スウィートでサイコな天国と地獄をくぐり抜け、世界を最大限に踊らせた華やかなダンス・ポップの宴が日本上陸! 彼女はネクスト・ガガなのか、それとも……?

天国と地獄

 アマンダ・エイバ・コーシが〈エイバ・マックス〉となったとき、男女の姓を超えた力強さが加わった。それこそ彼女が欲していたもので、とてつもなく壮大で近未来的で、高性能なスーパーカーのようなイメージが湧き上がる。豪快なキャラに、ぶっ飛んだファッション・センス。アンセミックなポップ・チューンをダイナミックに歌い上げ、世界の音楽リスナーを一瞬で虜にした彼女。だが、どこへ行っても聞こえてくるのが〈レディー・ガガの再来?〉〈NEWレディー・ガガなの?〉〈どのようにガガを超えるわけ?〉といった比較論だ。もちろんガガ級の歌唱力とルックス、その強烈なインパクトをして比べられるのは当然かもしれないが、〈ガガの二番煎じ〉とされがちな先入観と常に闘ってきた。

 エイバといえば、真っ先に誰もが思うのは“Sweet But Psycho”(2018年)のヒットだろう。だが、このデビュー曲は、もともと彼女の本国USではなく、ヨーロッパからリリースされている。というのも、ガガとの競合、比較を避けるため。あえてUSではなく、ガガの常駐しないヨーロッパを狙ってプロモーションを展開した。ポップ系が強いという地域性も手伝ったに違いない。蓋を開ければ、楽曲先行であれよあれよという間に大ヒット。無名の新人でありながら、UK並びにヨーロッパ諸国で軒並み1位を記録し、その余波を受ける形で母国でもTOP10入り。エイバ・マックスという名を世界に知らしめた。

 出身はアメリカ東海岸のヴァージニア州、両親はアルバニア移民。アルバニア系といえば、デュア・リパ、リタ・オラ、ビービー・レクサなど、近年パワフルな美女シンガーが続々と台頭している点にも注目だ。オペラ歌手だった母の影響で歌いはじめた彼女は、10代ですでにプロをめざす早熟少女だった。14歳で芸能界入りを狙って母親とLAへ移住。いったんは諦めて引き上げるが、17歳で再度挑戦。今度は兄と乗り込んで、デビューのきっかけを掴み、やがて現在に繋がる成功を手にしている。決して平坦な道のりではなかったようだ。

 しかも“Sweet But Psycho”で華々しくデビューを飾った後も、そう簡単には物事は運ばなかった。のっけから余りにも強烈なヒットを放ったがために、それを超えなければというプレッシャーとの闘い、前述した頻繁なガガとの比較、そこで自身の個性をどう打ち出すべきか、といった問題や葛藤と向き合うことに。2019年初頭にほぼ完成していたというファースト・アルバムは、幾度となく練り直しを余儀なくされ、リリースはズルズルと延期された。さらにコロナ禍まで押し寄せるなかでようやく完成したこのアルバム。アルバム・デビューまでの道のりは、まさしくタイトル通り『Heaven & Hell』(=天国と地獄)だったと言えるかもしれない。

AVA MAX 『Heaven & Hell』 Atlantic/ワーナー(2020)

 「アルバム・タイトルは、MTVビデオ・ミュージック・アワードの会場へと向かう途中、車の中で思いついたの。授賞式では“Torn”を披露する予定だったから、その歌詞を復唱していた。そしたら〈天国と地獄の間で板挟み〉という一節にピンと来たの。これだわって。人生はジェットコースターのように、上がったり下がったりを繰り返す。善と悪が常に表裏一体なの。私の肩から天使と悪魔が囁きかけてくる。〈これをすべきか、すべきでないか〉〈これ食べちゃう? 食べちゃダメ?〉ってね。常に決断を迫られているの」。