「AA 五十年後のアルバート・アイラー」が2021年1月にカンパニー社から刊行される。

70年に米NYのイースト・リヴァーで変死体となって発見され、34歳で夭折したフリー・ジャズの伝説的存在、アルバート・アイラー。ジャズ、ロック、ファンク、R&B、カリプソ、民謡、ノイズ、インプロ、現代音楽、映画や文学に至るまで、ジャンルを超えて多大な影響を与え続けている音楽家だ。2020年には没後50周年を迎えたが、その実像は未だ謎に包まれたまま。そんな天才の全貌を2020年代の視点から詳らかにする国内初の書籍が完成した。

「AA」は、「Jazz The New Chapter」への寄稿やMikiki/intoxicateでの執筆で知られるライター/批評家の細田成嗣が監修を務めている。出版元は、これまでに「フリー・インプロヴィゼーション聴取の手引き」「ハリー・スミスは語る 音楽/映画/人類学/魔術」「日本フリージャズ・レコード図説」など、ユニークな書籍を世に送り出しているカンパニー社だ。

ミュージシャン・批評家・研究者ら、総勢30名以上が参加・寄稿した本書。緻密な音楽分析をはじめ、既存の評論やジャーナリズムの再検討から、社会・文化・政治・宗教に広がる問題の多角的な考察まで、〈今読まれるべきテキスト〉を収録しているという。さらに、初邦訳のアイラーのインタビューのほか、作品紹介、ポスト・アイラー・ミュージックのディスクガイド、年譜、全ディスコグラフィー、謎多きESPディスク・レコードに関するマニアックなうんちくまでを網羅した、500ページ超の濃密な書籍である。

映画監督の青山真治からは、本書の刊行に際して次のコメントが寄せられている。

かつて『AA』なるインタビュー映画を世に出した。
そのタイトルは「間章(あいだ・あきら)」を意味した。
そこにしばしの躊躇がなかったわけではない。
「AA」といえば「アルバート・アイラー」ではないか。
ダブルイニシャルの呪術の無闇な濫用への畏怖は、
それでもいま現れるこの書物とのさらなる「一にして多」を言祝ごう。

――青山真治(映画監督)

また、1月23日(土)には細田とカンパニー社の代表・工藤遥による刊行記念トーク・イベントが東京・国分寺の〈ART × JAZZ M’s〉で開催される。同イベントでは、「AA」の先行販売も行われるとのこと。詳細は下記に。

「今アイラーについてあらためて考えることは、“偉人”をその偉大さにおいて再評価することではなく、むしろわたしたちがどうすればよりよく生きることができるのかといった、きわめて卑近な問題について考えることでもあるのだ」と序文にあるとおり、本書は、2021年を生きる人々にとって有意義な視点を与えてくれる一冊になっていそうだ。

なお、1月20日(水)にはインパルスの創立60周年を記念して、ユニバーサル ミュージックジャパンが同レーベルの20作品をCDで再発する。アルバート・アイラーの『Love Cry』(68年)『New Grass』(69年)『Music Is The Healing Force Of The Universe』(70年)もリイシューされるので、ぜひ併せてチェックしてほしい。

 


RELEASE INFORMATION
AA 五十年後のアルバート・アイラー
編者:細田成嗣
装丁・組版:田中芳秀
四六判並製:512頁
発行日:2021年1月下旬
本体価格:3,800円(税別)
ISBN:978-4-910065-04-5

■執筆者一覧
imdkm/大谷能生/大友良英/大西穣/菊地成孔/工藤遥/纐纈雅代/後藤雅洋/後藤護/齊藤聡/佐久間由梨/佐々木敦/竹田賢一/長門洋平/柳樂光隆/奈良真理子/蓮見令麻/原雅明/福島恵一/自由爵士音盤取調掛/不破大輔/細田成嗣/松村正人/村井康司/山﨑香穂/山田光/横井一江/吉田アミ/吉田野乃子/吉田隆一/吉本秀純/渡邊未帆

■目次
●序文

I アルバート・アイラーの実像
●アルバート・アイラーは語る
――天国への直通ホットラインを持つテナーの神秘主義者 取材・文=ヴァレリー・ウィルマー 訳=工藤遥
――真実は行進中 取材・文=ナット・ヘントフ 訳=工藤遥
――リロイ・ジョーンズへの手紙 訳=工藤遥
――アルバート・アイラーとの十二時間 取材・文=児山紀芳
●アルバート・アイラー 主要ディスク・ガイド 柳樂光隆 細田成嗣

II コンテクストの整備/再考
▲鼎談 フリー・ジャズの再定義、あるいは個別の音楽に耳を傾けること 後藤雅洋 村井康司 柳樂光隆 取材・文=細田成嗣 註釈=山﨑香穂
●ユニバーサルなフォーク・ソング 竹田賢一
●星雲を象る幽霊たち――アルバート・アイラーのフォーメーションとサイドマン 松村正人
●抽象性という寛容の継承――アメリカの現代社会と前衛音楽の行く先 蓮見令麻
●英語圏でアイラーはどのように語られてきたか――海外のジャズ評論を読む 大西穣
【コラム】アルバート・アイラーを知るための基本文献

III 音楽分析
▲対談 宇宙に行きかけた男、またはモダニズムとヒッピー文化を架橋する存在 菊地成孔 大谷能生 取材・文=細田成嗣 註釈=山﨑香穂
●アルバート・アイラーの音楽的ハイブリッド性について――〈Ghosts〉の様々な変奏に顕れるオーセンティシティ 原雅明
●カリプソとしてアイラーを聴く――根源的なカリブ性を内包する〝特別な響き〟 吉本秀純
●アルバート・アイラーの「ホーム」はどこなのか?――偽民謡としての〈ゴースツ〉 渡邊未帆
●アルバート・アイラーの技法――奏法分析:サックス奏者としての特徴について 吉田隆一
●サンプリング・ソースとしての《New Grass》 山田光
【コラム】シート・ミュージックとしてのアルバート・アイラー

IV 受容と広がり
●アルバート・アイラーへのオマージュ――ヨーロッパからの回答 横井一江
▲インタビュー 《スピリチュアル・ユニティ》に胚胎するフリー・ミュージックの可能性 不破大輔 取材・文=細田成嗣 註釈=山﨑香穂
●むかしむかし『スイングジャーナル』という雑誌でAAが注目を浴びていた――六〇年代日本のジャズ・ジャーナリズムにおけるアルバート・アイラーの受容過程について 細田成嗣
▲インタビュー ジャズ喫茶「アイラー」の軌跡――爆音で流れるフリー・ジャズのサウンド 奈良真理子 取材・文=細田成嗣 註釈=山﨑香穂
●アイラーとは普遍的な言語であり、体系をもたない方法論である――トリビュートを捧げるミュージシャンたち 齊藤聡
●ポスト・アイラー・ミュージック ディスク・ガイド 選・文=細田成嗣

V 即興、ノイズ、映画、あるいは政治性
▲インタビュー 歌とノイズを行き来する、人類史のド真ん中をいく音楽 大友良英 取材・文=細田成嗣 註釈=山﨑香穂
●現代から再検証するアルバート・アイラーの政治性と宗教性――ブラック・ライヴズ・マター期のジャズの先駆者として 佐久間由梨
●録音/記録された声とヴァナキュラーのキルト 福島恵一
●アルバート・アイラーによる映画音楽――『ニューヨーク・アイ・アンド・イヤー・コントロール』をめぐって 長門洋平
●制約からの自由、あるいは自由へと向けた制約――アルバート・アイラーの即興性に関する覚書 細田成嗣

VI 想像力の展開
●破壊せよ、とアイラーは言った、と中上健次は書いた 佐々木敦
●少年は「じゆう」と叫び、沈みつづけた。 吉田アミ
▲対談 祈りとしての音楽、または個人の生を超えた意志の伝承 纐纈雅代 吉田野乃子 取材・文=細田成嗣 註釈=山﨑香穂
●ジャズとポスト・ドキュメンタリー的「ポップ」の体制――《ニュー・グラス》について imdkm
●アイラー的霊性――宗教のアウトサイダー 後藤護
【コラム】ドキュメンタリー映画『マイ・ネーム・イズ・アルバート・アイラー』について

VII クロニクル・アイラー
●アルバート・アイラー 年譜 一九三六—一九七〇 作成=細田成嗣
●ALBERT AYLER DISCOGRAPHY 自由爵士音盤取調掛
――Index of Recording Dates
――第3巻の真実
――スピリッツ講話
――ベルズ報告

●後書
●索引 註釈=山﨑香穂
●執筆者プロフィール

 

EVENT INFORMATION

「AA 五十年後のアルバート・アイラー」出版記念
2021年1月23日(土)東京・国分寺 ART × JAZZ M’s
出演:細田成嗣(ライター/批評家)/工藤遥(カンパニー社)
チャージ:1,000円(別途1オーダー)
学割:600円(別途1オーダー)
ご予約:companysha.aa@gmail.com

国内初となるアルバート・アイラーに関する書籍「AA 五十年後のアルバート・アイラー」が2021年1月末にカンパニー社より刊行されます。そこで出版を記念し、編者の細田成嗣とカンパニー社代表・工藤遥によるリスニング&トーク・イベントを開催いたします。アイラーの名演を流し、その魅力に触れつつ、アイラー本の制作経緯や裏話などを語ります。また、会場では「AA 五十年後のアルバート・アイラー」を先行販売いたします。ぜひお越しください。なお、ご来場いただいた方には〈①マスク着用でのご来店〉〈②ご来店時のアルコール消毒〉〈③休憩時間の店内換気〉のご協力をお願いしております。

※イベントは定員15名・事前予約制となっております。ご来場をご希望される方は、お手数ですがcompanysha.aa@gmail.comまで、メールにて〈来場者名〉〈人数〉をご連絡ください

 


PROFILE: 細田成嗣
89年生まれ。ライター/音楽批評。早稲田大学文化構想学部文芸ジャーナリズム論系卒。2013年より執筆活動を開始。「ele-king」「intoxicate」「JazzTokyo」「Jazz The New Chapter」「ユリイカ」などに寄稿。主な論考に「即興音楽の新しい波」、「来たるべき『非在の音』に向けて──特殊音楽考、アジアン・ミーティング・フェスティバルでの体験から」など。2018年5月より国分寺M’sにて〈ポスト・インプロヴィゼーションの地平を探る〉と題したイベント・シリーズを企画、開催。
Twitter:@HosodaNarushi

PROFILE: ALBERT AYLER
1936年7月13日、米国オハイオ州クリーヴランドで生まれる。62年にスウェーデン・ストックホルムで最初のアルバム『Something Different!!!!!!』を録音。その後NYの前衛ジャズ・シーンに進出し、65年に名盤『Spiritual Unity』をESPディスクからリリース。従来のジャズに囚われることのないフリーなアプローチと歌心溢れるサックス演奏が注目を集める。67年にはジャズの名門インパルス・レーベルと契約し、『In Greenwich Village』を発表。68年以降はヴォーカリスト/作曲家のメアリー・マリア・パークスとともにロック、ファンク、R&Bなどにも接近した音楽を展開。独自のフリー・ミュージックを追求するも、70年11月25日、謎の水死体となってNYのイースト・リヴァーに浮かんでいるところを発見される。享年34。