音楽に救われて自身の殻を破った歌い手が、憧れのミュージシャンたちの助力を得て手に入れた、心を飛び立たせる歌の〈魔法〉とは?
ネット・シーン発の歌い手、まじ娘がセカンド・アルバム『Magic』を完成させた。プロのヴォーカリストだった母親の影響で幼少の頃から音楽に囲まれて育った彼女は、中学生になると自然とバンド活動を始め、高校生までドラマー兼ヴォーカルとして活動していた。しかし、〈私が本当にやりたいのはヴォーカルだけかもしれない〉という葛藤を経て、音楽の専門学校に進学してからは歌に専念。だが、自信を持てずに家に引きこもる日々が続いたという。それを打破するきっかけとなったのが、高校時代に始めた動画サイトへの投稿。その圧倒的な歌唱力が注目を集めると、2013年末には人気のライヴ・イヴェント〈EXIT TUNES ACADEMY〉への出演を果たし、2015年にデビュー・アルバム『Contrast』を発表。主にボカロ系のクリエイターが楽曲提供したその前作に対し、『Magic』は彼女の原点であるバンド色を強め、収録曲の半数でまじ娘自身が作詞/作曲を手掛けている。
「今回は私の世界観をはっきりと出したいと思ったんです。バンドをやってたときはセッションで曲を作ってたんですけど、自分一人で曲を作って、自分で歌うのがずっと夢だったので、デモを作るためにギターも練習しました。リズムを考えるうえでは、ドラムをやってたことも無駄じゃなかったなって思いましたね」。
さらには、前作から引き続き参加となるストレイテナーのホリエアツシをはじめ、バンド界隈からthe band apartの荒井岳史、locofrankの森勇介、またA-beeやmonaca:factoryなどが楽曲を提供。オルタナ、エモ、ポスト・ロック、エレクトロニカを横断する、激しくもどこか内省的で憂いを帯びたまじ娘の世界観を構築している。なかでも、1曲目に収録された“morrow”を手掛けるポスト・クラシカル・シーンの旗手、haruka nakamuraとのレコーディングは特別だったそうだ。
「今回参加してくださった方たちは、私がうずくまってた頃にずっとそばにいてくれた音楽を作った人たちなので、一緒にお仕事ができて非常に光栄に思っています。“morrow”に関しては、haruka nakamuraさんが〈本人と直接話をしてみないとわからない〉ということで、レコーディングの現場で一緒に作った曲なんです。お互いどんな人生を歩んできたかを話したら、nakamuraさんにも暗い時期があったそうで、おこがましいですけど、どこか共通する部分を感じたんですね。そのうえで、nakamuraさんが奏でるピアノに私が歌を合わせていったんです。後からストリングスも足されていて、〈ああ、浄化される〉って思いました(笑)」。
まじ娘自身が手掛けた楽曲は、昨年6月に東京キネマ倶楽部で行った初ワンマンの経験から生まれた〈もっとお客さんと一緒に楽しみたい〉という思いが反映されていて、アップテンポな曲が際立つ。アルバムのラストに収録された表題曲“Magic”は、子供の頃に母親の仕事の都合でマレーシアによく行き、コーランなどに親しんで民族音楽が好きになったという彼女の趣味により、中盤でパーカッションが打ち鳴らされ、ライヴでのクライマックスを演出する。
「打ち合わせをしたわけではないんですけど、私が書いた歌詞にも、提供していただいた歌詞にも、〈雨〉っていう言葉がよく入ってたんです。曲を並べてみたら、雨が止んで空が晴れて、最後にその空へと飛び立っていくっていうストーリーが出来上がりました」。
“Magic”でまじ娘はこんなふうに歌っている。〈足は跳ねてく 君は鳥になり 空を泳いでも溺れない そして、歌うのさ〉。かつて自分を救ってくれた音楽家たちの助力を得て、本作で彼女は見事空へと飛び立った。そして、今後はきっと彼女自身が誰かを救う存在になるに違いない。まじ娘は歌の力であなたに魔法をかける。