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©2017 Buckeye Pictures, LLC

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 「ソング・トゥ・ソング」は、ある意味では、通俗的とも言える恋愛ドラマだ。フェイは、BVとクックの間で揺れ動き、迷える子羊として人生を歩んでいる。また、BVは純真だが年老いた父親がいる実家、ロンダは敬神家だが貧しい生活から解放されたいと思い続けてきた。だからこそ彼らは、クックによって堕落した世界に導かれる。「ソング・トゥ・ソング」は、このような男女4人の人生が交錯し、各自が変化していく様を描いた一種のラヴストーリーなので、多分に通俗的、より言葉を選ぶなら、古典的な物語と言っていいだろう。しかも前記した4人のほかにも、ケイト・ブランシェット、ホリー・ハンター、ヴァル・キルマーといった有名俳優が次々と登場する。俳優陣の顔ぶれは、過去のマリック監督作品と比べて、もっとも豪華である。

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 とはいえ、プロットらしいプロットはないし、物語は時系列に沿って明快に進んでいくわけでもない。そしてフェイ自身の心は彼女自身のモノローグでも語られているが、前記の男女4人の心の声(歌)を紡いでいくのは、縦横無尽に踊るような動きによって独特の映像美を構築しつつ、まさしく音楽のようにしなやかな感情曲線を描いていくカメラワークであり、断片的なシーンを緻密に積み重ねた編集であり、ポピュラー音楽とクラシックの名曲の数々である。マーラーやドビュッシー、アルヴォ・ペルトなど格調高いクラシックが流れるのは、近年のマリック監督作品の常だが、音楽関係者たちがオースティンを舞台に繰り広げる物語だけに、本作では、ポピュラー音楽が比較的多く使われている。たとえば、エルモア・ジェイムスとボブ・ディランそれぞれのヴァージョンによるブルースの名曲“ローリン・アンド・タンブリン”が挿入されているし、それこそ通俗的なデル・シャノンの1961年の大ヒット“悲しき街角”も物語を彩り、登場人物の心理を奏でている。さらには音楽が重要なファクターだけに、あのパティ・スミスがパティ本人として、亡き夫のフレッド・スミス(元MC5のギタリスト)のことをフェイに語るシーンもある。人生や愛について考えていることを語り、フェイの背中を後押しするパティは、ある意味では、影の主役だ。それほど彼女は物語の中に溶け込みつつ、本作の主題を心の中で高らかに謳っているように思える。「ソング・トゥ・ソング」は、パティの心の歌がフェイの心の歌として受け継がれていく物語でもあるのだ。

 


MOVIE INFORMATION

「ソング・トゥ・ソング」
監督・脚本:テレンス・マリック
撮影:エマニュエル・ルベツキ
音楽:ローレン・マリー・ミクス
出演:ルーニー・マーラ/ライアン・ゴズリング/マイケル・ファスベンダー/ナタリー・ポートマン/ケイト・ブランシェット/ホリー・ハンター/ベレニス・マルロー/ヴァル・キルマー/リッキ・リー/イギー・ポップ/パティ・スミス/ジョン・ライドン/フローレンス・ウェルチ/レッド・ホット・チリ・ペッパーズ
配給:AMGエンタテインメント(2017年  アメリカ  128分  PG12)
©2017 Buckeye Pictures, LLC
songtosong.jp
◎2020年12月25日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開