内田怜央の1人クルー
――では、内田さんにとって高木さんのボーカリストやフロントマンとしての魅力は?
内田「BREIMENはメンバー各々のスキルが高すぎるから、俺はアベンジャーズみたいだなと思ってるんです。なかでも祥太くんはベースの演奏力もすごいけど、人に届ける歌声と伝える力を持ってると思う。ライブで歌を聴いてて、引き込まれる魅力があるから。
俺は〈この声だと曲や歌詞の世界に浸透しない〉と思うことがよくあって、歌い方や質感を調整しながらレコーディングするんですけど、祥太くんの声ってどんな曲の世界もカバーできる。ポップ性とアンダーグラウンド性の両方を演出できる歌声だと思います。だからツアーをやって、〈BREIMENが売れなきゃおかしい、BREIMENが売れかったら俺らも売れない〉って思いましたもん(笑)」
高木「もともとボーカルをやってなかったから、選択肢が少ないんだよね。〈この歌い方しかできない〉って前提がある。だから俺は、怜央の歌はずるいなって思うけどね。
たとえば、“HORN”の平歌でかっこよく歌ってたのに、そこに〈Yo yo〉ってラップを重ねてて〈あれっ、2人いる!?〉みたいな。あれを1人でやってるのが最高」
内田「マジで友だちがいなくて、中高校生の頃は1人で曲を作ってたんです。それで、1人でクルー感を出そうと思って、めっちゃダブリングして。いま祥太くんに言われて、いまだにそれを無意識的にやってたことに気づきました(笑)」
真のミクスチャー・バンド
高木「“risk”もめっちゃいい曲だよね」
内田「“risk”では、恋愛や失恋っていう定番テーマをいまのKroiでやったらどうなるのかを表現しました。恋愛ならやっぱR&Bがいいなと思って。でも、そのままはやりたくないから、それを更新するならどういうのがいいのかなと考えました」
高木「いま怜央が〈更新〉って言ったけど、俺もBREIMENでけっこう使う言葉なんだよね。新しい音楽を目指してるんだけど、過去のブラック・ミュージックが好き。でも、それを真似してポップスに落とし込むとか、既存の枠内に収めるんじゃなくて、そもそもその音楽自体を更新したいと思ってる。その感覚が、一緒にツアーした3組には共通してある気がする」
内田「ありますね。祥太くんって、ブラック・ミュージックをやってる感覚はあるんですか?」
高木「俺は〈あった〉かな。新体制ではその感覚はまったくなくて、ジャンルを意識するより、メンバーそれぞれの音をBREIMENとして出す感じ。みんなブラック・ミュージックが好きだけど、(ギタリストのサトウ)カツシロなんてロック小僧だしね。それぞれの音を混ぜていったことで、ブラック・ミュージックのフォーマットに則ってないことに改めて気づいたかな。
そういう意味では、俺はミクスチャー・バンドが好きで、BREIMENもそのつもりなんだけど、Kroiもいいミクスチャー・バンドだなって思う」
内田「ありがたいっすね。でも、俺らはなにかに括られるのが嫌すぎて、最近は大人たちから〈ミクスチャー〉って言われたくないんですよね。祥太くんに言われるのは、もちろん構わないんですけど」
高木「わかる。それってジャンルとしての〈ミクスチャー〉でしょ。でも、KroiもBREIMENも言葉の意味どおりの〈ミクスチャー・バンド〉だと思う。怜央のなかにあるものが混ざったミクスチャーと、俺のなかにあるものが混ざったミクスチャーがあって、怜央と俺のミクスチャーはちがう、っていうイメージ。でも、それは世に言う〈ミクスチャー・バンド〉とはかなり相違があるから、難しいよね」
内田「新たな言葉を作りたいですね。いまオリジナルなものを作ろうと思ったら、ミクスチャーにならざるをえないと思いますし。
中3のときに受けた〈アート・クロスオーバー〉って授業の先生が〈完全にオリジナルなアートは生まれない、オリジナルなものを作るなら既存のものをクロスオーバーさせるしかない〉って言ってたんです。俺は〈そうじゃん!〉って思って。オリジナルなものを作ってる人たちはみんなミクスチャーしてる、っていうのは俺のクリエイションのロジックにありますね」
高木「そうそう。たとえば料理は〈お酢と水を1対1で混ぜます〉というふうに作れるけど、音楽は〈ジャズとファンクを合わせたらアシッド・ジャズです〉っていう単純なものでもない。作り手のいろいろな要素が入ってくるから、なにか別のものが絶対に混ざってくる。だから、必然的にミクスチャーになるんだよね。そういう、本当の意味での〈ミクスチャー〉をKroiのEPを通して感じたな」
内田「それこそ、BREIMENの“ナイトクルージング”にはめちゃくちゃいろいろな要素が入ってますよね。シャッフルのリズムの懐古的でトラディショナルな感じと前衛性が入り混じってて。言葉で説明したら矛盾が生じるんだけど、それがオリジナリティーを生んでる。あれは超食らいました」