしろいマンガで、そのテーマ曲の歌詞をどう書くか悩んだ結果、登場人物の(末黒野)花と(青田)嵐の関係性をシンプルに書きました。二人は恋人同士なんですけど、最初はお互いがもう死んでると思って絶望してたんです。でも、だんだんと互いに生きているらしいことを知って。もし私が同じ状況に置かれたら、たぶんその人がいるだけで何もいらないと思えるだろうし、アニメは壮絶なシーンが多いので、エンディングだけでも救われてほしいという願いを込めて書きました」。

 これまでになく強い語調で、自身の伝えたいことをはっきりとタイトルで示した本作は、結果としてmajikoがひとりの表現者として歌っていきたいことを明確に示す作品にもなった。

 「この先もバンド・サウンドに捉われず、もっと自由に曲を作りたいし、自分は家族愛や友情、恋愛に感動するので、そういう自分が涙して心が解放されるもの、私が好きなものを作品に落とし込んでいきたいですね。特に“エミリーと15の約束”のおかげで家族愛を切り出しやすくなったなと思っていて。まだ自分で書けるタイミングではないと思ってたので、カンザキさんに書いてもらえてすごく良かったです。自分では本当に奥深くの深層心理まで潜らないと出てこないと思うし、まだちょっと怖いけど……いずれは自分でも書いてみたいですね」。

majikoの近作を紹介。