ダンスフロアで瞬く輝きはダイアモンドか、それとも涙の粒か――傷心の日々から生まれたアッパーでポジティヴなニュー・アルバムは私たちを最大限に強くする!
もっとも辛かった一年
2018年に全英1位を獲得し、世界のヒット・チャートを席巻したデビュー曲“Sweet But Psycho”で、颯爽と音楽シーンに登場したエイバ・マックス。以来、コンスタントにヒットを放ち、ポップ・ディーヴァとして確かな地位を築いてきた。パンチの効いたダイナミックな歌声に、奇抜なメイクとファッションを装備したラージャー・ザン・ライフなペルソナ。先発のレディ・ガガやビービー・レクサ、後発のリナ・サワヤマらと並んで、いまやエイバと言えばアンセム調ポップソングの第一人者として最前線に立っている。2020年9月のファースト・アルバム『Heaven & Hell』は全英チャート2位を記録し、評論家筋からも高評価を獲得。ファースト・アルバムでありながら、天国と地獄という二面性にスポットを当てたコンセプト作という点も注目された。アルバムの前半がアップリフティングな〈天国〉、後半がややダークな〈地獄〉という2部構成で、バラードやスロウ・ナンバーは皆無。両極端なキャラを見事に演じ切り、ポップ・エンターテイナーとしての存在感を見せつけた。
以降も新曲を次々と発表し、数多くのコラボを繰り広げてきたエイバだが、約2年半ぶりのセカンド・アルバム『Diamonds & Dancefloors』においては、前作とは異なる領域に歩みを進めている。というのも、アルバムの制作に勤しんでいた2021年に、彼女は大きな破局を経験しているからで、その辛い体験が本作のインスピレーションとなっている。「これまでの人生でもっとも辛い一年だった」と振り返る彼女。メディアにはほぼ知られず、かなり長期間に渡って交際していた恋人がいたそうだ。が、その恋人との別れをきっかけに、これまでの自身の恋愛を反省し、ネガティヴになったり、とことん落ち込んだり……。そのドン底から這い上がるために作ったのが本作だという。華やかなエンタメ界でも、ひときわ輝いているようにしか見えなかった彼女でありながら、実際にはまったく違っていた。もちろんこれまでの作品にも彼女自身の体験は投影されていたけれど、本作にはより人間らしい肉声やメッセージが宿っているのではないだろうか。