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二人三脚の成果

 アルバムは前半が〈天国〉でアップリフティング、後半が〈地獄〉でややダークな印象だ。が、全体的を通してポジティヴなアンセム調という点で統一されており、まったくブレることがない。バラードやスロウテンポのナンバーが皆無というのも本人のこだわりで、彼女自身は「“Kings & Queens”に代表されるエンパワーメントなアルバムにしたかったの。リスナーに勇気を与え、力付ける楽曲で構成したかった」と明かしている。

 アルバム全体のプロデュースは、ケイティ・ペリーやケシャ、ウィークエンド、マルーン5などを手掛けてきたカナダ人プロデューサー、サーカットが一手に引き受けている。複数のヒットメイカーが入り乱れる、最近のポップ・アルバムの制作スタイルと異なり、二人三脚による両者の結束が大きな礎と言えるだろうか。もちろん全曲のソングライティングを手掛けるのはエイバ自身だが、共作者にはチャーリー・プースやボニー・マッキーら、プロダクションにはレッドワンやシェルバックといったお馴染みの顔ぶれも助力している。ダンス・ミュージックではあるが、巷に溢れるビート主導のサウンドとは異なって、常にメロディーが主体というのも彼女らしさのポイントだろう。しかも、そのメロディーがどれも懐メロ感満載なのだ。80~90年代を彷彿させる大仰なメロディー大会が繰り広げられているのは、彼女やサーカットが幼い頃に聴き親しんだ親世代の音楽性を引き継いでいるせいかもしれない。

 実際のところ“Kings & Queens”には、あのデズモンド・チャイルドの名もクレジットされており、彼が書いたボニー・タイラー“If You Were A Woman(And I Was A Man)”(86年)のメロディーが挿入されている。なので、同じく彼が関わったボン・ジョヴィ“You Give Love A Bad Name”を彷彿させると話題になったのも至極当然かもしれない。“Born To The Night”にはピーター・シリングの“Major Tom(Coming Home)”(83年)が使われていたり、“Torn”がアバの“Gimme! Gimme! Gimme!(A Man After Midnight)”(79年)のプロダクションをなぞっていたり、“Who's Laughing Now”がエイス・オブ・ベイス的だったりと、どれもわかりやすい形で先人たちの偉業が引用されている。ジョナス・ブルーとコラボした最新シングル“My Head & My Heart”にも、ATCのヒット曲“Around The World(La  La La La La)”(00年)のフレーズが流用されている。記憶の彼方に眠るキャッチーなメロディを現代に蘇らせる。そんなヒップホップ的な大ネタ使いも彼女ならではと言えそうだ。

 そのようにデビュー以来、発表してきたシングルのほぼすべてが網羅された『Heaven & Hell』。収録曲のすべてがシングル・カットできそうなクオリティを誇っており、それにまだスタート地点に立ったばかりの彼女とはいえ、早くも貫禄が見え隠れ。その名に負けないマックス級の活躍が期待できそうだ。

関連盤を紹介。
左から、エイバ・マックスが客演したデヴィッド・ゲッタの2018年作『7』(What A Music/Parlophone)、『Heaven & Hell』に参加したチャーリー・プースの2018年作『Voicenotes』(Atlantic)、ジョナス・ブルーのニュー・アルバム『EST.1989』(ユニバーサル)