©Marilyn Hue

ダンスフロアで瞬く輝きはダイアモンドか、それとも涙の粒か――傷心の日々から生まれたアッパーでポジティヴなニュー・アルバムは私たちを最大限に強くする!

もっとも辛かった一年

 2018年に全英1位を獲得し、世界のヒット・チャートを席巻したデビュー曲“Sweet But Psycho”で、颯爽と音楽シーンに登場したエイバ・マックス。以来、コンスタントにヒットを放ち、ポップ・ディーヴァとして確かな地位を築いてきた。パンチの効いたダイナミックな歌声に、奇抜なメイクとファッションを装備したラージャー・ザン・ライフなペルソナ。先発のレディ・ガガやビービー・レクサ、後発のリナ・サワヤマらと並んで、いまやエイバと言えばアンセム調ポップソングの第一人者として最前線に立っている。2020年9月のファースト・アルバム『Heaven & Hell』は全英チャート2位を記録し、評論家筋からも高評価を獲得。ファースト・アルバムでありながら、天国と地獄という二面性にスポットを当てたコンセプト作という点も注目された。アルバムの前半がアップリフティングな〈天国〉、後半がややダークな〈地獄〉という2部構成で、バラードやスロウ・ナンバーは皆無。両極端なキャラを見事に演じ切り、ポップ・エンターテイナーとしての存在感を見せつけた。

AVA MAX 『Diamonds & Dancefloors』 Atlantic/ワーナー(2023)

 以降も新曲を次々と発表し、数多くのコラボを繰り広げてきたエイバだが、約2年半ぶりのセカンド・アルバム『Diamonds & Dancefloors』においては、前作とは異なる領域に歩みを進めている。というのも、アルバムの制作に勤しんでいた2021年に、彼女は大きな破局を経験しているからで、その辛い体験が本作のインスピレーションとなっている。「これまでの人生でもっとも辛い一年だった」と振り返る彼女。メディアにはほぼ知られず、かなり長期間に渡って交際していた恋人がいたそうだ。が、その恋人との別れをきっかけに、これまでの自身の恋愛を反省し、ネガティヴになったり、とことん落ち込んだり……。そのドン底から這い上がるために作ったのが本作だという。華やかなエンタメ界でも、ひときわ輝いているようにしか見えなかった彼女でありながら、実際にはまったく違っていた。もちろんこれまでの作品にも彼女自身の体験は投影されていたけれど、本作にはより人間らしい肉声やメッセージが宿っているのではないだろうか。

 

泣きながら踊るようなアルバム

 例えば2022年4月にリリースされた先行シングル“Maybe You’ve The Problem”で歌われているのは、その元交際相手に対してのメッセージ。〈私のせいではなくて、あなたのせい。悪いのはそっちよ!〉と言い放ち、怒りをぶつけながら自身を励ますエンパワーメント・ソングとなっている。「ついつい自分を責めがちだったけれど、よくよく考えれば交際相手がとんでもない奴だった」という彼女。苦々しい体験が綴られている。続いて9月にリリースされた“Million Dollar Baby”も、傷心によるネガティヴ思考を振り払うかのように「彼女は100万ドルの価値ある女の子なの!」と歌って自身を鼓舞する様子が清々しい。

 なかにはちょっぴりメランコリックな憂いを帯びたメロディーの楽曲も顔を覗かせる。本人いわく「これは泣きながら踊るようなアルバムなの」とのこと。ロビンの傷心ダンス・アンセム“Dancing On My Own”に近いニュアンスだろうか。かつてマーク・ロンソンが『Late Night Feelings』(2019年)のリリース時に、「最高のダンス・チューンとは、ダンスフロアで聴くと踊らせるが、自宅で聴けば泣けるような曲」と言っていたのを思い出す。だからといってシクシク泣いたり、キックやパンチが弱まるようなエイバではもちろんない。イントロこそソフトに入る曲が増えたかもしれないが、Aメロ~Bメロへと移る頃には、ダイナミックなアッパー系へと変遷。ミラーボールがキラキラ輝き、華やかなダンスフロアが出現する。『Diamonds & Dancefloors』ほど、このアルバムに相応しいタイトルというのもないと思われる。

 

懐かしさとモダンさの共存

 アルバム全体のプロデュースと監修を手掛けたのは、これまでと同様、彼女の最大の理解者でありブレーンとして貢献してきたサーカット。カナダ人プロデューサーの彼は、ケイティ・ペリーやケシャ、ニッキー・ミナージュ、ウィークエンドなどを手掛けてきた人物で、最近ではエルトン・ジョン&ブリトニー・スピアーズのコラボ曲“Hold Me Closer”、サム・スミス&キム・ペトラスの“Unholy”といった大ヒットにも関与している。さらに、レディ・ガガやアニッタを手掛けるバーンズ、パニック・アット・ザ・ディスコやセレーナ・ゴメスでお馴染みのジョナス・ジェバーグ、BTSやオリー・マーズのデイヴ・スチュワート、ティエスト&エイバのクラブ・ヒット“The Motto”にも関わったロストボーイことピーター・ライクロフト、リル・ナズ・Xやヤングブラッドを手掛けるオマール・フェディらが共同プロデュースに参加。共作陣には、ワンリパブリックのライアン・テダー、リーランドことブレット・マクラフリン、マディソン・ラヴなど、錚々たるメンツが並んでいる。

 80年代のポップ・シンセ・サウンドがベースとなっているのは前作と同様。が、ウィークエンド『After Hours』(2020年)やデュア・リパ『Future Nostalgia』(2020年)などの世界的ヒットに後押しされたせいなのか、エイバはこの方向性により確かな自信をもって推し進めているという印象だ。シンセの音使いがいっそうダイナミックに大胆になって、はっちゃけ放題。煌びやかでドライヴ感溢れるシンセ・サウンドを聴いていると、ついついレオタード姿でエアロビクスに興じる様子が脳裏に浮かんでしまうのだが。それらの懐かしいサウンドが“In The Dark”や“Turn Off The Lights”といったモダンなクラブ系エレクトロニック・サウンドと、まったく違和感なくアルバム内で共存しているのもおもしろい。ジョルジオ・モロダーやキース・オルセン、ハロルド・フォルターメイヤー、デヴィッド・フォスター、a-haやローラ・ブラニガン、ボニー・タイラーも、きっとご満悦に違いない。

 2022年は、このアルバムの準備のためにすべてを費やしたという彼女。2023年は、本作を引っ提げての初のワールド・ツアーを開催したいと意気込みを語っている。来日公演が実現した際には、ダイヤモンドのようにキラキラ輝きながら、皆をダンスフロアに誘って、ちょっぴり感傷的なエンパワーメント・ソングで踊らせてくれるに違いない。 *村上ひさし

左から、エイバ・マックスの2020年作『Heaven & Hell』(Atlantic)、デヴィッド・ゲッタの2018年作『7』(Parlophone)、アラン・ウォーカーの2021年作『World Of Walker』(MER/ソニー)

 

エイバを支えるサーカットと名裏方たち

 エイバの音世界を一貫して支え続けるサーカットことヘンリー・ウォーター。カナダのトロント出身でLAを拠点とする彼は、もともとMSTRKRFTのフォロワー的なレッツ・ゴー・トゥー・ウォーというエレクトロ・ユニットを組み、00年代後半に世に出てきた人である。ユニットでブリトニー・スピアーズのプロデュースに大抜擢されたのち、2011年には同郷ウィークエンドのミックステープで“High For This”を制作。その頃からドクター・ルークの制作パートナーとして躍進し、リアーナやケシャ、ケイティ・ペリー、1D、ピットブル、ニーヨらのビッグな仕事を手掛けていくことになる。

 そんな彼が独自に飛躍をはじめたのは、9曲を共同制作したウィークエンド『Starboy』(2016年)あたりから。ファーギーやニッキー・ミナージュらとの仕事を経て、秘蔵っ子のエイバが世に出た2018年以降は彼女を軸にしつつ、カニエ・ウェストやマルーン5らの楽曲を制作。昨年はコナン・グレイやFKAツイッグス、ラウヴとも手合わせし、“Unholy”で全米1位を獲得したサム・スミスの新作『Gloria』でも3曲に携わった。その後はミミ・ウェッブの全英ヒット“House On Fire”も続き、いまが旬な名前と言えそうだ。

 なお、『Diamonds & Dancefloors』では全曲をサーカット+共作者が手掛ける形で制作されていて、ガガ × アリアナの“Rain On Me”(2020年)で一気に名を売ったバーンズをはじめ、最近はデュア・リパやベンソン・ブーンを手掛けるジェイソン・エヴィガン、キッド・ラロイやリル・ナズ・Xのヒットで絶好調のオマール・フェディなど、以前から絡むことの多かった名前も多数。そういった共作者たちが多数かぶるベッキー・ヒルやビービー・レクサらの作品と今回のエイバ作品を聴き比べるのも興味深いだろう。 *轟ひろみ

左から、レディ・ガガの2020年作『Chromatica』(Interscope)、ベンソン・ブーンの2022年作『Walk Me Home』(Night Street/Warner)、ベッキー・ヒルの2021年作『Only Honest On The Weekend』(Polydor)、ビービー・レクサの2021年作『Better Mistakes』(Warner)、キッド・ラロイの2020年作『F*ck Love』(Columbia)、ウィークエンドの2016年作『Starboy』(XO/Republic)、ファーギーの2017年作『Double Dutchess』(Dutchess)、ニッキー・ミナージュの2018年作『Queen』(Young Money)、コナン・グレイの2022年作『Superache』(Republic)、FKAツイッグスの2022年作『Caprisongs』(Young)、ラウヴの2022年作『All 4 Nothing』(A5B)、サム・スミスのニュー・アルバム『Gloria』(Capitol/ユニバーサル)、ミミ・ウェッブのファースト・アルバム『Amelia』(Epic)