あたらしいわたしが刻む2020年の証

 「本を読んだり文章を書いたり、ちょっと心を落ち着けて暮らす時間が増えた感じはありますね。もちろん、もっとお仕事したいし、現場ももっといっぱいあったほうが絶対に嬉しいから、それが良かったなとは思ってないけど、でもたぶん、こんなことにでもならないと、自分から休むを取るとかできないタイプなので、ある意味ひと呼吸つく時間をもらった……って思っています」。

 COVID-19の影響でまったくダメージを受けてないなんてことはないが、〈古き良き時代から来ました! まじめなアイドル、まじめにアイドルー!〉のゆっふぃーこと寺嶋由芙は、むしろ逞しくなった印象すらある。6月いっぱいで、4年間お世話になった事務所・ディアステージを円満卒業。その後も持ち前のコミュニケーション能力と知性、愛嬌、誠心誠意で、苦境のなか一歩一歩進んできたゆっふぃーだが、11月に開催した東名神ツアー(東京公演は無観客、配信のみとなった)では、〈あたらしいわたし〉なるタイトルを掲げた。

 「新しい生活様式──自分で選んでなったところもあれば、新しくならざるを得なかったところもあった一年ではあったなとは思っていて。ヴィジュアルがめっちゃ変わるとか、活動形態が変わるとかでもなく、でも、すごく心機一転な年ではあったので、〈あたらしいゆっふぃー〉をツアーでお見せしたいなっていう気持ちでこのタイトルをつけました」。

寺嶋由芙 『みんな迷子/あたらしいわたし』 インペリアル(2020)

 このたびリリースされたニュー・シングル『みんな迷子/あたらしいわたし』でも両A面を飾る一曲にそのタイトルを冠した“あたらしいわたし”。イージーリスニング~ソフト・ロック的なニュアンスを湛えた爽やかなポップ・ナンバーとなったこの曲は、小説家の加藤千恵が作詞、ゆっふぃー作品ではお馴染みの宮野弦士が作曲したもので、2016年のアルバム『わたしになる』の表題曲以来となる顔合わせ。

 「千恵さんが書いてくださった歌詞は、すごくいまの私の気分に合っているなって感じがしました。とくに2サビの〈あたらしいあなたの声が聞きたい〉というところが好きです。自分も新しくなったけど、自分だけが新しくなってるんじゃなくて、たぶん周りの人たちもどんどん新しくなっていくし、それぞれの人生の中でステップアップしてる。誰かと一緒にステップアップ──私の場合、それがオタク(ファン)だったりするんですけど、会えない時期もみんなが新しい生活をがんばってる感じが見えてきて、すごくいいなあって思います」。

 一方の“みんな迷子”は、松井五郎の作詞、山川恵津子の作曲による、エレガントなメロディーを携えた大人の恋歌。ある世代にとっては、安全地帯のロマンチックな詞世界を築いたあの人、渋谷系界隈との邂逅以前の渡辺満里奈の楽曲……といった記憶が甦る、言わば〈古き良き時代〉を作ってきた両名によるもの。

 「〈古き良き時代から来ました!〉ってずっと言い続けてきたんですけど、その時代を本当に作ってこられた方に書いていただいたのは初めてです。正直なところ、お二方については詳しくなかったんですけど、作品を調べてみたらあれもこれもみたいな、知ってる曲が並んでるのを見てすごさを知りました。松井さんの歌詞は、すごく綺麗な歌詞だなっていうのが第一印象で、大人っぽいし、陰のある歌詞ではあるけど、でもすごくピュアな恋心を感じられて。自分の年齢を考えると、いまこの歌詞をいただけるのはありがたいなって思いました。山川さんのメロディーは、言葉の区切りに違和感を持たせる部分を作ったり、だけどしっくりくる、緩急の付け方みたいなところにこだわって作ってくださったと、レコーディングのときに仰ってました」。

 活動の制約はまだまだ続くなか、一年の終わりに届けられた明るい便りであり、ゆっふぃー自身にとってもアイドルとして逞しく生きている大きな証になった『みんな迷子/あたらしいわたし』。美肌も露わな表紙に目を奪われる初のアーティスト・ブック「まじめ」共々、しっかりと抱きしめたい。

 「今年働いた感覚がいまやっとしてきましたね(笑)。春の段階ではどうなってしまうんだろう?って思ってましたから。ちゃんとシングルがリリースできて、思いがけずアーティスト・ブックまで出せたので、ライヴで直接会えなくなった人にも届けられる……それが本当に良かったなって思います(ニッコリ)」。