新作『Unspoiled』を携えてKroiが開催したフリーライヴをレポート! 5人の演奏と咆哮が赤レンガ倉庫を妖しく激しく震わせた
6月19日に3作目のアルバム『Unspoiled』をリリースしたKroiが、3日後の6月22日に神奈川・横浜赤レンガ倉庫でフリーライヴ〈Kroi Free Live “Departure” at 横浜赤レンガ倉庫〉を開催した。この日、詰めかけたオーディエンスの数はなんとおよそ6,000人。出店があったり、フォトスポットが設けられていたり、開場時間のはるか前からKroiのファンを筆頭に音楽好きが倉庫前に押し寄せていた。
あたりが薄暗くなりはじめ、定刻になるとメンバー5人がステージに登場。2020年のEP『hub』収録曲“Network”、そして前作『telegraph』収録曲“Drippin’ Desert”からライヴがスタートした。横浜の港に吹く風に合った優しい曲で、観客をKroiワールドへ導いていく。
3曲目はニュー・アルバム『Unspoiled』から“Green Flash”。沈む直前の太陽が緑色に光って見えることを指す〈グリーンフラッシュ〉――見た人に幸せが訪れるというこの自然現象について歌ったミッドテンポな楽曲で、バンドは観客と一緒に最高に輝く瞬間を味わっていた。ステージから見える6,000人は圧巻のようで、内田怜央(ヴォーカル/ギター)は「すごい光景が広がりすぎていて、普通に生きているだけなのに(これだけのお客さんが来てくれて)罪悪感がすごい。けど、いい曲やりますんで」と冗談交じりに語る。
続くタームは、ムーディーな“risk”を挟みつつ、これまたしっとりした楽曲“Stellar”、そして中東風な雰囲気をまとった“Sesame”と『Unspoiled』からの楽曲が続く。音価を大事に扱う関将典のベースや、ときにジャジーな千葉大樹のキーボードに乗せて、内田が高速ラップやひずんだブルージーな歌声、そして美しいファルセットを存分に聴かせていく。“Sesame”が終わる頃には、観客たちもすっかりKroiのリズムに身を任せていた。
その後も、サンバ的リズムのロック“Amber”、ダークな雰囲気が漂う“Pixie”と続き、赤い照明が当てられた赤レンガ倉庫に地獄からの叫びのような内田の咆哮がこだますると、倉庫はまるで何かの密教団の拠点に見えるほどだ。
終盤はKroiの真骨頂である大暴れの時間。ヒット曲である“Balmy Life”や“Fire Brain”をいまのKroi流に大胆にリアレンジしてお届けする。前に出るところと出ないところをわきまえ、ときにギャン泣きする長谷部悠生のギター・プレイ、いちばんのおふざけマンのようでいて、実はいちばん堅実にリズム・キープする益田英知のドラミングが大活躍だ。千葉の印象的なヴォコーダー・ソロや、関の指板上をせわしなく動き回るベース、そして内田の七変化する歌声が合わさり、怒涛のグルーヴを生み出していく。そして曲をいくらアレンジしてもオーディエンスが瞬時に反応できるのは、ひとえにKroiのメロディーの強さがあってこそのものだと実感する。
「短いけどあと1曲で終わりです。でもタダだから!」と内田が観客を笑わせると「今回のアルバムは自分たち的にヤバいものができた。それに賛同してくれる方々はぜひ布教して」と語りかけ、赤レンガ倉庫の奥からは花火が。観客の大興奮が冷めやらぬなか、ラストは〈お~いお茶〉と歌いかける“Shincha”でしっぽりとした結びに向かうのもKroiらしいところだ。
内田は曲中でも集まったファンへの感謝を述べ、「俺らのために出店が出るってヤバいことだからね! みなさんまた絶対どこかでお会いしましょう。音楽を好きでいてください」と約束の言葉を発し、そこから流れるようにフリーでスキャット。そしてそれはふたたび咆哮へと変わっていく。演奏の盛り上がりと共に観客も思い思いに盛り上がっていき、ついには終演。5人はステージを後にし、フリーライヴを終えた。
……と思いきや、メンバー退場後にモニターに特報映像が流れ、アルバムのリリース・ツアー〈Kroi Live Tour “Unspoil”〉の追加公演と、初の海外公演である台湾公演、そして初のアリーナでのワンマン公演として神奈川・ぴあアリーナMMでのライヴが発表に。この夏のフェス出演も含め、『Unspoiled』を携えた5人の進撃はまだまだ留まることはなさそうだ。