「『CLOUD 7』の時はいろいろあって、闇の深い場所にいたんです。いまはそこから抜け出ることができて〈やったー!〉という解放感でいっぱいですね(笑)」。
現在の心境について、はにかみながらそう語るmajiko。ほぼ自作曲で構成された前作『CLOUD 7』(2017年)は、確かに本人が言うところの〈闇〉を感じさせる、どこか暗いトーンに覆われた作品だった。だが、それから約1年、レーベルを移籍して新たな環境で作り上げた新作ミニ・アルバム『AUBE』には、そんな〈闇〉を払拭して晴れやかな表情で歌う彼女の姿がある。その兆候は、昨年10月にYouTubeで先行公開された収録曲“Avenir”ですでに表れていた。
「“Avenir”はフランス語で〈未来〉という意味で、闇が深かった頃にお仕事で神戸に行った時、立ち寄ったバーの人が出してくれたカクテルの名前でもあるんですよ。それがすごく美味しくて、お店の人やお客さんも見ず知らずの私を励ましてくれて、それが良い思い出になっていて。いつか自分にとっていちばんポジティヴな曲が出来たらその名前を付けようと思ってたんです。アルバム・タイトルもそれにちなんで、フランス語で〈夜明け〉という意味の『AUBE』にしました」。
アコギの爽やかな調べと力強いリズムに乗せて、自分らしく生きることの素晴らしさを自作の英詞で歌う“Avenir”は、彼女の「散々ネガティヴなところにいたから、これを機会に前向きな曲を自分に言い聞かせるように作りたい」という思いが結実した決意表明のような一曲。そういったmajiko史上もっともポジティヴなモードにいろんな方向から光を当てるべく、今作には多彩なクリエイターが参加している。旧交のあるharuka nakamuraが提供したリード曲“声”は、フィドルやクラップが跳ね踊るブルーグラス調の陽気なナンバー。同じく過去に楽曲提供歴がある荒井岳史(the band apart)書き下ろしの“Learn to Fly”は、〈君はきっと大丈夫〉というメッセージも明快なギター・ロックだ。
「この曲は、前に荒井さんとステージで共演させてもらった時に、荒井さんが私に持った底抜けに明るい印象をイメージして書いてくださったみたいで。自分では意外なんですけど、たまに〈majikoは自分が思ってるほど暗くないよ〉と言われるので、その明るい部分を見抜かれちゃったみたいで照れ臭いです(笑)」。
sasakure.UKが書いた有形ランペイジ製のプログレッシヴ・ポップ“アガルタの迷い子”は、「モンスターと仲良くなることでハッピーエンドになれる『Undertale』というゲームが好きなんですけど、sasakureさんと前にその話で盛り上がったので、たぶん歌詞はそこに寄せてくれたんだと思います」とのことだが、〈アガルタ=地下世界〉から〈アイトワライの世界〉へと至る物語はいまのmajiko自身の境遇を描いているようでもある。
H ZETT Mらしいピアノ・ロックに猟奇的な詞を当てた“スープの日”、KEMUこと堀江晶太とシステム・オブ・ア・ダウンの話題で意気投合してヘヴィーに振り切った毒吐きシャウト曲“ダーウィン先生の倦怠”などに従来のクセの強さを覗かせつつ、SMAP“オレンジ”などで知られる市川喜康が提供した“UNDERCOVER”では広い世界へ飛び立つ気持ちをまっすぐな声で届けるmajiko。交流の深いホリエアツシによる締め括りのバラード“AM”で、夜明け前の濃密な時間をロマンティックに歌い上げ、ここから彼女は新しい朝に向かって次の一歩を踏み出す。
「今年は初めてTVにも出ることになって、いままでと違うものが始まっていくのを沸々と感じてて。昔ならそれに拒否反応を起こしただろうけど、いまはもう悩みたくないし、〈もういいじゃん、次に行こうよ!〉って思うんですよ。いままでは自分の中で完結する曲を作ってたんですけど、これからは暗いところも〈味〉として残しつつ、誰かの何かに引っ掛かる曲をどんどん作っていきたいです」。
majiko
ネット・シーン発のヴォーカリスト。母親がヴォーカリスト/ヴォーカルトレーナーという影響もあって幼い頃から多様な音楽に親しんで育つ。2010年6月に〈まじ娘〉名義で動画共有サイトに自身の歌唱を初投稿。2013年に〈ETA〉に初出演して注目を集める。2015年4月にファースト・アルバム『Contrast』をリリースし、6月には初のワンマン・ライヴを開催、11月には初のシングル“mirror”を発表。2016年にセカンド・アルバム『Magic』をリリース。2017年には表記をmajikoに改めてミニ・アルバム『CLOUD 7』でメジャー・デビュー。その後、ストレイテナーのトリビュート盤参加を経てレーベルを移籍。3月7日に移籍後の初作となるミニ・アルバム『AUBE』(ユニバーサル)をリリースする。