コラム

パティ・スミス(Patti Smith)、詩人の魂を核に宿して常に現在を疾走しつづけるパンクの女王

EXOTIC GRAMMAR VOL. 72-2

Photo ©Claire Alexandra Hatfield

「Mトレイン」に乗って私もまた記憶の夢の中にでかける

 ロック・ミュージックの世界で詩人と呼ばれるミュージシャンたちがいる。たとえばそこには、ボブ・ディラン、ジム・モリソン、ルー・リード、といったミュージシャンの名前があがることだろう。そうした人々は、これまでに詩集も刊行され、さらには翻訳もされ、その言葉の文学性が音楽と切り離されて享受されてもいる。ディランにいたっては、2016年にミュージシャンとして初めてノーベル文学賞を受賞している。ディランの初期アルバムではジャケット裏に書かれた長詩によって、音溝に刻まれた言葉とは別の世界から、その音楽の世界に引き込まれた。ディランを聴くということは読むことに等しい、と思っているのだが、それはレコードを聴きながらジャケット裏を埋める文字を、そして、解説ブックレットに掲載された訳詞を、読みながら聴いてきたことと関係があると思う。

 しかし、ロックの詩人というべき人物として、もうひとり忘れてはならないのがパティ・スミスである。しかも、先にあげた人々とは異なり、彼女はもともと詩人として活動し、「Seventh Heaven」や「Witt」といった詩集も出版していたが、やがてバンドで歌い始めたのである。原初的なロックのエネルギーは、彼女のエモーショナルな言葉の奔流とともに加速した。また、夢のような、非現実的な光景が次々と繰り出される幻覚的な詩はサイケデリックでもあり、彼女がアレン・ギンズバーグらビートニクスの末裔であることを感じさせた(2016年6月の、フィリップ・グラスとの〈THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ〉も記憶に新しい)。詩の言葉は世界を凍りつかせることができるが、精神を沸騰させることもできるのだと、彼女の音楽を聴いて思った。性急なロックのビートに乗せて、疾走しながら言葉を投げつけてくる、現代のあるべき詩人の姿がそこにはあった。そして、その音楽はパンク・ロックと呼ばれ、ほどなくしてイギリスに飛び火し、より大きなムーヴメントになった。

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