革新的サウンド・アートで世界を挑発した自爆型インディ・レーベル

ジェイソン・ワイス 『証言 ESPディスクの時代 アメリカでもっとも先鋭的なレコード会社の物語』 ジーンブックス(2022)

 アルバート・アイラー、オーネット・コールマン、マリオン・ブラウン、ミルフォード・グレイヴス、ファグス、ホーリー・モーダル・ラウンダーズ、ゴッズ、パールズ・ビフォー・スワイン、クロマニヨン、パティ・ウォーターズ、エリカ・ポメランス……名前を列記する手が止まらない。書いているだけでワクワクしてくる。そんな音楽家たちの作品を60~70年代に大量に送り出したニューヨークのインディ・レーベル〈ESP〉。実質稼働期間は60年代後半の数年間だった(2005年から再稼働)にもかかわらず、その作品群の特異性と先鋭性、レーベルの強烈な個性は半世紀以上にわたり、マニアックなリスナーたちの間で神格化されてきた。本書は、謎に包まれてきたその活動実態の詳細を報告した貴重なインタヴュー集である。

 全400ページ強の最初の120ページほどは創設者バーナード・ストールマンのインタヴュー及び代表的音楽家や作品の簡単な解説、レーベルの略歴などに充てられ、残り300ページ弱は音楽家や関係者 (エンジニアやジャーナリスト、親族)の証言でびっしりと埋められているのだが、最大のポイントは、ストールマン本人と関係者たちの言葉や見方に多くの齟齬があることだろう。わかりやすく言うと、音楽家たちに金を払ったのか払わなかったのか、である。儲けはなかったとか米政府に弾圧されたとか他社に騙されたりした(けど精一杯の誠意は示した)と語るストールマンに対し、大半の音楽家は一度もギャラを受け取らなかったと主張する。一部の音楽家からはボロクソに言われ、ほとんど詐欺師扱いのストールマンだが、しかし総話として最終的に浮き上がってくるのは〈よくぞこれらの音を記録して世に出してくれた〉という歴史的意義への感謝の思いだ。そう、運営は確かに杜撰だった(と本人も認めている)けど、20世紀の音楽史に対するESPの貢献と影響は絶大だったのである。

 音楽のことをほとんど知らない中年弁護士がたまたま観たアイラーのライヴに衝撃を受け、無名に近いフリー・ジャズや前衛フォークの音楽家たちに制作上の制約や条件を一切課することなく自由に録音させ、それを次から次へと世に放っていった。「作品内容はすべてアーティストの意思によるもの」というレーベル・スローガンを掲げながら。あの時代だったからこそ起こり得たインディ・レーベルのファンタジー物語ではある。しかし今、そこから我々が学ぶべきことは少なくない。