世界各地で同時多発的に出現する現代的なミクスチャー、その日本代表は彼らだろう。セオリーや常識から逸脱していく5人が想像力を注ぎ込んだ最高傑作で向かう場所は?
2018年の結成から今年1月に行った初の武道館公演を成功させるまで、バンドの勢いを加速させ続けてきたKroi。メンバー5人のルーツが透けて見えるファンク、ソウル、ヒップホップ、ジャズ、ロックのオーセンティックなミクスチャーを実践した2021年のファースト・アルバム『LENS』、マカロニ・ウエスタンやシティ・ポップをいなたいマナーで織り込んだかと思えば、しれっとインストゥルメンタルを収録するなど、より自由度を増した2022年のセカンド・アルバム『telegraph』を経て、この5人組はいよいよバンドの正体を明らかにしつつある。
流行りが一目瞭然なストリーミング・サーヴィスのプレイリスト、楽器演奏や音楽制作のチュートリアル動画、誰でも扱える制作ソフトやアプリによって、トレンドを押さえた精巧なポップ・ミュージックが一般化した現代。そんな標準化の時代において、Kroiはあえてセオリーから逸脱した長尺曲を打ち出してみたり、サビのリフレインに背を向けて、展開に次ぐ展開に身を投じてみたりと、結成当初からセオリーに囚われない奔放なバンドではあった。そのうえで、〈損なわれていない/ダメではない〉という意味の〈Unspoiled〉を作品タイトルとして打ち出した今回のサード・アルバムは、ときとしてダサいものが格好良くなり、古い音楽が新しく響くという音楽のマジックや価値観の転換を誘発すべく、さまざまな音楽のインタークロスを実践してきたバンドのスタンスを見事に具現化している作品だ。
エレキ・シタールとトークボックスが共存する艶やかなソウル・ナンバー“Stella”で幕を開ける本作は、前作以降、ヴォーカル/ギターの内田怜央が映画「DUNE/デューン 砂の惑星」に触発されて描くようになったという荒れ地や砂漠を舞台にした歌詞世界と共鳴するエキゾチックなサウンドが、作品のそこここに散りばめられている。インド音楽からの影響を窺わせるエレキ・シタールは、アグレッシヴなファンクが中盤でレゲエにテンポダウンする“Water Carrier”でも登場するが、その絶妙な匙加減はインド音楽とファンクを融合するメルボルン発のグラス・ビームスや、テキサス出身でタイファンクを熟成させていくクルアンビンに通じるものがある。
また、ニルヴァーナを想起させるグランジ・ロックからド派手なホーンをフィーチャーしたファンクに雪崩れ込む“Hyper”やストリングスを使ったフィリー・ソウル調の“Sesame”ではアラビックなスケールが用いられているが、そのサイケデリックなトリップ感覚を前に、仏パリ発の中東サイケ・バンド、アル・カサールやオランダでモダンなターキッシュ・サイケを奏でるアルトゥン・ギュンの存在が頭をよぎる。そうかと思えば、甘茶ソウル“風来”ではフィンランドから現れたチカーノ・ソウル・シンガーのボビー・オローサ、流麗なフュージョン・マナーのアフロビート“papaya”は、UKのジャズ~ヒップホップ・シーンで横断的に活躍しているココロコやリトル・シムズらからの影響が見て取れ、本作のマスタリング・エンジニアにはロンドンのメトロポリス・スタジオを拠点に活動するスチュアート・ホークスを起用。そういった点から見ても、Kroiがイギリスやヨーロッパの諸地域で続々と登場している現代のミクスチャー音楽に着目していることは間違いないだろう。
かつて一般のリスナーには縁遠かったインド、中東、アフリカなどの音楽も、現代においてはテクノロジーの進化によって、情報格差や技術格差が解消され、表立ってミクスチャーとは呼ばれない〈ミクスチャー〉な音楽が全世界的に注目を浴びつつある。Kroiはそうした動きにインスピレーションを得ながら、唯一無二の音楽性を獲得すべくミックスにミックスを重ね、いま日本のポップ・ミュージックの最前線を切り拓きつつある。
Kroiの過去作を一部紹介。
左から、2021年のアルバム『LENS』、2022年のアルバム『telegraph』(共にポニーキャニオン)
左から、グラス・ビームスの2024年のEP『Mahal』(Ninja Tune/BEAT)、アル・カサールの2022年作『Who Are We?』(Glitterbeat)、ボビー・オローサの2022年作『Get On The Other Side』(Big Crown)、ココロコの2022年作『Could We Be More』(Brownswood)