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〈アメリカ音楽のまがいもの〉が放つ強烈なオリジナリティー

ところで、本作にはそうしたオリジナル曲のほかに、カヴァー曲も豊富に収められている。そして細野は、オリジナルとカヴァーの間を自在に往復する。まるで両者がシームレスであるかのように。カヴァーであっても自分のフィルターを通すことでオリジナリティーを持ちうるし、逆にオリジナル曲は過去の音楽の影響を色濃く受けているという意味でカヴァーの延長線上にある。本作中でオリジナルとカヴァーを行き来する彼の軽やかな身振りからは、そんな認識が透けて見える。

そしてそれは本作に冠された〈あめりか〉という、ひらがな表記のタイトルにも投影されているように思えてならない。幼少期から現在に至るまでアメリカ音楽に憧れ続けてきた、日本人として鳴らす音楽である、という自覚がそこには滲んでいる。それはどこまで行っても〈アメリカ音楽のまがいもの〉であるかもしれないが、〈まがいもの〉であるからこその強烈なオリジナリティーを放っている。

そんな〈まがいもの〉ゆえの輝きを放つ独特の音楽は、本場の聴衆の心をも着実に掴みはじめている。アメリカ公演の実現は、その何よりの証左であろう。そしてまた、本作にゲスト出演しているシンガー・ソングライターのマック・デマルコも、細野の音楽に心を奪われた一人だ。彼はかつて、細野のオリジナル曲“HONEY MOON”を完コピし話題となったこともある。その“HONEY MOON”では、憧れの細野と同じステージに立ち、少年のようにはにかむマックの姿が音の端々からうかがえ、聴いていて思わず微笑ましい気分になる。

マック・デマルコによる細野晴臣“HONEY MOON”のカヴァー
 

オリジナルとコピー。本物と偽物。本作をずっと聴いていると、そんな区別など、もはやどうでもいいものに思えてくる。遥か昔から受け継がれ、そして遥か未来にまで続いていくであろう、音楽という途方もなく豊かな営みがある。それだけで十分ではないか。この新たなるライブ・アルバムの傑作は、いたずらっぽい茶目っ気を交えてそのことを教えてくれる。